家族へのカミングアウトは一度で伝わらなかった。YouTuberかずえちゃん「線で結んでいくのが大切」

ゲイだと伝えた後の「タブー期」を経て、恋人のことをオープンに話せるまでの道のり。
YouTuberのかずえちゃん、Zoomインタビューにて
YouTuberのかずえちゃん、Zoomインタビューにて
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

「自分が子どものころに教えてもらいたかったことを伝えたい」

そう話すのはYouTuberのかずえちゃんだ。LGBTQ当事者へのインタビューやゲイである自身の経験、そして恋愛相談や旅行体験などを投稿するチャンネルは、登録者数8万4000人を超える人気だ。

2020年7月で、YouTubeでの活動は5年目に入った。この節目に、自身のカミングアウトストーリーや、コロナ禍で見えたLGBTQの「今」、今後の活動について聞いた。

家族にカミングアウトしたはずが…「結婚まだ?」

20代の頃、当時の恋人とハワイに行った時
20代の頃、当時の恋人とハワイに行った時
かずえちゃん提供

2016年7月にYouTubeを始めてから家族との距離がすごく縮まりました。24歳で両親らにカミングアウトしているんですけど、当時は「言うぞ」と覚悟を決めて言ったんですよ。

家族は「うんうん」と聞いてくれて、伝えることができたと自分は思い込んでいました。

ところが29歳ぐらいの時に母が「まだ結婚しないの?」「女の子と結婚すれば?」と言い出したんですよ。「男の人が好きって言ったじゃん」って言うと「え、そうなの?」みたいな感じで。

母が理解していなかっただけなのか、分かりません。自分は一回カミングアウトしたら分かってくれているものだと思っていて、「一回で分かってよ」「何度も言いたくない」という気持ちもありました。なのでカミングアウト後は、「伝えてはいるけれど、その話はタブー」みたいな、逆に気まずい雰囲気になってしまっていたんですね。

カミングアウトする前よりも、この「タブー期」の方が居心地悪かったです。

カミングアウトを線で結んでいくのが大切

Getty Images / HuffPost Japan

僕には、4歳下と10歳下の妹がいます。24歳で初めて家族にカミングアウトをした時、中学生にはまだ早いと当時思って、下の妹には僕も家族も伝えていませんでした。

その数年後、僕は当時のパートナーとカナダで暮らしていたのですが、下の妹が1人で日本から遊びに来ることになりました。男の人と住んでいることを来ていきなり知ったらびっくりすると思って母に「(妹は)僕が男の人と住んでるって知ってるの?」と連絡したら、母が「知らないよ。伝えておくね」と言いました。

カナダに来た妹は、「そうだったんだ」「いいじゃん」みたいな感じでした。1週間ほど3人で生活していた間、妹が僕たちの写真を家族のLINEにバンバン流していたんですよ。そこから「こういう彼氏なんだ」「幸せにやってるんだね」とか分かってくれた。この事をきっかけに、今まで家族のみんなが本当はめちゃめちゃ聞きたかった話を、話せるようになりました。

それから家族とは「カナダは結婚ができるんだよ」「じゃあ、あなたも結婚できたらいいね」という話が当たり前にできるようになって。日本に帰国して始めたYouTubeの動画も見てくれているので、両親も「LGBTQってこんなにいるんだ」と知るようになりました。

妹も子どもが生まれているので「自分の子ども達が当事者だったらどうする?」といった色んな話ができるようになりました。カミングアウトをしてからすぐにこうなれるのではなくて、線で結んでいくのがとても大切だなと感じました。

初めて家族にカミングアウトをしたあの時、なぜか中学生の妹にはまだ早いって思ったんですよね。でも先日、姪っ子甥っ子を預かった時にビデオ通話先のゲイカップルを紹介して、「結婚してるんだよ」とか教えたら、最初は「え?」という感じだったのが、「どんな結婚式したの?」とか質問しだして。

