コロナ禍で生活が苦しくなった人たちのために、店のパンを無償で提供していたイタリア・ミラノの店主の男性が、新型コロナウイルスに感染し、亡くなった。住民たちの憩いの場として愛された店の主との別れに、悲しみが広がっている。
「ご自由にお持ちください」
ニューヨーク・タイムズによると、3月にイタリア北部でコロナの感染拡大と経済への影響が深刻化した際、ミラノのパン屋の店主ジャンニ・ベルナルディネッロさんは、チャイナタウンにある自分の店の外にパン、ピザ、お菓子がたくさん詰まったバスケットを並べ始めた。
バスケットの上の看板には、「必要な方はご自由にお持ちください。他の人のことも考えて」などと記されていた。
パンを待つ人たちが気兼ねしないよう、ベルナルディネッロさんは食材を置くと、すぐにその場を離れたという。
同紙の取材に、友人で顧客のアレッサンドラ・デルカさんは「彼は売れ残りを出していると話していたが、私は焼き立てのパンを外に出しているところも見ました」と語っている。
「人がいつも必要とする商品を」
ベルナルディネッロさんはその後、新型コロナウイルスに感染。11月9日、ミラノの病院で亡くなった。76歳だった。
彼は、娘たちが自宅にいるよう求めたにもかかわらず、感染するまで毎日自分の店に通いパンを作り続けたという。
現地メディアによると、ベルナルディネッロさんは1943年12月、ミラノ近郊の町で生まれた。家計を支えるため、12歳で金細工職人の見習いとして働き始めた。模型飛行機メーカー、写真家など職を転々。「人がいつも必要とする商品を売りたい」と思い立ち、老舗パン屋で修行を積んだ後、自身の店を開いた。
志を継いだ娘
自らのニックネームにちなみ、店名は「ベルニ」と付けた。地元住民がコーヒーを飲みに立ち寄る憩いの場になっていた。
新型コロナウイルスの感染拡大で、「ベルニ」は住民たちが砂糖やパスタ、トマトソースなどの食料品を必要とする人たちに無料で提供する場所になった。
娘のサムエラさんは「父は、『人々は常にパンを必要としている。私たちに助けることができるなら、それをしなければいけない』と話していました」と振り返る。サムエラさんが、パン屋の事業を引き継いだという。