「男」か「女」か、履歴書に書く必要はありますかーー?
日本の採用試験で広く使用されているJIS規格(日本産業規格)の履歴書に性別欄が残っていることを巡り、トランスジェンダーの当事者らから「性別を尋ねる合理的理由がなく、削除するべきだ」との意見が上がっている。当事者や支援者が6月30日、JIS規格を管轄する経済産業省などに欄の削除を求める署名約1万筆分を提出し、記者会見を開いた。
■「しっかり丸付けてもらって良いですか」
「市販の履歴書を使わないのは、常識的に考えてあり得ないよ」
出生時の性別が女性で、性自認が男性の佐藤悠祐さん(28)は、転職活動時の面接で、面接官にこう指摘された。
性別欄のない市販の履歴書が見当たらず、「Microsoft Excel」で自作した履歴書を企業に提出していた。戸籍上は女性だったが、ホルモン治療を始めていて声が低くなっていたため、履歴書には性別を記入していなかった。
企業側のこうした否定的な反応を受けて以降、佐藤さんはその他の企業では性別欄のある市販の履歴書を使うようになった。
敢えて空白にして提出すると、面接官から「しっかり(男か女に)丸付けてもらっていいですか」と促された。
「不注意で印をつけ忘れていると誤解されました。その場でカミングアウトしたくなかったので、すみませんと謝るしかありませんでした」
「性別欄があると、面接の段階で強制的にセクシュアリティをカミングアウトしなければいけなくなる。欄があることで、面接に行くたびにプライベートな部分を伝えることへの不安を感じています」
■当事者の半数近くが「困難」感じる
性別欄に困難を感じている人はどれくらいいるのか。
毎日新聞によると、性的少数者への理解を広げる教育活動に取り組むNPO法人「ReBit(リビット)」は2018年、性的少数者を対象に就活に関する調査を実施(有効回答者数241人)。どんな困難に直面したかを選ぶ質問では、出生時と異なる性別を自認するトランスジェンダーの半数近くが「エントリーシートや履歴書の性別記載欄」と回答していた。
そもそも、採用の際に性別によって扱いを変えることは、男女雇用機会均等法で禁止されている。
「採用時に性別を尋ねる合理的理由がないのに、履歴書に性別欄は不要だ」として、欄の削除を呼びかけるネット署名も始まっている。2020年2月から6月30日までに、1万筆以上の賛同が集まった。
■JIS規格で削除なら「影響大きい」
朝日新聞デジタルなどによると、公立高校の入学願書や地方自治体の職員採用試験の申込書では、性別欄を撤廃する動きが進んでいる。
一方、国内企業で履歴書のフォーマットの参考例として広く使用されているJIS規格の履歴書には、性別欄が依然残ったままだ。JIS規格そのものに性別欄の記載が必須なわけではないが、規格票を発行する一般財団法人「日本規格協会」が示す参考例には性別欄があるため、国内で流通する履歴書の多くがこれに倣っている。
若者の労働相談を受けるNPO法人「POSSE」の佐藤学さんは、記者会見で「経産省や厚労省は、性別欄をなくす取り組みをほとんどしていない」と指摘。「JIS規格の履歴書から性別欄がなくなれば、それ以外の履歴書の使用を求めている企業にも性別欄が不要だとの認識が広がり、影響は大きい」と強調した。