検索される恐怖に怯えた日々。夫の逮捕でブログ急上昇【加害者家族の告白】

実名報道記事が出た当日。数百程度だったアクセス数が数万に跳ね上がった。

加害者家族について取り上げた記事に対して、1通のメールが届いた。

送り主は、公務員の夫(当時)が逮捕され実名で報じられた関東に住む女性。家族として謝罪し「つらい気持ちを吐き出す場もなく苦しかった」とつづられていた。

話を聞かせてもらいに、女性に会いに行った。

夫が実名報道された影響は、ブログの急上昇という形で表れたという。

「(女性の名前)」「夫」「逮捕」

管理画面には、自分を調べようとするワードが並んだ。女性が明かした検索される恐怖とは、どんなものだったのか。

取材に応じる女性
取材に応じる女性
Rio Hamada / Huffpost Japan

まさか夫が... 音を立てて崩れた

始まりは2015年冬。

まさか、夫が常習的にのぞきをしていたとは、疑ってもみなかった。

夜中に出勤したはずの夫が、職場に来ていないという連絡が寄せられた。まず疑ったのは交通事故。重傷を負ったのか、亡くなってしまったのか。

幼い子供もいて、あてもなく飛び出すわけにもいかない。明け方になっても見つからなければ、捜索願を出さなければと考えていた。

朝5時。警察署からの電話。「ある事件の被疑者に服装が似ているので、話を聞いているだけ」と伝えられた。その時はまだ、すぐに疑いが晴れて釈放されるだろうと思っていた。

期待は裏切られた。

「電話がかかってきて、『逮捕しました』と。本当に腰が抜けると言うか、地べたに座りこむような心境でした。口の中がカラカラになって、血の気が引いていく。ガラガラと音を立てて崩れるというは、まさにこれだという感覚でした」

「実名で新聞記事にも載るだろうし、組織でどれぐらいの話が広がるのか想像がつくので、『終わった...』と思いました」

夫に対する勾留請求は却下され、逮捕の翌日に釈放された。家に帰って謝罪する夫に事の顛末を聞くと、他人の住居に侵入した容疑だった。

公務員のため、実名で逮捕されたことが新聞記事で報じられた。ネットにも掲載され、知人など多くの人に知られる羽目になった。

事件はのぞき目的で、女性は後になってから、夫が常習的にしていたことを知った。

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ブログのアクセス急上昇

実名報道の影響は、ブログの急上昇という形でも現れた。

当時、自宅を職場としていた女性は、Facebookやブログに個人情報を載せていた。報じられたニュースと、自分が発信していた情報とが紐づけられ、ブログのアクセス数が急増。もともとは数百程度だったのが、記事が出た当日は数万にも跳ね上がったという。

管理画面を開くと、アクセスした人が検索したワードとして、「女性の実名 夫 逮捕」といった単語が並んでいた。

「何で調べられているのかも分かるんです。検索ワードを見るたびに、ブログを開くのも発信するのも嫌になりました。夢を持って、仕事を一生懸命頑張っていたのですが、それも精神的に続けることが難しくなりました」

自分のことを調べようとする「検索」は、数カ月にも及んだという。

また当時、日常的に投稿していたFacebook。唐突に更新をやめると、不審に思われて、事件のことを知られてしまうかもしれない。そんな不安から、それまでと同じように更新を続けたという。

ネットは見ない方がいいと分かっていても、どうしても気になってしまう。女性が検索すると、不祥事をまとめたサイトにたどり着いた。

あるコメントで、女性や夫について触れ「この人、事件があったのに普通にスーパーにも来ている。よく(夫と)一緒に住んでいられるものだ」などと書かれていた。

文面から、近所に住む友人としか思えない書き込みだった。

それ以上は書いて欲しくない。

女性は、誰だか気付いていない振りをして「申し訳ありません。私たちにも生活がある。個人が特定されるようなことは書かないでください。何か迷惑をかけていることがあれば、直接言ってきて欲しい」と書き込んだ。

返ってきたのは、「あなたたちの存在が迷惑だ」という辛辣な言葉だった。

「私はそれでも気付かないふりして、水に流すというか、今はその人と仲良くしています。かなりショックでした」

Facebookやブログもその後にアカウントごと消去した。

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自然と出た「申し訳ありませんでした」

女性は責任を感じた。公務員なのに、手錠をかけられた夫への痛ましさもあった。夫の母親に報告する際、「申し訳ありませんでした」という言葉が出たという。

「私が謝る話じゃないですけど、何をどうすればよかったかという答えは未だに分かりません。何となく妻として、責任の一旦を自然と感じていました」

3人の子供たちには迷わず伝えた。当時中学1年、小学3年、3歳だった。

「噂にもなるでしょうし、特に中学生の子には、外から聞くよりもあらかじめ知らせておく方がいいと思いました。父親がいなくなったら不審に思うじゃないですか。隠しきれることではなかったです」

