「若者は政治に関心がない」「若者は選挙に行かない」。こういう言葉はよく聞かれる。確かに、ここ10年間の衆院選の投票率(抽出)を年代別に見ると、全年代のうち、20代~30代は最も低い。
では、若い世代の投票率が低いのは、政治に関心がないからなのだろうか。私はそうは思わない。その理由を考えるために、私の友人とのちょっとした「エピソード」から紹介したい。
「永田町=遠い話」 と無意識に思い込んでいた
いま32歳の私は、2017年4月から2020年3月まで朝日新聞社の政治部で首相、野党、外務省を担当する記者だった。
私が野党を取材する担当になった2017年秋。当時の野党で最も多い議員を抱えていた民進党は、小池百合子都知事が代表(当時)を務めていた希望の党との事実上の合流に踏み切った。だが、小池氏の「排除発言」で一気に勢いがなくなり、枝野幸男代表率いる立憲民主党が躍進するなど政治は大きく動いていた。
私は、大きな話題を呼んだ希望の党と、その後誕生した国民民主党の玉木雄一郎代表の取材を担当した。政治記者にとっては数年に一度あるかないかの、忙しい日々。私は取材に打ち込んだ。だが、同世代の友人と会って食事をしたとき、「玉木さんって誰?」「国民民主党と立憲民主党の違いがよくわからない」と言われたのだ。
たしかに、それまでも、同世代の友人たちとは仕事の愚痴は言い合うが、政治ニュースについて―たとえば自民党内の派閥の動向や野党再編の行方、国会審議の進め方などについて―話し合うことはほとんどなかった。
結婚や出産、転職といった大きなライフイベントに向き合うことが多い年代でもある。話題の中心は、子どものことや仕事のことがほとんどだ。しかし、自分が必死で追いかけていたニュースに関しても「知らない」と言われたことに、「永田町のことは遠い話だよね」と同意しながらも、自分と世の中とのギャップを感じていた。
野党の合流の行方や自民党の派閥の動きなど、いわゆる「政局」に関心のある若い世代は多くはないだろう。だが、私が取材していた玉木氏を「誰?」と聞いた友人たちも、決して政治と無関係ではないと思う。働く人にこそ、政治を身近に感じてもらいたい。そう思う理由を、以下に挙げたい。
「困りごと」を解決するのが政治
私の友人のような働く世代は、子育てや雇用、景気の行方や親の介護の問題など、日々の暮らしの不安や将来への心配ごとは尽きない。
そうした心配ごとがあるとき、私たちは身近な家族や友人に頼ることが多いのではないだろうか。愚痴を言い合ってスッキリすることもあるし、具体的なアドバイスをもらって解決に動き出すこともある。
だが、もしかしたら自分たちと同じような悩みを抱えている人は、他にもたくさんいるかもしれない。知らない地域に住む人も、同じように苦しんでいるかもしれない。知らない人同士の悩みをつなぎあわせた方が解決策が見つかるかもしれないし、それが法律や制度などのルールとして固まれば、次の世代が悩まずに問題を解消できるかもしれない。
誰かが声を上げ、その悩みが共通して至る所にあることに気付き、そうやって他人同士の悩みをいっしょに解決するのが政治だと私は思う。
「個人の悩み」でも、声を上げれば政治とつながる
たとえば、私の友人の一人は不妊治療を続けていた。だが、体外受精を受けようと思うと、健康保険の適用外となり、1回数十万円かかる。ただでさえ子どもを育てにくい社会だし、お金もかかるとなると不安な気持ちになるのは痛いほどわかる。
その後、私は取材の過程で、国民民主党が2019年にまとめた政策集に「費用助成の拡充など、不妊治療への支援を進める」と書いてあることに気付いた。立憲民主党も2020年2月、不妊治療の支援策を拡充するための提言をまとめた。さらに、政府が5月に閣議決定した「少子化社会対策大綱」の中で、高額な不妊治療は保険適用の拡大を検討すると明記した。こうした政策が実現されれば、これから不妊治療を受けようと思う人にとっては悩みや不安が減り、ほかのことにも力を注げるようになるのではないだろうか。
私の友人は「個人的な悩み」として、不妊治療のことを私に打ち明けてくれた。だが、同じような悩みを持っていた人は他にもいて、その人たちの声は何らかの方法で政治家に届いていたーーそうでなければ、野党の政策集や政府の閣議決定にはつながらない。
不妊治療の政策に熱心なある衆議院議員に聞くと、集会での有権者の声、政治家の事務所に来る手紙やメール、Twitterなどネットでの議論、街を歩いていて聞いた話などありとあらゆるルートで有権者の声が届くという。「個人の悩み」であっても声を上げれば、政治とつながる。法律や制度などのルールが変わることもあるーーこのリアリティが、特に若い世代には想像しにくいことなのかもしれない、と感じている。
政治家は想像以上にTwitterを頻繁にみている
新型コロナウイルスの感染拡大による不安が日に日に広がっていた2020年3月30日夜。
私は、一人の国会議員との電話が印象に残っている。相手は、野党担当時代に取材をしていた、国民民主党の矢田稚子参院議員だ。「妊婦さんの新型コロナウイルス対策を国会で取り上げたら、ものすごい数の反響の声が寄せられてるんです!私のTwitterのフォロワーも一気に倍になったくらい」
矢田氏は3月26日の参院予算委員会で、働く妊婦の新型コロナ対策について質問した。国会で妊婦への新型コロナ対策の重要性を指摘したのは、矢田氏が初めてだったという。
国会で取り上げるきっかけになったのは、Twitterだった。ある一人の妊婦がTwitter上で、不安を抱えて通勤していることや、会社側が在宅勤務を認めてくれないことなどを訴えていた。投稿を目にした矢田氏はやりとりを始め、「これは問題だ」と感じたという。その後、矢田氏はどうしたのか?
