関東大震災後、デマによって住民などに虐殺された朝鮮人の追悼式典が9月1日、東京都墨田区にある横網町公園であった。その同時刻、会場の隣では「大虐殺はなかった」と主張する保守系団体が「真実の慰霊祭」と称した集会を開いていた。
関東大震災から97年。
時間と共に社会の記憶が風化されつつある中、新型コロナウイルス感染防止のため、一般参加者無しでの開催となった今年の式典。カメラを手に現場を歩いた。
2つの会場はそれぞれフェンスで区切られ、周囲には警備に当たる警察官や都の職員の姿があった。
会場の外から保守系団体がスピーチが微かに聞こえてくる中、追悼式典は予定通りに進められていく。在日2世で韓国伝統舞踊家の金順子さんによる「鎮魂の舞」や、作家の平野啓一郎さんからの追悼メッセージの読み上げも行われた。
朝鮮人の虐殺はなぜ起きたのか。
97年前の9月1日、推定マグニチュード7.9の地震が関東地域で発生。死者や行方不明者の他、建物の崩壊や火災などによって被害は広範囲に及んだ。
しかしその後、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」「火をつけ、暴動を起こそうとしている」といったデマが広がり、それを信じた民間人や警察らが日本で暮らす朝鮮人や中国人を殺害した。
国がまとめた中央防災会議の報告書によると、震災の死者・行方不明者約10万5000人の内、1~数%にあたる数千人が虐殺の犠牲となった。報告書では「武器を持った多数者が非武装の少数者に暴行を加えたあげくに殺害するという虐殺という表現が妥当する例が多かった」とされている。
1973年に追悼碑が横網町公園に建てられ、その翌年から日朝協会などが作る実行委員会が追悼式典を毎年執り行っている。
一方、会場の隣で集会を開いていた保守系団体「そよ風」は追悼碑に刻まれている虐殺犠牲者数6000人には「科学的根拠がない」と主張。碑の撤去を求めている。
同団体は2017年から毎年同様の集会を開いており、東京都は2020年8月、逮捕者も出た昨年の集会の発言内容を「ヘイトスピーチ」と認定した。
2019年の集会での発言が都にヘイトスピーチ認定された一方で、2020年も公園の利用が許可された保守系団体。
朝日新聞によると「『差別的言動はしない』と書いた注意事項を守る意思」を都側が確認し、公共施設の利用を制限できる規定に該当していないと判断したという。
2020年の集会に先立って両団体が公園の利用を申請した際、都は双方に「管理者が中止を指示したら従う」よう誓約書の提出を要請していた。
「そよ風」の関係者は、ブログで、両方の慰霊祭が許可されないことが目標だと書いている。
朝鮮人犠牲者追悼式典実行委員会は「自由・自主である集会運営を萎縮させる」と抗議し、都は8月に要請を取り下げた。
「今の時代だからこそ、朝鮮人の苦しみを受け止めなければいけない」
そう話すのは朝鮮人犠牲者追悼式が始まる前、追悼碑の前で手を合わせていた男性。
「朝鮮人の犠牲者がなかったことにされるのは許せないこと。みんなが記憶に留めておくべきことだと思います」
朝鮮人犠牲者追悼式典の宮川泰彦実行委員長は開式の挨拶で「消しようの無い事実を忘れさせようという動きがある」と述べた。
「当時、民族差別意識が社会を覆っていたという事実に目を瞑らない。絶対に同じ誤ち、あるいは類似の過ちを犯してはならない。その為には97年前の悲惨な虐殺によって、数多くの尊い命が奪われた事実を忘れないこと。日本の人々と韓国、朝鮮の人々の間に友好が信頼が築かれることを願います」
歴代の東京都知事は朝鮮人犠牲者犠牲者式典に追悼文を送っていたが、小池百合子知事は今年4年連続で拒否している。「全ての犠牲者に哀悼の意を表しているため」が理由という。