減少傾向にあった全国の自殺者数が、7月を境に増加が続いていることを受け、厚生労働大臣指定法人「いのち支える自殺対策推進センター」(JSCP)が10月21日、記者会見を開き、コロナ禍の自殺の動向について分析結果を報告した。7月以降、特に女性の自殺者数が大幅に増加している背景に、人気俳優の自殺報道や、新型コロナウイルスによる生活環境の変化などが影響している可能性を指摘した。
減少傾向から一転、7月から増加に
JSCPは、統計数理研究所の椿広計(つばき・ひろえ)所長に協力を得て分析した。使用したデータは、警察庁の自殺統計、雇用や生活支援の政策に関する統計、SNSやネット検索、電話相談窓口に寄せられる声などだった。
警察庁の統計によると、2020年の全国の自殺者数は以下の通り。
2020年の全国の自殺者数(暫定値、10月15日集計)
1月 1680人(1684人、前年比4人減)
2月 1450人(1615人、同165人減)
3月 1748人(1856人、同108人減)
4月 1495人(1814人、同319人減)
5月 1575人(1853人、同278人減)
6月 1561人(1640人、同79人減)
7月 1840人(1793人、同47人増)
8月 1889人(1603人、同286人増)
9月 1828人(1662人、同166人増)
※( )内は2019年の統計
1〜6月までは前年同期比で減少し、特に4、5月は減少幅が大きかった。これに対し、7月には増加に転じ、8月は286人(15.1%増)、9月は166人(9%増)と大幅に増えた。
男女別では、8月は男性1229人(前年比90人増、7.3%増)、女性660人(同196人増、29.7%増)、9月は男性1188人(同27人増、2.3%増)、女性640人(同139人増、21.7%増)で、いずれも女性の増加率の高さが際立っている。
死への恐怖、連帯感の高まりで減少か
なぜ4月〜6月は例年より減少していたのか。
JSCP代表理事の清水康之さんは会見で、「社会的危機の最中や直後には、死への恐怖や社会的連帯感・帰属感の高まりで、自殺者数が減少することが多くの研究で報告されている」と分析。「もともと自殺リスクを抱えた人たちが『辛いのは自分だけじゃない』と考えたことで、この期間中は自殺行動に至らなかった可能性が考えられる」としている。
4月以降、新型コロナウイルスの対策として、政府による緊急小口資金と総合支援資金の貸付件数が増加した。一方で、収入減少や生活苦に関する不安に関するツイート数が減少したことから、「政府が打ち出した支援策によって生活不安がある程度払拭された可能性がある」(清水さん)という。
俳優の自殺報道で一転、増加に
減少傾向が一転したのは7月。俳優の三浦春馬さんが自殺したことが報道された直後から、特に若年層の自殺者数が例年に比べ大幅に増加した。
JSCPによると、三浦春馬さんが亡くなった報道の直後の7月18日〜24日では、前年同期と比較すると10代〜30代の自殺が多かった。
今回データ分析の対象となった相談機関には、「自殺報道で心が揺れて怖い。自分も自殺してしまいそう」「ニュースを見て、死にたい気持ちが呼び起こされてしまった」といった相談が増えていたという。
7月以降は様々な年代において、女性の自殺が増加傾向にある。これについて、JSCPは経済生活問題や勤務問題、DV被害、育児の悩み、介護疲れなど様々な問題が背景にあることを指摘。「コロナ禍において、自殺の要因になりかねない問題が深刻化していることが、女性の自殺率の増加に影響を与えている可能性がある」とみている。
高校生、8月は過去5年で最多
8月には高校生の自殺者数が42人で、過去5年間で最多となった。うち女子高生は22人で、2015年〜2019年の3〜9人と比べても多かった。
SNSで相談を受ける「生きづらびっと」には、特に女子中高生から「休校明けでクラスが変わり、馴染めなくて辛い」「家族がずっと家にいていらいらしていて、ストレスのはけ口にされている」「オンライン授業についていけない」といった、コロナ禍の影響がみられる相談が相次いでいるという。
JSCPは今後、データ分析をさらに進めるほか、芸能人の自殺防止に向けた取り組みも検討しているという。
NPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」の代表も務めている清水さんは「多くの相談窓口がパンク状態にある」と強調。「相談員を増やすなど、相談の受け皿を強化しないといけない」として、相談体制の強化の重要性を述べた。
<相談したい時は>
電話やSNSなどで相談を受け付ける窓口を検索できる厚労省の専用サイトはこちら。
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