「夫の嫌なところは、全部ADHDのせいだった」人気YouTuber ナカモトフウフの発達障害との付き合いかた

ADHDの特性を持つ夫に対して、「何でわたし成人男性の子守りしてるんだろう」と感じた妻が起こした行動とは…? 人気YouTube動画クリエイターのナカモトフウフに、パートナー目線での発達障害との付き合い方について聞きました。

沖縄を拠点とし、夫婦の日常を発信する人気YouTube動画クリエイターのナカモトフウフ。夫・ダイスケさんと妻・ちゃんまりさんが、クオリティの高い映像で夫婦のデートや中古車のDIYの様子、ファッション、暮らしの道具などを紹介し、人気を集める。2020年10月現在、チャンネル登録者数は17万人を超えている。 

そんな彼らの動画のなかで最も再生回数が多いのは、ダイスケさんのADHD(注意欠如・多動症。発達障害の一種)を、ちゃんまりさんの視点で紹介する動画だ。動画の再生回数は400万回を超え、ナカモトフウフはADHDに関する動画をその他にも複数公開している。

夫婦がADHDとともに暮らす様子に触れて、ふと考えさせられる。

障害とは果たして、どこに、どのように存在するものなのだろうか。筆者もADHDの当事者だが、周囲との関係や置かれた環境によって私たちの特性の表れ方が大きく変化するのは、日々実感するところだ。

紆余曲折を経て障害についての発信を始め、今も障害とともに生きるナカモトフウフに、リモートで話を聞いた。

夫・ダイスケさんと妻・ちゃんまりさん
ナカモトフウフさん提供
夫・ダイスケさんと妻・ちゃんまりさん

 「何でわたしが成人男性の子守りをしてるんだろう」

ものを失くす、電気をつけっぱなしにする、使ったティッシュを捨てずに散らかす━━。

沖縄で同棲を始めた頃、妻のちゃんまりさんはそんな夫のダイスケさんに対して「何でわたし成人男性の子守りしてるんだろう」と思ったという。 

ダイスケさんにADHDがあることは、交際が始まる時に伝えられていた。しかし、ダイスケさんだけを頼りに名古屋から沖縄に移住し、友人もいないまま共同生活を始めたちゃんまりさんは、慌てふためくことになった。

「物理的な困りごと、例えばティッシュが散らかっているなら捨てればいいだけなので、耐えられました。でも、何かに集中しているときのダイスケさんとの会話で、言った・言わないということが毎日のように出てきてしまい、会話が噛み合わないのは辛かったです。

友達にさらっと相談したことはあったんですけど、『素敵な旦那さんじゃん』『うちのほうがだらしないよ』と言われてしまい、自分の受け入れる力が足りないのかなと感じて。今振り返れば、カサンドラ症候群(※)のような状態になっていたと思います」

※カサンドラ症候群とは、医学的な定義はないが、一般的には発達障害のある夫を持つ妻が苦しみを周囲に理解されない状況を指すことが多い(偏見を生む場合もあるので、この名称の使用には注意が必要だ)。筆者も、妻をカサンドラ症候群のような状態にさせてしまったことがある。 

唐突に涙を流し始める妻を見て、病院に行った

ナカモトフウフにとって転換点となったのは、“ワイパー事件”だった。

「本当に些細なことなんですけど、車のワイパーが壊れていて、『ワイパー変えなきゃね』『そうだね』という会話を何度もしていたのに、ダイスケさんは忘れていて。『もしかしてわたしが言ったつもりになっちゃっただけで、実は言ってなかったのかな』と疑心暗鬼になっていました。

わたし自身の障害も疑って、ADHDやアスペルガー(ASD)、うつなどのチェックリストを片っ端からやってみましたが、どれもいまいち当てはまらなくて、対処のしようがなかったんです」(ちゃんまりさん)

ダイスケさんはかつてから生きづらさを感じ、10年近く前に一度、ADHDの診断を受けていた。しかし専門性の高い病院ではなく「いまいちよくわかっていなかった」という。

「同棲を始めた頃のちゃんまりはいきなり泣き始めることがあったり、これで怒るのかというところで怒ったりすることがありました。彼女は穏やかな性格で、感情をむき出しにするタイプではないので、我慢してくれていたんだと思います。それを見て『これは俺ヤバいわ、人と一緒に暮らすとこんなに迷惑をかけるのか』と思って、病院のセカンドオピニオン、サードオピニオンを受けに行きました」(ダイスケさん)

