病気や自死などで親を亡くした遺児の大学生のうち、4人に1人が、新型コロナウイルスの感染拡大の影響などで「退学を検討したことがある」と答えたことが、遺児を支援する一般財団法人「あしなが育英会」の調査で分かった。
親の収入減に加え、学費に充てるつもりだったアルバイト代も見込めないことから、高校生が大学進学を諦めるケースも。遺児世帯が困窮を深めていることから、あしなが育英会は奨学生1人当たり20万円の緊急支援金を、12月中に給付することを決めた。11月30日の記者会見で発表した。
医療費払えず「ごまかすしか...」
「子どもがバイト先でもらってくる廃棄の食料で、なんとか食費を切り詰めています」
夫と死別した埼玉県内の50代女性は、大学2年生の息子と2人で暮らす。息子は高校生の頃からあしなが育英会の奨学金を受けている。
緊急事態宣言が出た4月以降、パート勤務先のファミレスは客が激減。シフトは週5日から3日に減った。通常は1日5時間の契約だが、客の数次第で2時間で切り上げるよう求められる日も。年収は昨年より30万ほど下がり、100万円を切る見通しという。
「一番の不安は医療費を払えないこと。体調を崩しても、数年前に処方された解熱剤や痛み止めの薬でしのいでいます。具合が悪いのを“ごまかす”しかないです」
「あしなが育英会」は10月23日〜11月5日、高校・大学の奨学生とその保護者を対象にアンケートを実施。2877世帯(計6241人、内訳:高校生1674人、大学生1690人、保護者2877人)から回答があった。
バイト代見込めず
調査では、遺児の大学生の4人に1人が「2020年度に入ってから退学を検討したことがある」と答えた。あしなが育英会によると、特に首都圏や関西の都市部で大学生たちの困窮が深まっているという。
「1日1食しか食べないようにしている」「バイトができず、収入が減った親に頼るしかないのがつらい」といった訴えもあった。
1月と比べ、9月時点でアルバイト代が「減った」または「なくなった」と回答した大学生は約半数に上った。
あしなが育英会広報部の新元愛美さんは、「バイト代を見込んで大学に進学した学生は多い。コロナの感染拡大でシフトに入れず、貯金を切り崩す生活で、この状況が続くなら希望が持てないと訴える学生もいます」と話す。
一方で、退学・休学を検討している理由では、
「モチベーションが続かない/就学の意欲がわかない」(11.5%)
「家計が苦しくなり授業料が払えなくなった」(6.2%)
の順で多かった。
あしなが学生募金の事務局長で、自身も遺児の岡本蓮さんは記者会見で「学校が再開した小中高と異なり、大学ではオンライン授業が続いていることで、気持ちが勉強についていかないことがあるのでは」と述べた。
高校生「進学したいと言えない」
コロナの影響で、進路変更を余儀なくされている遺児たちの実態も浮かび上がる。
高校生からは「大学進学を考えていたけれど、奨学金の給付があっても家計の負担が大きい。進学を諦めました」「親が生活費の工面に苦労をしているのを見ると、進学したいと言えない」といった声が複数寄せられた。
岡本さんは、「もともと遺児たちは今を生きるのが精一杯で、コロナという別の要因がきた時にはもう後が無い」と訴える。
調査では、全世帯のうち36.7%が「コロナで収入が減った」と答えた。勤務形態別では、パート・アルバイトまたは派遣社員・契約社員が全体の4割を占めている。
あしなが育英会は4月以降、コロナ禍に対応するため、全奨学生約6500人を対象に緊急支援金15万円を給付していた。コロナの影響が長期化していることから、全奨学生を対象に、新たに「年越し緊急支援金」として20万円を給付する。
あしなが育英会は保護者を対象に、12月19日(土)と20日(日)の午前11時〜午後6時に電話相談窓口を育英会内に開設することも発表した。
遺児らの教育支援の寄付は公式サイトで募っている。