複数の地下鉄の路線が乗り入れる東京メトロ表参道駅に、7月27日からユニークな看板広告が掲出されている。
ネット上などでは「自由すぎる」「斬新だ」「広告の概念を壊している」などと今話題となっている。
目を引くこの広告は、大阪市に本社を置く化粧品会社セブンツーセブンのものだ。右半分には可愛らしい白い色をした哺乳類のオコジョの写真が、左半分にはショッキングピンクを背景に文章が書かれている。
文言に目をやると、清々しいほどに割り切った“宣言”に始まり、その後のユニークな展開に更に惹きつけられた。
ほとんどの方はおそらく看板広告なんてご覧にならないと思いますので、好きなことを書いても問題がないということに気付いてしまいました。好きな動物はオコジョです。あの小さくて細身なボディに絶妙な毛並み感。大好き。飼いたい気持ちをグッとこらえ、ネット検索の画像を見るだけでも幸せになれる派の化粧品会社・株式会社セブンツーセブン
あろうことか、駅の広告で一企業が「ほとんどの方はおそらく看板広告なんてご覧にならない」と開き直って、好きな動物を紹介していたのだ。自社製品のPRは一切していない。
このセブンツーセブンという会社、実は元々40年以上も前から東海道新幹線の東京ー大阪間にも「727COSMETICS」とだけ記した野立て看板を立てるなど、ユニークな広告戦略を打ち出してきた。斬新な広告を掲出するのはこれが初めてではない。
しかし今回、なぜ好きな動物の写真を掲出し、「好きなことを書いてしまっても問題がない」とまで割り切った広告を出稿したのか。
広告を担当したセブンツーセブン企画室室長の磯島裕介さんに話を聞いた。
「他社と同じことをしていても仕方ない」
「元々、他社と同じことをしていても仕方ない。独自性を大切にしていこうと。成熟した思考でやんちゃしたいと言いますか、これまで培ってきた知識や経験を活用して表現に遊び心を取り入れるということを意識してきました」と語る磯島さん。
広告に関する時代の変化を、このように感じ取っていた。
「新幹線の車窓から見えるように野立て看板を立てているんですれども、最近はスマホの普及もあって、車窓を眺めるよりも下の方(スマホ)を皆さん向いてしまう。残念ながら、広告が以前よりも見られていないという実感はありますね」
「コロナ禍だから外出自粛だからと割り切ったわけじゃない。けれど...」
今回の“オコジョの広告”は元々、2020年の初め頃から計画を練り、4月から5月ごろにかけて掲出する予定だったという。
新型コロナウイルスの感染拡大を受け緊急事態宣言が発出されたことで、一旦掲出予定を延期していた。
しかし、「コロナ禍だから外出自粛だからと割り切ってこの広告を掲出したわけじゃないんです」と磯島さんは言う。
「コロナにまつわる暗いニュースが日々報道されて、企業広告に関しても、出稿数が少なくなったり、どちらかと言うと重たい雰囲気のものが多くなっているという印象がありました。このコロナ禍を全てポジティブに捉えて過ごすのは難しい。でもだからこそ、こんな(オコジョの)広告を出すことで人に元気や癒しを与えられるんちゃうかなと思ったんです」
意識したのは「誰も傷つけない、傷つかない広告」
この広告に込められた願いが「もう一つある」と磯島さんは語る。
それには、SNSなどでの「誹謗中傷」が大きく関係していたという。
「ちょうど新型コロナの感染の第一波がピークを迎えていた頃、SNS上を中心とした誹謗中傷が大きな議論になっていましたよね。そんな状況を見ていて、誰も傷つけない、傷つかない広告って何だろうと考えました。そして行き着いたのが、『自分の好きを語るだけの広告こそ、明るい未来に繋がるんじゃないか?』と思えたんです。今回の広告には、そんな世の中になってほしいという気持ちも込められています」
広告の掲出後、会社には「こういう社会で生きていきたいです」「すごく癒されました」などメッセージが寄せられたという。
コロナ禍に関わらず掲出予定だった看板広告だが、結果的に社会が困難な状況にある今だからこそ、人の心に響くものになったのかもしれない。
広告は、8月9日まで東京メトロ表参道駅に掲出されている。