ダウン症者の家庭、低所得者層少なく「漠然とお金がかかるという不安あるのでは」日本ダウン症協会など調査

日本ダウン症協会などが、ダウン症のある人たちや親の生活実態や幸福度に関する調査を実施。背景には、出生前診断で分かっても、将来像が見えにくいという課題がある。
会見に出席した日本ダウン症協会代表理事・玉井邦夫さん
会見に出席した日本ダウン症協会代表理事・玉井邦夫さん
Nodoka Konishi / HuffPostJapan

日本ダウン症協会と日本ダウン症学会は、ダウン症のある人たちや親の生活実態や幸福度に関する調査を行い、11月18日、中間報告の記者会見を開いた。

その中でダウン症者の家庭に低所得者層が少ない実態が分かったといい、日本ダウン症協会の代表理事・玉井邦夫さんは「漠然とした経済的な不安から出産をちゅうちょする人がいるのではないか」との見解を示した。

出生前診断で分かっても、将来像が見えにくい

調査は協会に所属する会員(ダウン症のある子ども本人や家族)全員の4471人にアンケートを送付し、1581通の回答を得た。ダウン症のある本人の健康状態や就労状況、保護者側の精神状態などについて尋ねた。

玉井さんは会見で調査の目的について、日本には知的障害というくくりでのデータはあるが、ダウン症としての健康度や生活実態などのデータはないと説明。協会としてデータを蓄積することで発信力を高めるという狙いに加え、新型出生前診断(NIPT)などを行う際の遺伝カウンセリングでも具体的なデータとして活用する狙いがあるとした。

背景には、ダウン症は母親の血液で行う新型出生前診断(NIPT)やクアトロテスト、羊水検査など多くの出生前診断で対象となっており、出産前から不安や葛藤を抱え、情報を求める親がいるという事情がある。

日本ダウン症協会理事・水戸川真由美さん
日本ダウン症協会理事・水戸川真由美さん
Nodoka Konishi / HuffPostJapan

お腹の子どもにダウン症があると分かっても、その保護者を支える仕組みや情報は不十分だ。玉井さんは「現行の遺伝カウンセリングは、生物学的なダウン症の知識は提供できても、社会的な障壁とその克服については有益な語り口を持っていない」とする。

協会の理事・水戸川真由美さんは「子どもにダウン症があると分かった時、ほとんどの親はネットを見る。妊婦さんの中の不安の一つには将来像が見えにくいというところ。でも小さい頃の情報はあっても成人してからのことは見つかりにくいし、正確な情報でないものもある」と指摘。「きちんと安心できる情報を提供したい」と調査の意義を強調した。

漠然とした経済面への不安で出産をちゅうちょか

玉井邦夫さん
玉井邦夫さん
Nodoka Konishi / HuffPostJapan

現在は単純集計をした第一報の段階。細かな分析はこれからだが、家庭の収入を見てみると、低所得者が厚労省の国民生活基礎調査と比べて少ないことが読み取れるという。

2018年、2019年の国民生活基礎調査では年間所得300万円未満の世帯はいずれも3割を超えているが、今回の調査では14.4%だった。 

玉井さんは「理由は明確ではない」としつつ、障害を持った子どもの出産をちゅうちょしたり中絶を選んだりする理由として、経済的な懸念を訴える声が聞かれるとし「お金がかかるという不安が保護者の側にあるのではないか」という可能性を示した。 

また、成人した段階でおよそ8人に1人が最低賃金法が適用される雇用についていることが分かり「予想よりも多い」という点や、親が周囲との関係の中でストレスよりも励ましを感じていることなどを解説した。

玉井さんは会見後「ダウン症のある子を育てるのにいくらお金がかかるかを調べた調査は私が知る限りない。中絶に経済的な理由が挙げられるのは漠然とした不安からではないか。これからより調査を分析することで、正しい知識を届けられるようにしたい」と話していた。

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