ネクタイを結んだままスーツ姿で食卓に座る男性。傍らには、エプロン姿でにこやかに微笑む女性が立っている。
9月1日に自民党総裁選に立候補を表明した岸田文雄政調会長が、その夜に公式Twitterに投稿した1枚の写真。
「夜のテレビ出演の合間に、地元から上京してきてくれた妻が食事を作ってくれました。 ありがたいです」という妻への感謝の言葉が添えられている。
一瞬、言葉にできない違和感を覚え、指が止まった。
食卓なのにマスクを着けている岸田氏も、ミツカン「味ぽん」と思われる瓶も、なかなかの「演出」のようにみえる。
でも、最大の違和感は、食卓に座るスーツ姿の夫の脇で、立ったまま両手を前に組んで控える妻の姿。まるで1975年に炎上したCM『私作る人、ボク食べる人』を地でいくような写真だ。
岸田氏のこの投稿には「素敵なご夫婦ですね」と好意的なコメントも多数寄せられている。また、はにかんだような笑顔で岸田氏に目を向ける女性の様子に、この状況を不満に思っている様子はない。
それぞれの家庭の夫婦の形を否定するわけではない。それぞれに合った関係性があっていいと思う。
けれど、それでもこの写真に強烈な違和感を覚えるのは、「政治家の夫を支える控えめで優しい妻を持つ自分」と「そういう妻に感謝する自分たち夫婦の円満な様子」というイメージを、日本のリーダーになる可能性がある政治家が発信することの意味に対して、あまりに無自覚なように思えるからだ。
実際、Twitterには「まるでお手伝いさんかお店の人みたい」「すごく昭和感」「時代錯誤」などの反応も寄せられている。
一つ断っておくと、筆者は岸田氏に対して特にネガティブな印象を持っていたわけではない。どちらかというと、勝手ながら温厚で愚直な政治家というイメージを持っていた。
総裁選への立候補を表明した1日の会見でも、経済成長の恩恵を受けにくい地方のことに触れたり、子供の貧困対策について発言をしたりして、政策においては共感できる部分はあった。それだけに、この投稿はすごく残念だった。
この「夫婦写真」について、ハフポスト日本版の記者が岸田氏に直接、質問した。
日本のジェンダーギャップに課題意識はあるか
男女格差の大きさを示すジェンダーギャップ指数(2019年)は、日本は世界153カ国のうち121位。女性が家庭での無償労働を強いられている状況も、女性政治家の少なさも、日本の大きな課題だ。
自民党の総裁候補は、イコール、日本の首相候補。
そして、彼が背負うかもしれない日本の重要課題の一つがジェンダーギャップだという認識があれば、こういう写真を何の抵抗もなく投稿することは考えにくいのではないだろうか。
岸田氏は4月にTwitterを始めたばかりで、総裁の椅子を争うことになる菅義偉官房長官や石破茂氏とはSNS上の知名度で遅れをとっている。プライベートのほっこりシーンのつもりでこの写真を投稿し、イメージアップにつなげたいという考えは理解できる。
けれど、いや、だからこそ、性別役割分担意識がどれだけこの国の男女平等を阻害してきたかという点にももう少し目を向けていただきたいなと思うのだ。