子どもは自分で噛み砕いて考えるから、「子どもにLGBTQを教えるべきか、まだ教えない方がいいか」とか難しくしているのは大人側なのだと思いました。今は「かずえちゃんはまだ恋人できないの?」って聞いてきます(笑)。

Jun Tsuboike / HuffPost Japan

100人のLGBTQには、100通りの違いがある

2017年から毎年10月11日のカミングアウトデーに「LGBTQ100人のカミングアウト」動画を配信しています。

きっかけはYouTubeを始める前の、2015年のカミングアウトデーでした。その頃ニューヨークに住んでいて、家族や近しい友達にはカミングアウトしていたのですが、しばらく連絡を取っていなかった友人やSNSだけで繋がっている人たちに向けてInstagramでカミングアウトをしました。するとたくさんのポジティブな反応をしてくれて、「カミングアウトってこういうものなんだ」と感じました。

その体験がYouTubeを始めるきっかけにもなって、「1人じゃないよ」「色んな人がいるよ」ということを伝えたくて、100という数字にこだわっています。

始めて作った年が一番大変でした。ゲイの友人はいるのですが、レズビアンやトランスジェンダーなどの知り合いが当時はいなくて、ネットでも募集をかけたけれどなかなか人が集まりませんでした。ちょうどその時期に大阪であったイベントで「こういう動画を作っています」と書いたボードを持って人を集めたことを覚えています。

LGBTQの中でもセクシュアリティーやジェンダーによっては接点があったりなかったりなど、毎年100人に会う中で自分にとっても発見があります。ゲイであることは僕自身の一部にすぎないように、100人のLGBTQには100通りの違いもあるということを知ることができました。

2015年にSNSでもカミングアウトしたかずえちゃん
2015年にSNSでもカミングアウトしたかずえちゃん
かずえちゃん提供

自分が「今」できること 「未来の社会を変えるため」

100人カミングアウト動画には色々なコメントをいただいています。当事者からは「一人じゃないのだと知れた」、当事者でない人からは「身近にいるんだ」など。アセクシュアルというセクシュアリティーを動画で知って、「自分はこれだ」と確認できたという人もいました。

YouTubeではコメントが公開されてしまうからか、Twitterのダイレクトメッセージでもたくさんのリアルな声が届きます。

中学生や高校生ぐらいの若い世代から、「親に言ったけれど、出ていけと言われた」「どうすればいいのか分からない」「死にたい」など…。全てのメッセージに返せていないのですが、今自分には何ができるだろうと真剣に考えるきっかけになっています。それが動画なのか、講演なのか。

今の自分にはゲイの友達がいて、セクシュアリティーをオープンにもできています。でも30年前は「保毛尾田保毛男」(民放バラエティー番組のキャラクター)が笑いの対象となるような時代で、自分はゲイだと言えませんでした。しかし、こんなに時間がたっても、子どもたちの状況は変わっていない部分があるのです。

カミングアウトは必ずすべきということではないし、したくてもできないなど、色んな状況や考えの方がいらっしゃると思います。僕の活動に対しても、「カミングアウトしなくていい。なんでこんなことするんだ」という声もありますが、声を出せる人が上げないと、未来の社会は変わりません。

新型コロナ感染拡大で見えたLGBTQの新たな空間

これまで色々な地域を回って当事者のインタビューの動画を作っていましたが、新型コロナの感染拡大で、その撮影や学校での講演などがなくなりました。

先日もライブ配信をしていて気が付いたのですが、今の状況になって改めて見えてきたこともあると思います。

例えば自分がカミングアウトをしてなかったとしたら、LGBTQイベントが地元で開催されていても必ずしも参加できたわけではなかったと思います。これまでもパレードなどに行ける・行けないの違いで、「行けたらいいな」「私はどうせ言えない」と孤独を感じていた人もいたはずです。

それが東京レインボープライドなどのイベントがオンライン開催になったことで、これまで行けなかった人たちが、自身にとって安全だと感じられる場所から参加できるようになったのは今の状況で生まれた変化の一つだと思います。

