新型コロナ禍で廃棄される20000リットルのビール⇒新しいジンに生まれ変わった。

余剰ビールの解決策?ビール生産者らに話を聞いた。

新型コロナ禍で廃棄される20000リットルのビールを、新しいジンに生まれ変わらせる。

アメリカの大手ビール・バドワイザーとエシカル・スピリッツ社、月桂冠が、そんな取り組みをしている。

バドワイザービール(左)と、バドワイザーを原料に造ったジン「REVIVE」
バドワイザービール(左)と、バドワイザーを原料に造ったジン「REVIVE」
Getty Image / エシカル・スピリッツ社提供

新型コロナによる外出自粛や休業要請で、飲食店が苦境に立たされている。飲食の場で提供されるはずだったビールは、行き場を失った。

このままでは、いずれ廃棄しなければならなくなる。バドワイザーは、より長期間保存できるジンへと変える方法を選んだ。

ビールからジンを造る。それを可能にしたのが、エシカル・スピリッツ社の「循環経済を実現する蒸留プラットフォーム」。

もともとは、日本酒の生産工程で出る酒粕を蒸留させ、ジンを造っていた。その製法を「ビールからジン」にも転用し、技術提供を受けた月桂冠が蒸留を担当した。

バドワイザーを蒸留した原酒に、バドワイザーの伝統の製法で用いられるブナの木を漬け込み、そこにビールを加水。ビールには欠かせないホップ、その特徴を生かすためにレモンも加えた。

そうして生み出されたのが「REVIVE」。「再生」の意味も込めた。

REVIVE
REVIVE
エシカル・スピリッツ社提供

エシカル・スピリッツ社創業者の山本祐也さんは言う。

「今回のコラボは、一つは廃棄をなくすという面もありますが、クオリティも大事。今回いいお酒を原料に使わせてもらっている分、一般的なジンと比べても、味がすごく美味しくなる。それがエシカル(社会や環境に配慮した)な取り組みで生まれています。REVIVEには、これらは相反するものではなくて、一体なんだという思いが込められています」

ビールを原料とするジンは珍しい。エシカル・スピリッツ社の山本さんによると、アルコール度数が低いため、2、3回蒸留を要する。その過程で泡や液体の扱いや、素材をジンにかえるのが、他の原料と比べて難しいという。

バドワイザーから造ると、どんなジンに仕上がるのか。

「個性があって、香りに特徴があり、かつバドワイザーやビールを想起させる」

そんなテイストに仕上がったという。

「日本酒からジン」を造る際に活用している酒粕は、奈良漬けなどの原料に使われているが、その需要は減り、産業廃棄物として処分されていた。

今回は、廃棄される液体を生まれ変わらせた。取り組みを通じて、可能性も広がったと山本さんは語る。

「今回はコロナが一つのきっかけになり、酒粕でやってきた蒸留の技術をビールにも活かすことができた。私たちがやっているのは、今あるものの形を変えて可能性を広げること。これまでのように日本酒に関わることも続けながら、いろいろなことに蒸留の技術を生かしていきたい」

度数は40度。360ミリリットル瓶で値段は5500円。エシカル・スピリッツ社の公式サイトで8月1日から先行予約を開始し、9月1日から販売を始める予定。

3カ月⇒賞味期限なしに

バドワイザーが飲食店用に卸す樽ビールは、賞味期限が3カ月。ジンの賞味期限はない。ビールのテイストを生かすことで新たな魅力のあるジンが生まれるだけでなく、廃棄に要するエネルギー削減にもなるというこの取り組み。余剰ビールを抱えた業界の助けとなるのか。

コロナ禍がビール業界に与えた影響は大きい。

エシカル・スピリッツ社の発表によると、ビール大手4社(アサヒ、サントリー、キリン、サッポロ)の2020年4月のビール販売量は、前年同月と比べて大幅に落ち込んだという。

バドワイザーも同じだ。

バドワイザー
バドワイザー
Andrew Toth via Getty Images

ブランドマネージャー齊藤太一さんは言う。

「主に居酒屋やライブハウス、クラブにビール樽を納品しています。ビール樽の出荷量について、この3〜5月が前年と比べて約半分まで落ち込んでいる。業務用に関しては、大きな打撃があると言うのが現状です。いまは回復してきてはいますが、コロナ以前と比べるとまだまだです」

2万リットルは、生ビールおよそ8万杯(250ミリリットル)にあたる。そこから、約1750リットルのジンが生まれる。アルコール度数の凝縮された割合に応じて、量も減っていくという。

REVIVE
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エシカル・スピリッツ社提供

コロナ禍で伸びたこと 

コロナ禍で、逆に伸びた分野もある。コンビニやスーパー、ドラッグストアなどでのビール製品の販売量だ。外食ができない分、自宅で飲む人たちが増えたからだとみられている。

バドワイザーの斎藤さんはさらに、ビール業界に起きた“良い変化”も感じている。

「ビールを頼むとき、みんな『とりあえず生』という。銘柄を指定しないで選ぶのは、イコール、ビールは全て同じに見えているということ。でも、そうじゃないんだと消費者がコロナ禍で気づいたと思うんです」

Image of toasting with beer at a tavern
Image of toasting with beer at a tavern
kazuma seki via Getty Images

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