「愛される企業」を目指す時代は終わり。これからの企業に必要なことは?

2020年、COVID-19やプロテストの影響で変化が生じた。企業の理念や個性を生かし、どう貢献し、何を言うか。企業側が主体になる時代になってきたのだ。
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Chaiyawat Sripimonwan / EyeEm via Getty Images

エーリッヒ・フロムの「愛するということ」という名著がある。

冒頭も冒頭、1ページ目に、愛に飢えているにも関わらず、能動的に学ぶ人がいない状況を生み出す理由について

たいていの人は愛の問題を、愛するという問題、愛する能力の問題としてではなく、愛されるという問題として捉えている。つまり、人びとにとって重要なのは、どうすれば愛されるか、どうすれば愛される人間になれるか、ということなのだ。

と述べられている。

そうだ、そうなのだ。「愛されること」が目標になってしまうのは、人の性のようなもの、とりわけ現代人の癖みたいなものなんだよな、と本書を読み返して納得してしまった。そう、みんな愛されたいのだ。

だから不思議なことではない。PRの仕事をしている人は、少なくとも一度は「愛される企業になりたい」「愛される企業を目指したい」、このようなフレーズに出会ったことがあるだろうことも。人がつくり出す企業がこのように表現することも。

が、(タイトルに結論を書いてしまったが)ここ近年、そしてそれは2020年になって急速に変化が起こったと感じている。これから企業が目指したいのは「愛される企業」ではなく「愛することができる企業」ではないか、ということだ。

そう考えるに至った背景、そして私が暮らすポートランドの企業事例をいくつか紹介したい。

なぜ愛することが必要になるか?それは、対象の変化

これまでの企業のPRの対象は(ここでは散漫にならないようあえてPRに絞って書く)、対峙する取り囲む相手が主に対象だった。PRはパブリックリレーションだ。パブリックといっても、顧客、従業員、投資家、未来の従業員など、360度を取り囲む人々が主だった。見えているから、「愛される」という受け身でメッセージを決めることができた。もっと意地悪に極端に、あえて表現してみるなら、対峙する主な人々が見ていなければ、何をしてもいいとも言えるかもしれない。

この場合の行動の主体者は、相手となる人々だ。企業は人々に行動してもらうため(購買とか)、思ってもらうため(応援とか)、そのためにメッセージをつくる動きをして発信する傾向に陥る。もしかすると、自分たちがこうありたい、よりもどう見られるかが勝つことすらあるかもしれない。

が、COVID-19やプロテストにより、変化が生じた。企業が対峙するPRの対象は、もっと多面的で、多様で、取り囲んでいない、それこそ、この企業の生涯でもしかしたら一度も出会うこともない(相手からも認識されることがない)「誰か」も対象となった。人類全体が対象のようなものだ。

それは、世界がCOVID-19という共通課題に対面したことによりひとつの大きなコミュニティとなったのかもしれないし、プロテストによる人種差別に対峙することになり人類は皆繋がり、人類みな兄弟のごとく、尊敬、慈しむべき相手との認識が拡がったからかもしれない。

少なくとも、知っている、見える、会ったことがある、関係がある、といった関係性がなくとも、多くの人が繋がり、影響しあっているということを感じざるを得なくなった2020年の前半だった。

対象が拡がったいまだから、愛される、よりも、愛すること。自分たちが、愛されるために行動するよりも、どう愛するかを伝え、行動することが必要になっている。主体者は、その企業だ。その企業の理念や個性を生かし、どう貢献し、みんなを慈しむために、何を言い、何をするか。

そして実際に、主体的に自分たちのメッセージを恐れることなく、堂々と表現し、行動する企業が海外を中心に増えているように私は感じている。

ポートランド企業に見る、それぞれの企業の愛し方

COVID-19への対応からその片鱗は見え始めている。ここで企業の発信の仕方を紹介したものがそうだ。

ここではポートランド以外の企業も紹介しているが、シューズメーカーがマスクをつくるといったような事例はみな、助成がなされるから、注文が入ったから、行政が言っているから、そういった理由で医療従事者の支援となるPPEをつくったり、店独自のルールをつくったりしているわけではない(本当にスピーディに判断し実行しているから)。

自分たちがそれが正しいと思うから、誰かへの力添えになると信じているからやっている(社会が呼応したら、ビジネスがついてくることはある)。

そしてプロテスト以降、この主体的な、これまでの対象以外の誰かにむけた企業活動がますます加速していると感じる。

blackLivesMatterに賛同しない従業員は他へどうぞ!と表明。

ポートランドのクリエイティブエージェンシーWieden+Kennedyのサイトは今トップページにメッセージが掲げられています。https://www.wk.com/

筆者noteより

BLACK LIVES MATTERに支持しない従業員は、他の仕事を探してくれるかな。支持しない広告主には広告出さないから。支持しないクライアントには喜んで、別のエージェンシーを紹介するよ!

というとても強気な、覚悟のあるメッセージ。どう思われようが、私たちの姿勢はこの通りで、実際にこういう行動をしますから、という宣言をしている。

そして、世界で最も拡がったであろう最初の事例、ポートランド近くに本社を置く(正確には隣のビーバートン)NIKEによる動画だ。

Just Do It. 改め Don’t Do it.

「Just do it.」 という誰もが知るスローガンを「don’t do it.」というフレーズに変えたレイシズムに対抗するキャンペーンだ。「やれ!」と言っていた企業が「やるな」と声をあげた。

なお、プロテスト絡みでは、Facebookがレイシズムの広告を掲載し続けることに対してパタゴニアが広告掲載をボイコットすると発表したのは6月のこと。その後にNorthFacebが続き、アウトドアブランドに広がり、アパレルなど今では多くの企業が行動に出ている。

メッセージを発信するだけでは弱く、態度で行動で示すというのも、ここ最近の傾向だ。

そして、ポートランドのスーパーマーケットも声明を発表している。

言わないよりは途中でもいい。We are ...ing で綴る今の意思の表明

筆者noteより

行動や思考がまだ途中であることもあるかもしれない。でも、どう見られるか、どう捉えられるか、を探ってなかなか言葉と行動にしないよりも、自分たちの今思うことややっていることを表明する大切さを、この真摯なメッセージは教えてくれる。

(補足:この企業は顧客との対話を大事にする企業ゆえ、見出しの設問はYouとなっている) 

「愛されること」に主眼を置くのではなく、自分が主体となって、どうやったら社会にどこかの誰かに、それぞれの愛を提供していくことができるだろうか。そして自らが動くことで、どこかの誰かに何かを伝えていくことができたらいい。

私自身も、愛される企業を目指すより、愛することができる企業を目指したい。そしてそれぞれのの企業の愛し方を一緒に考えたい。そう思う今日この頃だ。

(2020年07月23日の松原佳代さんnote掲載記事「これからは「愛される企業」ではなく「愛することができる企業」に。」より転載) 

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