一方で、新型コロナによって生きづらさをこれまで以上に感じているLGBTQの人はたくさんいると思います。「コロナに感染したら、パートナーとの関係を明かさないといけないのか」や、家族として連絡はしてもらえるのかといった不安を友人の同性カップルたちから聞いています。

今年も「100人カミングアウト動画」や、当事者インタビューの動画を作ります。でも、「100人カミングアウト動画」がいつか特別なものではなくなって、作らなくてもいいような時代になって欲しいなとも思っています。

婚姻の平等の実現にも声を上げていく

婚姻の平等の実現を求めている「結婚の自由をすべての人に」訴訟の原告ら。2019年2月に全国の同性カップルらが国を相手に一斉提訴し、同性同士の法的な結婚を求める裁判は現在全国5地裁で続いている=2020年2月、東京地裁前
婚姻の平等の実現を求めている「結婚の自由をすべての人に」訴訟の原告ら。2019年2月に全国の同性カップルらが国を相手に一斉提訴し、同性同士の法的な結婚を求める裁判は現在全国5地裁で続いている=2020年2月、東京地裁前
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

高校卒業後、ウェディングプランナーの仕事をしていました。高校でデザインを学んだので、カラーコーディネートの知識などを生かせると思ったからです。「男性を好きな自分は、結婚はできないものなんだ」と当時は思い込んでいたので、仕事を選ぶ時に抵抗はありませんでした。ウェディングの仕事で異性カップルを見ても「素敵だな〜」と思うだけで、自分に置き換えてやるせなさを感じるようなことはありませんでした。

でもすごく好きなパートナーができたことで、家族にカミングアウトしたいと思うようになりました。若かったので2人の老後のことはともかく、「この人と今後どうなっていくんだろう」と考えました。

別に結婚がゴールとは思わないけれど、周りの人は僕らのことを「仲の良い友達」と思っていて。僕たちの関係はどうなるんだろうという、漠然とした思いがありました。

その後、カナダで生活し、現地でパートナーができた時、同性同士が結婚できるカナダでは「僕には『結婚』の選択肢がある」と気がついた。その時、今まで感じたことのなかった温かい思いが湧いてきた。「結婚できるんだ」って。素晴らしいなと思いました。

帰国してから、日本では結婚できないのはおかしいと思うようになりました。結婚は異性愛でも同性愛でもその人たちの選択でいい。でも、日本は選択肢自体がない。発信しないといけないと思いました。

「今の流れを、僕は加速させたい」

Jun Tsuboike / HuffPost Japan

LGBTQのことを伝える活動をしている根底には、自分が子どものころに教えてもらいたかったことを伝えたいという思いがあります。

子どもの頃「保毛尾田保毛男」を見て、僕も面白いと思っていた一方で、「男が男を好き」とは笑われることだと受け止めました。色々な原因はあると思うのですが、そういったことの積み重ねからか、自分も男の人が好きということを言えませんでした。

ずっと1人だと思っていました。東京やテレビの中にはゲイの当事者がいるのは知っていたけれど、自分の周りには、本当はいるはずなのに、絶対いないと思っていました。

ここ十数年までLGBTQという言葉すらなかったですよね。今でこそ差別用語とされているけれど、高校の時は「ホモ」という表現が普通だったので、「ゲイ」という言葉が認知され始めた時に自分の中で違和感があったのを覚えています。

それが今やLGBTQという言葉が知られ、同性パートナーシップ制度も広がっています。LGBTQのことを発信するYouTuberもたくさんいらっしゃって、プライドを始めとするLGBTQイベントが全国各地であったり、企業が社内で研修をしたり、多くの人が取り組もうとしている流れを感じています。

今は当事者が中心となって声を出しているけれど、もっとアライの人も問題を自分事と感じて加わってくれたら、スピードが速まると思っています。僕は今の流れを、もっと加速させたいです。

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