「#剃るに自由を」 貝印のバーチャルヒューマンの広告が問う、“体毛に縛られない”生き方

刃物メーカー大手「貝印」が、バーチャルヒューマンを起用して打ち出した広告に反響が広がる。剃毛や脱毛の固定観念やしがらみを問い直すメッセージが、多くの人の心をつかんでいる。
MAGNET by SHIBUYA前に掲示された貝印の広告
MAGNET by SHIBUYA前に掲示された貝印の広告
撮影:國崎万智

「ムダかどうかは、自分で決める。」

オレンジ色の髪の毛を無造作にまとめ、ノースリーブを着て頭上で手を組む女性。処理されていない脇毛に、思わず目を奪われる。

「ムダ毛を気にしない女の子もカッコいいし、

ツルツルな男の子もステキだと思う。

ファッションも生き方も好きに選べる私たちは、

毛の剃り方だってもっと自由でいい。」

刃物メーカー大手「貝印」が8月17日から公開している広告に、ネットでは「価値観の多様性を表現していてすてき」「目頭が熱くなる」など反響が広がっている。何が人々の心をつかむのか?

剃毛しない脇毛が目を引くMEMEの広告
剃毛しない脇毛が目を引くMEMEの広告
提供:貝印

選ぶ「自由」がある

「剃ること、剃らないことを自由に選べて、それぞれの価値観を認め合うことを応援したい。そんなメッセージを伝えられたらと思いました」

貝印の担当者、畑谷友香さんは、企画の主旨をそう語る。

「1年ほど前からSNSでお客様の声を受け、毛を剃ることについて『常識』とされていることと本音とでずれが生じているのでは、と感じていました。こうした問題意識を踏まえ、3人のアーティストが対談する雑誌のタイアップ企画で、『剃る・剃らないを選択する自由があるのでは』という意見が上がったこともあり、今回の広告につながりました」

刃物メーカーがこうした「剃らない」ことも肯定する広告を出すことに、社内で異論は出なかったのか?

同じく担当者の齊藤淳一さんは「正直不安はありました」と明かす。「ですが様々な部署にこの企画の話を持ちかけると、実際には好意的な反応ばかりでした。『ブランドのメッセージに共感してもらうことで、商品を手にとってもらえる』と考えた社員が多かったように思います」

オンライン取材に応じる貝印の畑谷友香さん(右)と齊藤淳一さん
オンライン取材に応じる貝印の畑谷友香さん(右)と齊藤淳一さん
HuffPost Japan

実在しないモデルを起用したわけ

広告のモデルは実在する人間ではなく、CGで作られたバーチャルヒューマン。名前は「MEME(メメ)」という。SNSでは「今の日本では、人間のモデルでの撮影は難しいことの現れ」との受け止めもある。

なぜ、バーチャルヒューマンを起用したのか?

「特定の人間のモデルだと、その人自身の思想が広告のメッセージに影響してしまう。今回のモデルは、『外見にコンプレックスを抱える人たちに寄り添い、声に出せない思いを代弁する存在』にしたかったのです。それはバーチャルヒューマンだからこそ表現できると考えました」(畑谷さん)

そばかすと、額やあごにやや目立つあざがあるMEME。これらをコンプレックスに感じているが、「それらをポジティブに、個性として捉える側面もある」との設定だ
そばかすと、額やあごにやや目立つあざがあるMEME。これらをコンプレックスに感じているが、「それらをポジティブに、個性として捉える側面もある」との設定だ
提供:貝印

剃毛への「束縛感や違和感」、若いほど高く

貝印は7月29日〜31日、全国の15〜39歳の男女600人に、剃毛や脱毛に関するアンケートをインターネットで実施

「ファッションや髪型のように、剃ること(ひげ・体毛処理など)は自分自身で自由に決めて良いと思うか」との問いに、「思う」「やや思う」は90.2%に上った。

一方で、「剃毛や脱毛に対する考え方に束縛感や違和感を感じたことがあるか」との問いには、36.5%が「感じたことがある」と回答。年代が若いほど割合が高く、10代では男女ともに4割を超えた。

体毛の処理を自由に決めたいと望む人が大半を占める一方で、世間の目などが気になり、自由に選択できないと悩む人が多い実態が浮かぶ。

調査では、男性、女性それぞれの体毛処理への考え方も尋ねた。「男性が体毛を処理しても良いと思うか」という問いに、「思う」「やや思う」が89.8%だった。これに対し、「女性が体毛を処理しなくても良いと思うか」の質問では「思う」「やや思う」は42.8%と半数以下に。男女別だと男性37%、女性48.6%と10ポイント以上の差があった。

剃毛や脱毛に対する考え方に、束縛感や違和感を感じた経験がある人は36.5%に上った
剃毛や脱毛に対する考え方に、束縛感や違和感を感じた経験がある人は36.5%に上った
提供:貝印

「ムダ毛という言葉が、これからは無くなるかもしれない」

「剃らない選択肢があることの自由さに感動している」

「(バーチャルヒューマンではなく)実在する女性がこう主張しても、尊重される社会にしたい」

貝印がMEMEの広告を公式Twitterで投稿すると、ツイートは瞬く間に拡散。広告のメッセージやデザインに共感するコメントが多数寄せられた。畑谷さんは、「予想以上に大きな反響があって驚き、とても嬉しいです」と話す。

「価値観の押しつけに苦しんでいた人から、広告を見て感動したという声もいただきました。私たちは剃る・剃らないのどちらかを推奨しているわけではありません。性別を問わず、その人の選択を応援できるような発信を続けたいです」

海外モデル「剃るか伸ばすか、私次第」

海外では、処理をしてない体毛が見える写真を公開し、体毛に関しての自らの考えを発信している女性の著名人も少なくない。

イギリス・ロンドン出身のモデルで俳優のエミリー・ラタコウスキーさんは、自身のインスタグラムで、脇毛が見える写真を公開。2019年8月の雑誌のエッセーで、「脇の毛を剃るか伸ばすかを決めるのは、私次第です」「体毛は女性にとって、選択する能力を発揮する一つの機会だと考えます」などと述べている。

レディー・ガガさんは2019年、司会を務めるファッションの祭典「メットガラ」に出席する際、自身のインスタグラムで「4日間、脚の毛を剃っていません。これで完璧です」などと投稿している

「女性は毛のないツルツルの肌が美しい」。「男性が脇や腕、脚の毛を剃ることはおかしい」...。そうした一面的で凝り固まった考えを強調し、助長するような広告は、暮らしの身近なところにあふれている。

こうした流れに異を唱える動きもある。動画サイトYouTubeで、体毛や体型など外見のコンプレックスをあおって商品を宣伝する広告が波紋を呼び、広告の配信停止を呼びかける署名運動も起こっている

周りの価値観を押し付けられたり、縛られたりすることなく、自分の体やコンプレックスとの向き合い方は「自分で決める」が当たり前になるようにーー。バーチャルヒューマンのMEMEが発信した言葉は、そんな願いを後押しする力を与えてくれる。そう感じさせるメッセージだったからこそ、多くの人の心に響いたのかもしれない。

なんとなく受け入れてきた日常の中のできごと。本当はモヤモヤ、イライラしている…ということはありませんか?「お盆にパートナーの実家に帰る?帰らない?」「満員電車に乗ってまで出社する必要って?」「東京に住み続ける意味あるのかな?」今日の小さな気づきから、新しい明日が生まれるはず。日頃思っていたことを「#Rethinkしよう」で声に出してみませんか。

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