私が取材をすると、「Twitterなので、どうしても実在するかどうかも最初はわからないでしょう?だから、『申し訳ないけれど、まずは労働組合を通じて要望書を送って欲しい』と伝えました」という答えがかえってきた。30人ほどの要望書が届き、国会での質問につながった。
Twitterをきっかけに集まる声→厚労省に要望→予算計上
国会での質問をTwitter上で報告すると、さらに多くの妊婦から声が寄せられるようになった。Twitterで「厚労省にみなさんの声を改めて持っていきます」と、公式サイトや事務所へのファクスを送るように呼びかけると、431人分の要望と1100人分の電子署名が集まった。その後も国会で取り上げ、厚労省への要望もした。5月22日には、安倍晋三首相が新型コロナへの不安で仕事を休む妊婦への休業中の補償を新たに設ける考えを国会で表明。6月12日に成立した2020年度第2次補正予算には、妊婦への休業補償のために90億円が盛り込まれた。
もちろん、矢田氏が1人で動いたわけではない。妊婦から集まった要望を項目ごとに分類し、資料にまとめ、ほかの国会議員に配って回ったという。「国会では味方をつくらないといけない。多くの人が声をあげることで、政府を動かす力になる。働く妊婦さんがTwitterで声を上げて、1人で厚労省に要望に行こうと思っても、残念ながら行けない。だから、国会議員をうまく使ってほしい」
矢田氏のTwitterのフォロワーは、3月ごろは200~300人程度だったというが、7月21日現在、4200人を超えている。
政治家の考えや発言を知り、資質を見極める力に
政治家自身も、TwitterやInstagram、YouTubeなどでの発信に力を入れている。自民党の石破茂元幹事長は「イシバチャンネル」と題して、憲法改正についての考え方から、コロナ禍での過ごし方など、さまざまなテーマについて対談形式で話す動画を公開している。
国民の玉木代表も2018年7月に「永田町のYouTuberになりたい」と、YouTubeチャンネルを開設した。街の声を玉木氏が直接聞きに行ったり、国会で議論になっている問題を玉木氏自身が解説したりしている。立憲民主党も公式YouTubeチャンネルを開設し、党幹部の記者会見や国会審議の動画を公開している。
インターネット選挙運動が7年前の2013年に解禁され、私たちが政治家にアクセスできる手段は多くなった。だからこそ、私たちがアクセスしやすいSNSを通じて政治家の考えや発言を知り、その資質を見極める機会にしてほしいと思う。だが、どうしても政治と普段の生活が結び付かないのはこれまで書いてきた通りだ。
そこで、みなさんと考えたい。
みなさんにとって、政治は身近な存在ですか?政治ニュースは普段読みますか?自分の「困りごと」を解決するために政治に訴えようと思ったことはありますか?
どうしたら、政治のあれこれを「自分のこと」として考えられるのでしょうか。7月28日夜9時からのハフライブでは、新聞13紙を購読して読み比べる時事芸人・プチ鹿島さんをゲストとしてお迎えし、「忙しい私が政治を知る方法」というテーマで議論します。私も出演して、パーソナリティーをつとめる起業家の辻愛沙子さん、ハフポスト日本版の竹下隆一郎編集長と一緒に考えたいと思います。
下記のアンケートで、みなさんの意見をお寄せ頂ければうれしいです。コメントの一部を番組で取り上げ、番組作りに生かす予定です。
アンケートはこちらから
ハフライブ「忙しい私たちが政治を知る方法」
日時:7月28日(火)午後9時〜
▼番組はこちらから
https://twitter.com/i/broadcasts/1lDxLywaegaKm
(時間になったら配信がはじまります。視聴は無料です)
▼出演者
ゲスト
時事芸人 プチ鹿島さん
ハフポスト日本版エディター(朝日新聞の元政治部記者) 竹下由佳
パーソナリティー
arca CEO /クリエイティブディレクター 辻愛沙子さん
ハフポスト日本版編集長 竹下隆一郎