働く人が声を上げるには。SNS時代の労働組合の役割を考えてみた。

「#Black Lives Matter」や「#検察庁法改正案に抗議します」。これらのハッシュタグがSNS上で大きなムーブメントを起こしています。企業や働く人が政治問題や社会問題について発信する動きを目にするようになりました。労組のトップである連合の神津里季生会長のインタビューを元に問題を整理してみました。
オンラインでの取材に応じる連合の神津里季生会長=2020年6月22日
オンラインでの取材に応じる連合の神津里季生会長=2020年6月22日
松原一裕撮影

「Black Lives Matter」運動では、様々なアメリカの企業も人種差別に反対するメッセージを表明し、SNSを通じて広く可視化されるようになった。日本でも5月、ひとりの会社員が始めた「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグが大規模なオンラインデモにつながった。 

「おかしい」と思ったことはTwitterなどで誰もが訴えることができる時代だ。それは身近な職場の問題においても、そうだ。理不尽な転勤命令、育児支援の足りなさ、様々なハラスメント。日本の職場の問題がここ数年、SNSによってあぶりだされてきた。

働く人の悩みを集約し、解決策を探ったり政策に結びつけたりするのは全国の労働組合を束ねる中央組織「連合」の役割だ。結成から約30年がたち、SNSが広まった現在、その役割は変わっているのではないか。

ハフポストは6月23日午後9時からのTwitter生配信番組『ハフライブ』で、「働く人が社会や政治について発信すること」について、議論をする。番組の配信前に、神津里季生会長にインタビューし、働く人が声をあげることについて考えてみた。

働く人の権利やルールが世の中に浸透していない

労働組合(労組)は、個人だと弱い立場の労働者が、団結して雇用主などの使用者側と交渉することで、労働条件を良くしたり権利を守ったりするためにある。

全国には企業ごとに集まる労組や、産業ごとの労組があり、それらを束ねるのが連合だ。1989年に結成され、現在は700万人以上の組合員がいる。選挙のときに政治家を支援することも多く、政党にとっては重要な支持基盤となっている。

そのトップの神津会長は「おかしいと思ったことは変えていく、言いたいことを言うという、その良さは大いに賛同する」とSNSの動きに注目しているという。神津会長自身も、2013年3月にTwitterのアカウントを開設し、1年ほど前から発信に力を入れている。

一方、新型コロナの感染拡大で、労働組合そのものや、労働者の権利が働く人に知られていないことを改めて痛感したという。

「連合が昔からやっている電話相談では、年1万5000件ほどの相談を受けます。コロナ禍のこの2月~4月は、前年の倍近くの相談件数を受けていますが、そこで痛感したのは、本来働く者として持っている権利や、使用者が守らなくてはいけないことなどのルールが世の中に浸透していないということです」

コロナの感染拡大で経営的に苦しい会社も多く、労働者が職を失ったり給料を減らされたりしている。一方、憲法28条は、労働者の団結権、団体交渉権、争議権の労働三権を保障している。職場に問題点があれば、使用者側と交渉して労働条件を変えていくことができる。2人以上の労働者がいれば、自主的に「労組」を結成することも可能だ。

神津会長は「コロナ禍で露呈したのは、日本の社会の中にある宝が持ち腐れになっているということです。労働組合をつくれば、団体交渉ができる。使用者は話し合いに応じなければならない義務もある。本来は、働く人は相当な力を憲法で保障されているんだけれども、その事実を多くの働く人たちが知らない」

低い労働組合の組織率、認知度に課題

厚生労働省によると、労働組合に加入している人の割合を示す「組織率」は2019年6月末時点で16.7%。8年連続で過去最低を更新している。

また、連合が2017年に実施した調査によれば、「連合の活動の内容を含め知っている」と答えた人はたった13%。「名前くらいは知っている」が53.4%で、「知らない」が 33.6%だった。