実際、長男は中学校で先輩から、父親の名前や家にいるのかどうか聞かれたという。

子どもに何かある前にと学校に連絡すると、こちらが事情を伝える前に既に知られていた。情報が広まる早さにもショックを受けた。

取材に応じる女性
取材に応じる女性
Rio Hamada / Huffpost Japan

誰も直接、声をかけてくれなかった

ネットの反応とは対照的に、近所や周囲の人たちの自分たちに対する態度は「腫れ物に触るよう。視線が刺さるようで痛かった」と振り返る。

「大丈夫?」と声を掛けてくれたのは、1人しかいなかった。

加害者家族は、家族が逮捕されたという負い目や、人に危害を加えたという理解を得られない内容から、周囲に相談できずに孤立してしまう。

女性も当時、誰にも相談できない苦しみを抱えていた。

「経済・社会的な制裁は家族も同じように受けるわけですけど、声を発することをはばかられるところがある。本当に非日常的なことなので、そこを耐えているということも知ってほしいです」

親や近い友人に話そうとしても、反応に困った様子や話題を変えようとする素ぶりを感じとり、それ以上は話すことはできなかったという。

女性は「加害者家族もつらい思いをしています。ただただ、話を聞いて欲しかった」と訴える。

取材に応じる女性
取材に応じる女性
Rio Hamada / Huffpost Japan

法廷にも立ち、被害者からは訴えられた。

夫は事件が原因で職を追われた上、慰謝料を求めて被害者から訴えられたという。

「家計に関わることなので、任せていたらしょうがない」と、女性が前面に立って対応した。

減刑や被害者との示談交渉のために弁護士に助言を求めたり、妻として法廷に証人出廷したりもした。家族を守るため、考えつく限りの手を尽くした。

少し後になってから、周囲から声を掛けられた際「なぜそこまでして支え続けるのか」と聞かれることもあった。

悪気のない、励ましの言葉だとは分かっている。それでも、「自分の気持ちを反映した言葉ではなかった」という。

「特に子供たちがいて、持ち家があり、生きて行かなといけない。(自分の)収入もこれから作ろうというところに大打撃でした。自分の気持ちなんかは後回しにせざるを得なかったんです。選択の余地はありませんでした」

それに見合った夫の反省の態度や感謝は、女性には感じられなかった。

夫の再就職も難航し、女性も自宅でしていた仕事を続けることができなくなり、新たに会社に就職した。

生活圏内で事件のことが知れ渡っていた。気持ちの切り替えがうまくできず、誰かの幸せそうな姿を見ると、自分の状況と比べて落ち込むことも多かったという。

「その環境から卒業したい」

家も買って間もなかったが、夫とも別れ、身を隠すように違う土地へと引っ越した。

取材に応じる女性
取材に応じる女性
Rio Hamada / Huffpost Japan

だからブログに助けを求めた

見るのも嫌になって、一度は消去したブログが、女性を助けることになる。

つらい気持ちを吐き出す場を求めて、新たにアカウントを開設した。鬱憤を晴らすように、事件のことや心境を匿名で、いくつもいくつも書き連ねた。

ある時、急にアクセスが伸び始めたという。再び注目されることに恐怖も感じた。でもこの時は、自分への好奇の眼差しとは違う。他の加害者家族からの共感や、応援の声だった。

「連日数万アクセスがあり、すごい反響でした。同じ境遇の人ばかりが見ているわけでないと思いますが、『私も実は夫が逮捕されて...』『全く一緒です』というコメントやメッセージをたくさんもらいました」

事情を知る人やブログを見た人からは「前向きですね」という言葉をかけられるという。今回の取材の際にも、自分の身に起きたことに正面から向き合い、力強く語っている印象を受けた。

本人の捉え方は違う。

「マイナス思考で、いつも半泣きになっている感覚」と明かす。

「足がすくむような未来のことを考えると、『消えて無くなってしまいたい』『死んだほうが楽かな』と思ったことも何回もあります。死ぬようなことではないと思われるかもしれませんけど、疲れてしまい、ふとそう思うことはあります」

そんな中でも、自分の経験を伝えることで、救われている人たちがいるのを知った。

「読んだ人から、『励まされた』『プラスのエネルギーをもらった』といったようなコメントをもらった時は、すごく勇気付けられました。そう言ってもらえるのは、私の喜びでもあります」

「もちろん、批判的なコメントをする人もいました。それに対する恐怖心よりも、応援してくれる人たちの存在の方がはるかに大きかった。そういう人のためにも、発信していくことの意味を感じました」 

加害者家族で、自責の念にかられる人は少なくない。

世間の風当たりも強い。被害者を憐れむ気持ちが、激しい処罰感情となって降りかかってくる。そうして、加害者家族はどんどん追い込まれていく。

女性も心無い言葉を浴びせられた。迷惑をかけてはいけないと直接謝罪をした人からは、土下座すべきだと言われたこともある。

「(その人たちは)明日は我が身だということを分かっていません。自分は大丈夫と思っていても、ある日突然、家族が死亡事故を起こしてしまうということだってある。そんな時に、心無い言葉をかけられたらどんな気持ちになるのか。自分に置き換えることが全くできないのだと、驚くしかありませんでした」

取材に応じる女性
取材に応じる女性
Rio Hamada / Huffpost Japan

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アンケートは全15問、5分〜10分程度です。

 

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