都市封鎖された中国湖北省・武漢市で取材を続け、2月上旬に行方不明になった市民ジャーナリスト・陳秋実(ちん・しゅうじつ)さんについて、親交の深い男性が「陳さんは今もある機関の監視下にあるが健康だ」と近況を明かした。
男性は具体的な根拠を示さなかったが「情報が正しいと時間が証明してくれる」と自信を見せている。
■「共産党を恐れてなるものか」涙ながらに叫ぶ
陳秋実さんは中国の市民ジャーナリスト。
2019年8月には香港で、逃亡犯条例改正案への反対デモの現場を取材した。自身の TwitterやYouTubeで情報発信を続けてきたが、大陸の公安当局などから取材をやめて北京に戻るように要求されていた。
当時は弁護士という立場での香港入りだったが、香港を離れる際、空港で弁護士証をカメラに見せながら「これは私の弁護士証です。本土に戻ったら私のものではなくなるかもしれません。私は賢い人間ではありません」としつつも、取材に入ったことに後悔はないと話していた。
陳さんはその翌年、新型コロナの影響で都市封鎖されるのとほぼ同時に武漢入り。「この目で見たことを記録する。武漢市民の声を伝える」と話していた。
その後は数日にわたり市内の病院などを取材。診察待ちの人々でごった返し、遺体も放置されている現状などを動画でリポートしていた。
しかし、陳さんは2月6日を境に支援者と連絡が取れなくなった。陳さんと親交が深い格闘家の徐暁冬(じょ・ぎょうとう)さんは、陳さんの両親から得た情報として「感染の危険があるため強制的に隔離された。14日で解放されなければ事態を重く見る必要がある」と話していた。
陳さんは行方不明になる前の1月末、自身のYouTubeで、自身が感染したり、拘束されたりする可能性について触れていた。武漢市内の宿泊場所で撮影したとみられる動画では、涙ぐみながらカメラに向かって「死ぬことも怖くない。共産党を恐れてなるものか」と叫んでいた。
■起訴されない可能性も
陳さんは、当初予想されていた14日を過ぎても連絡が途絶えたままだった。
友人の徐暁冬さんが続報を伝えたのは約7カ月後の9月17日。自身のYouTubeチャンネルで「信頼できる情報によると、秋実は今健康だ」とした。
一方で「今もある機関の監視下にあり、家に帰ることはできていない。場所は言えないが、すでに武漢市にはおらず、(武漢のある)湖北省でもない」と続け、「今までかなり厳しく調査がされてきたが、秋実は今のところ起訴される予定はないということだ。彼は裁判にかけられない」と語った。
徐さんは情報の具体的な根拠を示しておらず、支援者が運用しているとみられるTwitterアカウントも行方不明のままだとしている。徐さんは「バカなことを言っていると、言いたければ言ってくれ。信じなくてもいい。ただ私の情報が正しかったと時間が証明してくれる。いつ解放されるかは分からないが、そんなに先のことではない」と自信を見せている。