「10 Minute Walk」は、2050年までに全米の都市に暮らすすべての人が徒歩10分圏内で、安全で豊かな緑地を利用できるよう、各都市の首長と連携して活動している。
今日のパンデミックの課題の中で一つ確かなことがあるとすれば、それは人々が公園を必要としているということだ。ミシガン州デトロイトの1000エーカーあるベルアイル・コンサーバンシーからカリフォルニア州オークランドの小さな「パークレット」にいたるまで、強いストレスや孤立感に苛まれるこの時期に、公園や自然が人々にとって休息をし、人と繋がり、人々の意見に耳を傾けるために欠かせないものだということは明らかだ。(翻訳=梅原洋陽)
屋外スペースの需要が急増する中、全米の都市は、人々が公園や緑地により良く、より健康的な方法でアクセスできるように創造性に富んだ方法をとってきた。サンフランシスコでは、閉鎖された公共のゴルフコースが公共の緑地へと姿を変えた。さらにオークランドからロードアイランド州プロビデンスまで、人々がソーシャルディスタンスを守って運動ができるように、数キロにわたり車の通行を禁止した。公園をヨガスタジオとして利用したり、屋外の教室として利用する方法を模索する都市もある。
こうした空間の新たな利用方法はどれも、都市において自然が果たす重要な役割に光を当てたものだ。しかし、すべての緑地へのアクセスが平等でないことに注目している地域もある。
ありがたいことに、市長や都市計画者、公衆衛生の提唱者、政策の専門家や非営利団体など地域に密着した人々のネットワークを通じて、私たち「10 Minute Walk」はこのような状況を変えようとしている。この活動は、NPO「The Trust for Public Land」の主導で全国的に知られるようになった。
「10 Minute Walk」のビジョンはシンプルだ。2050年までに、米国の都市の100%の人々が、徒歩10分以内に安全で質の高い緑地を利用できるようにするというもの。
この「100%」という公約には、既存の公園への安全なアクセスの確保や、既存の公園や緑地の質の向上、最も需要がある地域への新たな公園の造営など、いくつかの目標が含まれている。
世論も、われわれの考えを後押ししている。最近の全国調査では、都市部在住の米国人のうち70%が新型コロナウイルス感染症の流行中、地元の公園や緑地が身体的・精神的に重要な役割を果たした、と認めていることが分かった。さらに71%の人が、自宅から徒歩10分圏内で行ける公園や緑地へのアクセスがよければ、生活の質が向上すると答えている。この野心的な目標を達成するため、私たちは米国の都市のリーダーたちと協働し、公園や緑地の重要性に関する認識を高めようとしている。そして、これからの都市を計画する人にとって、最重要事項になるよう働きかけている。
およそ300の都市がこの取り組みに参加しており、多くの都市で「100%目標」に向けて大きな前進が見られる。そしてそれぞれでさまざまな取り組みが行われている。
コロラド州デンバー:90%の住民が公園まで徒歩10分圏内に暮らす
デンバーは、環境に配慮した政策とサステナビリティ分野における先進性に定評がある地域だ。何十年もの間、デンバーはこの分野でリーターシップを発揮してきた。最近ではサステナビリティと気候変動への取り組みを促進するための、明確で測定可能な目標を発表している。その中には、2050年までに温室効果ガスの排出量を80%削減するというものも含まれる。また、デンバーは公園やレクリエーション事業の未来を見据えた「20年ビジョン」を策定しており、これは市の都市計画の中心になっている。
市は最近、長期的で持続可能な公園の創造と管理を行っていくために、革新的な資金調達方法を含む売上税法案を承認している。2019年、デンバーはこの調達方法によって、公園や小道、オープンスペースの確保、拡張、メンテナンスのために3700万ドル(約39億円)を捻出すると見積もっている。デンバー市長も、公園の一つひとつがさらに大きな計画の一部を担う重要なものであることを理解している。
地元の非営利団体もまた、こうした目標を達成する上で重要な役割を果たしている。例えば、「Bicycle Colorado」は、「10 Minute Walk」の助成金を利用し、デンバーの2つの地域で公園や学校へのより良いアクセスを探す若者や家庭が安全なルートを見つけられるようにしている。
ワシントン州タコマ:住民の69%が公園へ徒歩10分圏内に暮らす
タコマは、難民の人口が国内最大規模であり、シアトルの人口増加と発展の影響を受けている地域だ。私たちは「10 Minute Walk」の地域支援金を用いて、シアトルの多様なバックグラウンドを持つ難民に代わり、地域の公園や緑地のニーズに対応した、地域主導の公園の活性化を支援している。私たちは活動する上で、この地域を重視してきた。それは、ワシントン州の中で最も民族的に多様性に富んだ都市で、難民の移住先や定住先として主要な地域だからだ。
ここで紹介した地域は、緑地へのアクセスを増やすことを、住民の気持ちを代弁して主張する一部の都市だ。私たちは今後も地域のリーダーや団体と活動をし、野心的な目標を掲げ、全米各地でより良い変化を促進しながら、具体的で持続的な影響をもたらしていきたいと考えている。
Benita Hussain Director, 10 Minute Walk Campaign
ベニータ・フセインは、全米300都市で公園や緑地へのアクセスを拡大することを目指す「Trust for Public Land」が主導する国民運動「10 Minute Walk」の責任者を務める。「10 Minute Walk」は最近、『Fast Company』の世界を変えるアイデアを称える「World Changing Ideas Awards」の政治・政策部門の最終候補に選ばれた。それ以前は、前ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏の政策アドバイザーを務め、世界的な気候変動アジェンダや気候変動と戦う市長連合の設立に貢献した。モリソン&フォースターの元弁護士で、コーネル大学で理学士号を、フォーダム大学ロースクールで法務博士号を取得。
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