「卒アル」撮り直しませんか?大学院生らがクラファンに取り組む理由。「『私らしい私』と言える写真に」

「卒アル上書きプロジェクト」では、「高校まではメイクは禁止。大人になったらマナー」という、社会の「メイクにまつわる価値観」を考えるきっかけを作ることにも挑戦している。
卒アル上書きプロジェクトメンバーの、阿部洋子さん、小野万優子さん、伴ちひろさん(左から)。
卒アル上書きプロジェクトメンバーの、阿部洋子さん、小野万優子さん、伴ちひろさん(左から)。
卒アル上書きプロジェクト提供

人に見せたくない卒業アルバム、「好きな自分」の写真で上書きしませんかーー?

卒業アルバム(卒アル)の写真を“好きな自分”で撮り直すサービスを実現させるため、大学院生らがクラウドファンディングに取り組んでいる。

プロジェクトの背景には、「高校まではメイクは禁止。大人になったらマナー」という社会の風潮への疑問が込められており、卒アルを通じて、社会における「メイクにまつわる価値観」を考えるきっかけを作ることにも挑戦している。

クラファンのリターンでは、高校生などに向けたメイク講座付きの撮影プランも準備しており、「自分が楽しく生きられる選択肢の1つを探す感覚で参加してもらえると嬉しいです」と呼びかけている。

教員の「すっぴんが、一番きれいな時期」の言葉に…

卒アル上書きプロジェクト」を発案したのは、東京大学大学院1年の小野万優子さん。理念に共感した、友人の伴ちひろさん、阿部洋子さんと共にクラファンに取り組んでいる。

プロジェクトの背景には、小野さんが福岡県で過ごした高校時代に感じていたことがあった。

通っていた高校では、化粧、眉毛を抜くこと・剃ること、まつげパーマや髪を染めることなどは禁止だった。

小野万優子さん
小野万優子さん
Akiko Minato/HuffPost Japan

メイクをしたがる生徒たちに対し、教員が「(高校生は)すっぴんが、一番きれいな時期」「化粧しなくていい時期で、楽じゃない」となだめるような発言をしたのを聞いて、複雑な気持ちになったという。

「私は高校時代、肌荒れに悩んでいたので、この言葉を聞いて、『みんなはきれいなのに、私はきれいじゃない…』と思ってしまった。眉毛が元々うすめなのも気になっていて、『ちょっとでいいからメイクができれば』と思っていました」

自身の悩みも踏まえ、高校時代にこう考えていたという。

「見た目についての悩みがきっかけで、学校にいる間、気持ちが沈んでいる人もいるんじゃないか。メイクの選択肢があることで、日々を明るく過ごせる人がいるなら、メイクはしてもいいんじゃないだろうか」

実際に、文部科学省が2020年8月に発表した「第18回 21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)の結果」によると、18歳の「悩みや不安」の中では15項目(複数回答)のうち、「自分の容姿に関すること」を選択した人は、女子では2番目に多い20%、男子では6%だった。

卒アル撮影「メイクできたら、もっと笑えたかも」

小野さんにとって、メイクができない中で撮影した卒業アルバムの写真は、「自分の一部しか写っていない」もののように感じた。

メイクができないことは、自身の表情にまで影響があったと感じている。

「『どう写るんだろう』と不安を感じて、緊張してしまった。メイクできたら、もっと笑って写れたかもと思います」

小野万優子さん
小野万優子さん
Akiko Minato/HuffPost Japan

卒アルの写真は本来、「一生もの」になっていいはず。なのに、自身にとってあまり見たくないものになってしまった。一般的にも、「人に見せたくない」「自分でも見たくない」という意見を聞く。

「卒アルの写真は、『これが私らしい私です』と言えるものであって欲しい。自分らしさって素だけじゃないと思うんです。自分に何かがプラスされたものも、自分らしさだと思います」

「『しちゃダメ』でも『しなきゃダメ』でもない、自由な選択肢としてのメイク」

一方で、大学に入ったとたん、メイクは「するのが当たり前」という空気を感じた。

大学の入学オリエンテーションでは、メイク用品の試供品を配っているのに遭遇した。嬉しい一方で、ひっかかりもあった。

クラファンに一緒に取り組む伴さんからは、こんな話も聞いた。大学1年生の時、アルバイト先の社員から「今日化粧してなくない?次からしてきてね」と注意されたという内容だった。企業や職種によっては、メイクが義務のこともあると知った。

高校までの「しちゃダメ」から、「するのが当たり前」に変わったのを実感した。

「でも、『みんながメイクしなきゃいけない』というのも苦しい。化粧をしたい人はする、したくない人はしない、日によって・気分によって変える、のもいい。『する』『しない』『どんなメイクをするか』も全て、個人の選択肢になって欲しい」

「『しちゃダメ』でも『しなきゃダメ』でもない、自由な選択肢としてのメイクを広めたいです」

卒アル上書きプロジェクトメンバーの、阿部洋子さん、小野万優子さん、伴ちひろさん(左から)。
卒アル上書きプロジェクトメンバーの、阿部洋子さん、小野万優子さん、伴ちひろさん(左から)。
卒アル上書きプロジェクト提供

小野さんは、「今回の取り組みを、新しいプレッシャーにはしたくないんです」とも強調する。

「『コンプレックスを隠そう』『化粧をしよう』と言いたいわけでもない。メイク用品は高いものも多いですし、肌が弱くて化粧はできないという方もいると思います。でもまずは、メイクに関する議論にもつなげられれば、と思っています」

「過去の自分を、封印して欲しいわけじゃない」 

「卒アル上書きプロジェクト」支援のリターンでは、実際に撮影サービスを受けることができる。高校生対象(メイク講座 なし790円/あり990円)、大学生・社会人向け(メイク講座 なし1290円/あり1490円)などから選べる。

メイク講座はメイクをあまりしたことがない人向けで、道具はプロジェクト側が準備する。

撮影プラン(メイク講座あり)に申し込んだ場合の流れ
撮影プラン(メイク講座あり)に申し込んだ場合の流れ
卒アル上書きプロジェクト

撮影は都内で、11月以降に行う予定だ。グループでの参加もできる。制服の着用は自由。

撮影写真はデータで受け取れるほか、卒業アルバムの顔写真の上に貼れるよう「4cm×3cm」の顔写真サイズの貼って剥がせるタイプも配送する。

剥がせるタイプの写真にしたのにも理由がある。

「過去の自分を、封印して欲しいわけじゃないです。過去の自分を否定するわけではないけれど、『こういう自分も好き』と思いながら、写真を貼ってみて欲しい」

「自分が楽しく生きられる選択肢の1つを探す感覚で参加してもらえると嬉しいです」

集まった資金は、撮影スペースレンタル費用、写真印刷費、化粧品購入費などに使う。

学生に可能な限り低価格でサービスを提供するために、「全額応援プラン」として、プロジェクトを賛同・支援してくれる人も募っている。目標金額は20万円で、10月31日まで

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