2020年の2月、私はワクワクしながら大学2年の春学期を迎えた。
なぜなら、ジェンダー平等における取り組みが非常に進んでいるオランダの大学で、ジェンダーのクラスを2つ履修することが決まっていたからだ。
しかし、希望を胸に教室に入った私は、少なからずショックを受けた。
1つのクラスには男性が1人もおらず、もう片方のクラスにはヘテロセクシュアル(※)の男性が1人もいなかったのだ。どちらのクラスにも、女性は約20名いたにもかかわらず。
どちらの授業の内容も、クラスメイトたちとの議論も非常に面白く、履修してよかった、と思えるクラスだった。
しかし、「ジェンダー問題は女性や性的マイノリティの問題」であり、ヘテロセクシュアルの男性はその問題に関心を示さないという悲しい現実を、日本から約1万キロ離れた異国の地で、突きつけられてしまったのだ。
※ヘテロセクシュアル…異性を好きになり、性的な欲求も持つ性的指向のこと。
世界で最も早く同性婚が実現したオランダ
世界経済フォーラムが発表したジェンダーギャップ指数 2020でオランダは38位にランクインしている。オランダ国内では「去年よりも11ランク落とし、多くの西洋諸国に抜かれた」と批判の声も上がっているが、同ランキング121位の日本と比べると、ジェンダー問題への取り組みは進んでいるように感じる。
では、なぜこのようなことが起こるのか? オランダのジェンダー問題への取り組みを少し紐解いてみたいと思う。
男女の格差のみが取り上げられているジェンダーギャップ指数には反映されていないが、オランダはLGBTQ+といったセクシャルマイノリティの人々の権利平等に向けた取り組みが非常に進んでいる。
例えば、オランダでは2001年に世界で初めて同性婚が可能になった。約20年後の2019年に発表されたデータによると、約9割ものオランダ人が、「ヨーロッパ中で同性婚が認められるべき」「同性間で性的関係を持つことは何も問題ない」と回答したという。性別適合手術をせずに戸籍上の性別を変えることや、子どもを持つために養子縁組をすることも可能だ。
男女の賃金格差はオランダの大学でも
一方で、オランダでは国会議員や政府高官、そして管理職における女性の比率は低く、その点がジェンダーギャップ指数に影響しているようだ。
リポートによると、「経済」の項目では、0.702で60位、「政治」の項目では0.276で40位など、平均以上の指数が算出されたものの、欧米各国に比べると遅れをとっている。
日本の「経済」項目は0.598で115位、「政治」の項目は0.049で144位だ。両国とも、「経済」と「政治」分野における男女格差が大きいものの、それぞれの分野の小項目のうち「収入における男女格差」「専門職や技術職における男女の比率の差」「管理職につく男女の人数の差」「女性国会議員の比率」「女性閣僚の比率」で大きな差がある。
また、私が在籍するライデン大学の2019年の発表では、同大学の約3割の教授が女性であり、その割合は増えている。
しかし、私のクラスを受け持った男性講師や教授たちが、学期末に実施される学生からの匿名アンケートに女性の講師や教授に対してミソジニーなコメントがしばしば寄せられること、さらには、彼女たちに支払われる給料は同じポジションにいる男性と比べて少ないということを漏らしたこともある。
オランダで学生生活を送る中で、私が直接男女差別に遭遇した経験はなかったものの、日本と比べてはるかにジェンダー平等に関する意識が進んでいるオランダでも、その土壌が完全に取り払われたわけではないのだ。
とはいえ、日本の女性たちと大きく異なるオランダの女性たちの姿に驚かされることは多い。
言いたいことを言い、着たい服を着るオランダの女子学生
例えば、オランダの女子学生は、男子学生以上に、積極的に発言しているように感じる。
ミーティングであれ授業であれ「自分の意見を言うこと」は、欧米では往々にして求められていることだとは思うが、特にオランダの女子学生が発言するときの積極性には圧倒される。
外国語の授業では、非常に簡単な文法の用法について質問し、我先にと発言して盛大に間違えているオランダの女子学生を何度も目にした。間違えたり、簡単なことを質問したりして、「馬鹿にされたらどうしよう」とはあまり考えないようだ。時に「無礼」とも評される、思ったことをはっきりと伝えるオランダ人にとって、「陰口を叩かれるのでは」と心配すること自体、少ないのかもしれない。
また、女性が見た目にあまりこだわらない点も興味深い。
1年を通して悪天候が多いにもかかわらず、主な移動手段が自転車のオランダ。そうしたライフスタイルも影響しているのか、オランダの女子学生はジーンズとダウンジャケット、ほぼノーメイクといったスタイルが多く、彼女たちは「周りからどう見られるか」ではなく、「自分にとって本当に実用的で必要か」という軸で服を選び、メイクをしている印象を受ける。
自分で自分の在り方を決められるのが当たり前、そんなオランダの同世代の女の子たちをうらやましく感じることはあった。
今こそヘテロ男性の連帯が必要
私の周りでジェンダー問題を解決していこうと積極的にアクションしている人の多くは、日本でも海外でも、女性や性的マイノリティの人たちだ。確かにヘテロセクシュアルの男性でジェンダー問題について積極的に学び、その解消のために尽くしている人もいるが、残念ながら少数だ。
私は小学校から大学まで、国内外合わせて4つの学校に通ったが、日本の女子校に在籍した期間のうち数年のみ校長が女性で、ほかは全員男性だった。どの学校でも、女子生徒の数は、半分程度かそれ以上であり、女性の先生は相当数いたのにも関わらず。
トップに女性や性的マイノリティを増やすことはもちろん必要不可欠だ。しかし、最終的に社会や組織のルールを作り替え、変革をもたらす上で大きな力を持つのは現状、ヘテロ男性であり、彼らとの連帯は不可欠なのだ。
ジェンダーというトピックが、女性や性的マイノリティの問題であり「自分とは関係ない」とヘテロセクシュアルの男性がみなすのではなく、理解と是正に努めていくことが、今本当に求められていることなのではないのだろうか。
(取材・文:佐藤翠/編集:毛谷村真木)