新型出生前診断の指針改定に「待った」。有志の会が日産婦などに提言書を提出「妊婦のケア、充実を」

日産婦が新型出生前診断(NIPT)の指針改定を発表。産婦人科医などでつくる有志の会が、「拙速な方針決定はすべきではない」として提言をまとめ、日産婦や国などへ提出した。
会見する呼びかけ人の柘植あづみ・明治学院大教授(左から2人目)ら有志のメンバー
会見する呼びかけ人の柘植あづみ・明治学院大教授(左から2人目)ら有志のメンバー

妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる新型出生前診断(NIPT)のあり方をめぐり、医師や専門家などの「有志の会」が、実施施設の拡大などについて拙速な結論を出さないよう求める提言書を国や指針を定める日本産科婦人科学会(日産婦)などに提出した。有志の会は6月24日記者会見を開き、「妊婦や障害のある子どもの家族など、様々な立場の人から実態を聞かず、医師だけで指針をまとめることは問題」などと訴えた。

NIPTについては、日産婦が6月20日、実施を小規模な医療機関にも広げるよう指針を改定したと発表している。その背景には、認定を受けず独自に検査する施設が増加する実態があった。非認可の施設では、妊婦に対して十分な説明を行わなかったり、診断前後の相談に応じなかったりする問題が確認されていた。
そのため、日産婦は質を担保しながらも認定施設を増やす必要があるとして、2019年3月、小規模な医療機関も認定を受けられるよう要件を緩和する指針案を公表していた経緯がある。

■提言のポイントは?

提言書を作成したのは、産婦人科医や生命倫理の専門家、妊婦の支援者など有志16人でつくる「NIPTのよりよいあり方を考える有志」。

有志の会が作成した提言の主な内容をまとめた。

・NIPTなど出生前検査・診断の施策・指針の策定に、検査の対象となる妊婦や家族らの支援者、病気や障害のある子どもの親など当事者の参加を求める

・医師など医療従事者は、NIPTの情報提供の際、自らの価値観を押し付けないよう留意し、女性の意思決定を尊重する

・実施施設は、妊婦へのカウンセリングや相談体制の質を確保するため、関係者への研修を充実させる。流産や中絶などで胎児を失った人へのグリーフケアの研修も求める

・行政機関は、母子保健や障害者福祉、子育て支援などに関わる情報を、医療従事者や妊婦がアクセスできるように環境整備する

・診断の結果が陽性と判明し、意思決定の支援が必要な女性へのケアを充実させる

・検査を取り巻く社会的問題は妊婦やパートナーだけに負わせない。病気や障害を持つ人への偏見や差別の解消と支援の拡充を継続していくべき

・検査を受けた女性がその後の選択について必要以上に葛藤する現状を改善するため、女性のリプロダクティブ・ヘルス(ライツ)の実現を重視する

イメージ写真
イメージ写真
Getty Images

 ■「世の中全体で考えるべき」

有志の会は昨年6月、NIPTの実施施設の要件緩和などを盛り込んだ日産婦の指針見直しの方針を受けて発足。呼び掛け人で明治学院大の柘植あづみ教授(医療人類学・生命倫理学)は「改定のプロセスを公表せずに指針が決まってはいけない」と、設立の目的を説明した。有志の会はこれまで6回にわたり勉強会を開き、今回の提言書をまとめたという。 

会見では、妊婦の支援者や専門家など、それぞれの立場から現状報告があった。

脳性麻痺の長女とダウン症の長男を持つ母で、NPO法人親子の未来を支える会で理事・ピアサポーターを務める水戸川真由美さんは「これは夫婦だけの問題ではない」と指摘。障害者が社会でどう生きていくかなど、背景には様々な課題があるとし「NIPTについてだけでなく、様々な面から世の中全体で考えていかなければいけない」と話していた。

認定遺伝カウンセラーの田村智英子さんは、妊婦が産科医にNIPTについて尋ねた時に「命の選別です、調べてどうするんですか?」という否定的な対応をされたり、NIPTに関して長い間説明を受けられず、質問した際に「今更言われても遅い」と言われたりといった事例を紹介。「現場で何が起こっているかが伝わらないまま、指針の改定が進められている」と懸念を示した。さらに、「現在、検査を実施している認定施設の(相談支援の)質もばらつきがある」と課題を述べた。

■新指針では小規模な医療機関でも実施可能に

NIPTは、妊婦の血液に含まれる胎児のDNAから胎児の染色体異常を推定する検査で、日本では2013年に導入された。確定診断には羊水検査などが必要だが、流産や感染症の危険がない。

ただ、命の選別につながりかねないなどの指摘もあり、朝日新聞デジタルなどによると、日産婦が産科医や小児科医ら複数の専門医による相談体制が整っていることなど厳しい指針を策定。日本医学会が主に大学病院や総合病院を認定し、原則35歳以上の妊婦を対象に行ってきた。実施施設は全国に109カ所ある(2019年度末)。

一方で、認定を受けず独自に検査する施設が増加。妊婦に対して十分な説明を行わなかったり、診断前後の相談に応じなかったりする問題が確認されていた。

日産婦は質を担保しながらも認定施設を増やす必要があるとして、2019年3月、小規模な医療機関も認定を受けられるよう要件を緩和する指針案を公表。これに対し、日本小児科学会や日本人類遺伝学会が慎重な扱いを求めていたため、現場で指針案の運用はしていなかった。

毎日新聞などによると、両学会が、妊婦の支援強化などを条件に実施施設の拡大容認に転じたことから日産婦は指針改定に踏み切った。 厚生労働省の了承を得られれば、新指針の運用を始めるという。

注目記事