夫・ダイスケさん
ナカモトフウフさん提供
夫・ダイスケさん

“感情”と“情報”をわけてADHDを知る

この頃から、夫婦は改めて共に歩んでいく方法を模索し始めた。ちゃんまりさんは、ADHDについて詳しく情報収集をし、核心に手を伸ばした。 

「ADHDは、感情に関係のない障害だと思いました。ひたすら感情を抜きにして、特性をただ情報として知っていくことを意識していました。

つまり、ADHD特有の行動自体に、感情が乗ってないんですよね。『汚してやろう』『忘れものしてやろう』という気持ちでそうしているわけではなく、『なんかいつの間にかここにティッシュが置いてある』という感じで、無意識なんです。ある意味で、ダイスケさんは教科書通りの行動をしているわけですよね。それに対してこちらが感情でぶつかっていってしまうと噛み合わないんです。感情が乗っていないことに対して感情で返しても意味がないので、感情はいったん抜きにして、理論通りの対応をするようにしました。同じ立場でやる、というか。

情報として客観的に理解したらダイスケさんへの見方が変わっていきました。そして、ダイスケさんの好きなところと嫌なところを書き出してみたら、嫌なところは全部ADHDのせいだったと気づきました」(ちゃんまりさん)

ダイスケさんは通院を続け、そのプロセスをちゃんまりさんへと詳細に伝えていった。

「精神科の先生から、なぜか唐突に『牧場を紹介するから牛を育てながら家具を作らないか』と言われて、『牛を育てたいわけでもないし家具を作りたいわけでもないよな』と、僕は逆に感情を中心に話していましたね。そして、ちゃんまりから言われたことを素直に聞く、言い訳しないということを心がけました」(ダイスケさん) 

妻・ちゃんまりさん
ナカモトフウフさん提供
妻・ちゃんまりさん

4、5年前の当時は、2020年の今ほどにはYouTubeや記事、書籍でADHD当事者の声に触れられるような状況ではなかった。そんななか、少ない情報を頼りにしてちゃんまりさんがコミュニケーションの術を見出したのは、ある経験があったからだった。 

「3年ちょっとの間、写真館でヘアメイクの仕事をしていて、七五三などの撮影に来る小さい子どもたちと接していました。泣き叫ぶ3歳の子どもに、着替えをさせて、手脚を揃えさせて、笑顔で写真に映ってもらう必要があって、そのときのやりとりが役に立っていると最近気づきました。

子どもたちは、『なんで自分が嫌だと言っているのに着物を着させようとするんだ』というアピールをしますし、長時間の撮影に飽きます。そこで、なぜ嫌なのかを聞き出して、お互いに納得した上で、『これは嫌だからやめて、こっちだけやろっか』と妥協点を探っていく作業ですね。たくさんの子どもたちと、本気でそういったやりとりをしていたんです。

感情はそれぞれに理由があって、『嫌だ』『やりたくない』という感情自体は否定してはいけないと思います。否定せずに受け入れて、解決策を出す。それをそのままダイスケさんにやっている感じです」(ちゃんまりさん)

ダイスケさんはちゃんまりさんの話を聞き、「頭ごなしに言われないところは心地いいですね。別に赤ちゃん言葉で話しかけられているわけではないので」と笑う。

夫・ダイスケさんと妻・ちゃんまりさん
ナカモトフウフさん提供
夫・ダイスケさんと妻・ちゃんまりさん

ハンデはハンデ。ただ、好きな人に苦しんでほしくないだけ

今のダイスケさんは、ADHDを「個性ではなく障害です」と言い切る。

「ハンデでしかないですよね。それを認めてからでしか、本当の道みたいなものは見えてこないなと感じます。

ADHDは、“愛がない”という障害ではないと思うんです。いちばん好きな人が苦しんでいたら、それをどうにかしたい。自分が原因なら、なおさらです。そこを試行錯誤して見つめた結果、これはハンデ以外のなにものでもないな、と立ち返りました。それはそれで受け入れて、できるだけ豊かな暮らしをしてもらうこと、『ありがとう』と『ごめんね』を伝えることを強く意識しています」(ダイスケさん)

ちゃんまりさんはそんなダイスケさんを振り返り、本人の向き合い方も重要だと語る。

「本人にどうにかしようという気持ちがなくて、パートナーだけが頑張っても仕方ないです。そこに障害は関係ないかなと思います」

ちゃんまりさんが隣で語る言葉から、障害と付き合っていくための鍵が見えてきそうだ。

「障害は『2人が困っていること』になるわけだから、そこはもう2人で乗り越えていいんじゃないかな、と考えました。

『障害をポジティブに捉えられるようになった』というようなコメントをいただけると嬉しいです。もともとわたしは、安定をすごく求めていたほうだったんですけど、ダイスケさんと出会ってから、自分だけでは見られない世界を見られるようになりました。だったらその世界を一緒に見た方が得なのかな、こういう生き方もありなんだな、と。

あきらめ半分、やけくそ半分で楽しんでみようと思っています」 

夫・ダイスケさんと妻・ちゃんまりさん
ナカモトフウフさん提供
夫・ダイスケさんと妻・ちゃんまりさん

(文:遠藤光太/編集:毛谷村真木)