コンドームの破損で避妊に失敗したり、性暴力を受けたりした際、72時間以内に服用して妊娠を防ぐ「緊急避妊薬」(アフターピル)。日本では産婦人科などでの受診や処方が必須で、アクセスのハードルの高さが問題になっている。
コロナ禍で若年層からの妊娠相談が増加する中、緊急避妊薬のアクセス改善を目指す市民団体「緊急避妊薬の薬局での入手を実現するプロジェクト」が7月21日、活動に賛同する約6万7000筆の署名と要望書を国に提出した。このプロジェクトは、性に関する正しい情報の啓発に取り組むNPO法人「ピルコン」や産婦人科医、アクティビストが共同代表を務める。
■休校や不安増大?10代の妊娠相談が増加
「休校期間中、彼氏とほぼ毎日一緒にいて性行為しました。妊娠していますか?」
「予定日を過ぎても生理がきません。お腹の痛みや眠気、吐き気があります。コロナの状況のストレスで遅れているのか、妊娠してしまったのかがわからずすごく不安です」
「今すぐにでも妊娠検査薬で検査したいのですが、バイトが休みになりお金がなくて検査ができていないです」
全国一斉休校となった3月以降、「ピルコン」への妊娠や避妊に関する相談件数が増加した。10代のメールでの相談件数は以前は月10〜20件台で推移していたが、3月以降は30〜40件と2倍に膨らんでいる。
ピルコンは、相談増加の背景として
・休校によって親が不在の間、子どもだけで自宅で過ごす時間が増え、性交渉の機会が増えた
・見通しの立たない自粛生活への不安が高まっている
といったコロナの感染拡大の可能性を指摘する。
親が育てられない赤ちゃんを匿名で預かる「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」を運営する慈恵病院(熊本市)でも、中高生からの妊娠相談の件数が過去最多に。病院の相談担当者も、コロナによる休校が相談件数の増加に影響したと指摘している。
■“アフターピル後進国”の日本
今回のプロジェクト団体は、厚労省に対して以下の4つの内容を盛り込んだ要望書を提出した。
1)緊急避妊薬が適切かつ安全に使用される環境づくりを推進すること
2)緊急避妊薬の対面診療とオンライン診療の提供体制を整備、強化、周知すること
3)緊急避妊薬のスイッチOTC化に関する審議を早急に再開し、市民の声を反映すること
(スイッチOTC化=医療用医薬品から、一般用医薬品に切り替えること。医師の処方箋なしに薬局などで販売・購入ができるようになる)
4)緊急避妊薬を薬局で薬剤師の関与のもと、処方箋の必要なく購入できるようにすること
緊急避妊薬のアクセス拡充に取り組むICECのウェブサイトによると、緊急避妊薬は世界の76か国で処方箋なしに薬剤師を通して購入でき、19か国でOTC化されている(2020年7月時点)。価格も5000円未満と安価で提供する国が多いという。WHOは2018年の勧告で、「意図しない妊娠のリスクを抱えた全ての女性と少女には、緊急避妊にアクセスする権利があり、緊急避妊の複数の手段は国内のあらゆる家族計画に常に含まれなければならない」としている。
ピルコン代表の染矢明日香さんは、ハフポストの取材に「家庭が安心・安全な居場所ではない人もいる中、妊娠をしたら退学や退職を余儀なくされることもある。思いがけない妊娠での出産は、虐待や貧困につながることもある」と指摘。「アフターピルを必要とする全ての人が、確実に薬にアクセスできる環境を整えることと、避妊に関する正しい情報を得る性教育を充実させることを両輪で進めていかなければいけない」と強調した。