オンラインを選べるのは「コロナ不安」だけ?不登校生の保護者から「線引きは不合理」の声【UPDATE】

コロナの感染不安を理由に、ライブ配信による授業参加を認める自治体が出てきている。一方で、不登校の児童生徒は対象外としているケースもあり、保護者から疑問の声が上がる。
授業をライブ配信する福岡市の学校=6月5日、福岡市中央区
授業をライブ配信する福岡市の学校=6月5日、福岡市中央区
時事通信社

基礎疾患があるなど、新型コロナウイルスの感染不安を理由に登校できない子どもを対象に、ライブ配信による授業参加を認める学校が出てきている。一方で、「不登校の児童生徒は参加できない」としている自治体もあり、保護者から「線引きは合理的でなく、納得できない」との声が上がる。

「コロナが流行る前から、学校に通えない子どもの学びの機会が保障されていない問題はずっとあった。ようやく学校とつながって勉強できると思ったのに…」

小学3年の男児の母親(福岡市)は落胆する。

福岡市教育委員会は6月から、市立学校の一斉登校を再開。市教委は、基礎疾患などの理由で登校に不安がある子どもが自宅からオンライン授業に参加できるよう、ネット配信の準備を進める方針を示していた。

だが、市教委が各学校を通じて保護者に配布した通知では、対象となる児童生徒を

・基礎疾患(本人もしくは家族)があるため登校していない児童生徒

・感染の心配を理由に登校していない児童生徒

に限定。

「オンライン授業は、新型コロナウイルス感染症対策のための緊急措置であり、上記の児童生徒を対象として、学習機会の保障を行うものです」と太枠で強調した。

先述の男児は、発達障害の特徴の一つである聴覚過敏がある。外部の音に敏感に反応して苦痛を感じやすいことも、学校に通えない理由の一つという。

男児の母は「基礎疾患があってコロナ感染が不安な子どもも、コロナ以外で様々な不安を抱えて登校できない子どもも、学校に行きたくても行けない事情は同じ。コロナだけを理由に線引きされるのは差別的で、納得できません」と訴える。

オンライン授業に関する福岡市教委の通知。学校を通じて保護者に配布された
オンライン授業に関する福岡市教委の通知。学校を通じて保護者に配布された
保護者提供

福岡市の高島宗一郎市長は、6月5日のブログで

「昨日は不登校になっている生徒がオンライン学習に参加し、学校に行きたくても行けない子どもと学校を繋げる橋渡しになったなど、コロナ対応以外としても選択肢を広げることになる嬉しい報告ももらいました。なんとインクルーシブなのでしょう!」と書き込んでいた。

ライブ配信を導入した当初は、不登校の子どもが参加するケースもあったが、その後の市教委の正式な決定では「対象外」となった。

ブログを見ていた男児の母は、「不登校の子どもも当然、オンライン学習に参加できるものだと思いました。期待していただけに、本当にがっかりしました」と打ち明ける。

■ネット環境「十分に対応できない」

なぜ不登校や長期療養中の子どもは含まれないのか?

福岡市教委によると、コロナ対策で市教委が準備した通信端末は小中学校で計400台。市内の不登校の児童生徒数は約3000人で、担当者は「ネット環境は家庭によって様々で、希望する全ての家庭に十分対応することは難しい」と説明する。

市教委は、全ての児童生徒にタブレット端末を12月に配布する方針で、これに合わせて不登校の子どもたちも授業のライブ配信を受けられるよう環境整備を検討している段階という。12月の端末の全面導入に向け、すでに一部の学校で、不登校の子どももオンラインで授業に参加する取り組みを試験的に進めている。「不登校の子どもたちを置き去りにすることは全く考えていません。授業参加を希望する保護者の声をしっかり受け止めたい」

■熊本市は不登校生も対象。寝屋川市は2学期から

対応は自治体によって分かれる。

休校期間中の4月から、小学3年生以上を対象にオンライン授業をいち早く導入した先進事例として知られる熊本市教委。6月上旬に授業が全面再開してからは、全ての学年でコロナが不安で学校に来られない子どものほか、不登校や体調不良による長期休みの児童生徒も、希望すればライブ配信の授業に参加できる。

市教委の担当者は、不登校生らを対象に含めた理由について「休校期間中のオンライン授業に、不登校の子どもも参加できた。学ぶ機会の提供を続けていくため」と説明する。タブレット端末などの通信機器は、家庭にある場合は家庭のものを使用してもらい、用意できない場合は学校から貸し出す。

登校かオンラインかを選べる「選択登校制」を導入している大阪府寝屋川市教委は6月25日、当初「コロナ不安を理由とする場合のみ」としていた方針を変更し、不登校や長期入院で療養中の場合もライブ配信を受けられるようにした。ただ、「子どもによって事情が異なるため、スクールカウンセラーの意見も踏まえた上で進める」として、導入は2学期(8月)からの見込みだ。

■文科省「学習機会の確保を」

国としての方針はあるのか?

文部科学省は2019年10月、学習機会の確保のため、ICTを活用した自宅学習も、校長の判断で出席扱いとする通知を出した。コロナ禍を機に始めた授業のライブ配信についても、この扱いを適用することができるという。

文科省の担当者は「自治体によって端末の整備状況や不登校の子どもの対応が異なるため、オンライン授業の対象にするかしないかを一概に評価はできない」と前置きした上で、「一般論として、ICTを使った学習機会の確保を推奨している」と話す。

【UPDATE】2020/7/6 15:20
福岡市教育委員会は7月6日までに、授業のライブ配信の対象に、不登校など新型コロナウイルスの感染不安以外の理由で長期欠席する児童生徒も含めることを決めた。市教委学校指導課によると、不登校のほか病気療養中の子どももオンラインで授業を受けられるという。

同課は、7月1日に対象拡大について全ての小中学校に伝えたという。「通信端末の台数が足りない」として対象を限定していた当初の方針を転換したことについて、同課は「12月に不登校の子どもたちも対象にするとしていたが、保護者の要望などを受けて前倒しにした」と説明する。タブレット端末とネット環境を用意できる家庭には家庭のものを使用してもらい、所有していない場合は、学校のパソコンルームで授業に参加するか、家庭に通信機器を貸し出して対応するという。

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