新型コロナウイルスの感染拡大で、急速に在宅勤務が広まっている。
「通勤の時間がなくなった」「自分の仕事に集中できる」。
在宅勤務の良い面に注目が集まるが、もちろんいいことばかりではない。
IT会社「サイボウズ」社長の青野慶久さんは、「在宅勤務だからパフォーマンスが出せるとは限らない」と実感している。
ゲストとして登壇した「SHARE SUMMIT 2020」で、「テレワーク時代のオフィス」について自社のエピソードを紹介した。
社員からの悲鳴
サイボウズでは2月末ごろから数カ月、全社員が在宅勤務に切り替えた。しばらくすると、ひとりの社員から“悲鳴”が上がった。
同居人も在宅勤務で、その社員にとって、在宅勤務は自分の仕事だけに集中できる環境ではなかったという。
オフィスで隣にいない分、目に見える「成果」を通してでしか、他の人の働きぶりや様子が見えづらくなっている。
「パフォーマンスが出せなくて、このままいくと給料が下がるのでは...」と不安に感じていた社員に対して、青野さんは「我が家も一緒。今の状況は異常なので、気にしないで」とメッセージを送ったという。
「妻や夫、パートナーも一緒に在宅勤務だったら、ビデオ会議の場所を探すのだけで大変。さらに子供がいたら、ビデオ会議が大好きだから、入ってこないようにするだけでも一苦労です」
また社内用チャットで、仕事以外のプライベートのことでも気軽に会話するよう促すと、書き込みの数が以前と比べて“5倍”も増えたという。
「それだけ、口頭のコミュニケーションがたくさんあったということですよね。それをケアしていかないと、なかなか気持ちよく働けないと思います」
晒されても、安全な空間づくり
他の部署の行動を可視化するため、サイボウズでは社内のビデオ会議を誰でも参加可能にした。さらに、青野さんが会食や移動に使った経費といった情報さえも、オープンにされているという。
「そこで大事になってくるのが、心理的な安全性」だと青野さんは訴える。
「ある意味オープンなので、自分の情報が晒されるわけです。(それに対して)誹謗中傷の感じで突っ込まれると、隠したくなる」
SNSに例えて「今のインターネット、Twitterは誹謗中傷されるので、オープンだけど安全じゃない。(職場も)いかにオープンで安全な空間を作れるかが大事です」と説明した。
同じくゲスト登壇した高橋正巳さんが最高戦略責任者を務める「WeWork」でも、運営するシェアオフィスの利用者の「心理的な安全性」が担保されるような空間づくりが意識されているという。
WeWorkのシェアオフィスは、個室もガラス張りのところがほとんどで、視線を遮る壁が少ない造りになっている。
「双方向にオープンで、お互いが見える。自分のオフィスが散らかっていたら見えてしまうし、隣の様子も分かる。その関係性が、ある種の安全性を生んでいるのかなと思います」
「バーチャルや組織であっても、初めは自分のチームに対して、今まで共有していなかった内容を共有するのはちょっと勇気がいりますが、双方向であることが重要。リアルの場でも同じです」
コロナ禍のオフィスの形
新型コロナの影響が続く中、このまま在宅勤務が永遠と続くのか、以前のオフィス勤務に戻るのか、それともオフィスと在宅勤務の共存となるのか。
WeWorkは、共同設計したPayPayの新しいオフィスに、コロナ禍のオフィスの形を見出そうとしている。
在宅勤務継続や三密回避を念頭に、オフィスの総席数を約75%減らし、従来の968席から228席に大幅削減。代わりにデスクワーク、チーム作業、ディスカッション、コミュニケーションといった役割ごとに、4つのゾーンに分けたという。
高橋さんは「オフィスの役割が変わってきている」と実感している。
セッションには、NTT東日本の畑中直子さん(地方創生推進部担当部長)も登壇。自社の取り組みや、借り手のつかない駅前のビルや物件をワークスペースとして活用しようとする地方圏の傾向などを紹介した。
今年の「SHARE SUMMIT」は、新型コロナウイルスの影響でオンライン開催。事務局によると、参加登録者数は約3400人で、過去最大規模となった。