「連合を知らないということは、労働組合を知らない。あるいは聞いたことはあるけど、それって何だろう、ということですから」

いまの働く人たちの生きかたは多様だ。非正規労働者、フリーランス、外国人労働者など従来の労組の枠組みでは支援が十分に行き届かない人も増えた。副業や転職が当たり前になれば、会社単位で入る労組との繋がりも薄くなる。ウーバーイーツの配達員のように、インターネットを通して仕事を単発で請け負うギグワーカーという新しい働き方も出てきた。

それに、男性の育児の支援など、男性中心の職場で組織されてきた労組では、これまで十分に捉えきれなかった問題も多い。

「組合費がもったいない。困ったらLINEで」

これまで働いてきたどの会社でも、労組に入らなかったという、30代のIT企業のエンジニアに取材してみた。

「組合費をとられるのがもったいない。困ったことがあればLINEでつながっている他のエンジニア仲間が相談にのってくれる。昔は労組を通して社会や政治が変わっていったのは分かるが、まわりくどく感じる」という答えが返ってきた。

また、身近な職場の同僚である場合も多い労組のメンバーには、逆に会社側に知られたくない相談をしにくいという声もある。

神津会長にもそうした様々な声はTwitterを通して耳に入っているという。

「私に対してもキツい言葉を浴びせられることがあります。どうせ労働貴族だろうとか、連合なんて第2の経団連(=日本経済団体連合会。日本を代表する企業が加盟し、企業側に有利な税制や規制緩和などを政策提言することが多い)じゃないかとか。政治的なバイアスがかかっている場合もあります。ただ、よきにつけ、悪しきにつけ、連合ってよくわからないな、と思われている。どう評価すればいいのかということがあまり定着していないと感じました」

一方、神津会長は、「SNS上で罵詈雑言が飛び交うことやフェイクニュースが流されることで、SNSを利用している人、していない人の間の分断も深まっているのではないか」とも話す。匿名の投稿だと、問題を特定しにくいというデメリットもSNSにはある。そのためにも、連合自体が新しい経済のあり方を敏感にとらえ、受け皿をつくっていく必要がある。

フリーランスなども対象 ネットで会員募集へ

神津会長はウーバーイーツの配達員を例に挙げ、「『あいまいな雇用』と呼んでいますが、形式的には個人事業主かもしれないが、どうみても労働者性がある働き方が広がっている」と指摘する。

ウーバーイーツの一部の配達員は労組を作ったが、こうした働き方の広がりを受け、連合は10月にも従来の組合員とは別に、個人事業主やフリーランスなども対象にした「連合ネットワーク会員」(仮称)としてインターネットを通じて募集を始めるという。「理不尽な使用者に対してどう言えばいいのかなど、私たちにはノウハウの蓄積がある」として、ネットワークを広げつつ、労働相談を受け付けるそうだ。

本来、連合は立憲民主党や国民民主党の支持母体だ。だが、東京都知事選をみても、野党系の候補が統一されず、連合東京は現職を支持している。こうした政治的なスタンスのわかりにくさも課題だ。

働く人が政治や社会問題にコミットする理由とは?

政治や社会を変えること、というのはどうしても遠い世界の話だという印象がある。だが、人間が集団の中で生きていて感じる苦しみや意見の対立を調整したり、現状を変えたりすることを指す言葉だと思えば、少し見方が違ってくる。

それは職場で感じるちょっとした疑問から始まることが多い。たとえば、テレワーク中に会社の書類にハンコを押すために出社することの理不尽さを訴える声がSNSであがった。そうした動きも影響し、政府は契約書に押印しなくても法律違反にならないことを明記する指針を6月19日に出したばかりだ。労組だけでなく、様々な方法で声を届ける手段はある。

社会問題が起こればアメリカ企業などが声明を出し、働く人もSNSをはじめとした様々なルートで声をあげる。6月23日午後9時からのハフライブで、働く人が政治や社会問題にコミットすることについて考えてみたい。

▶︎視聴は以下のURLから(無料です。時間になったら配信が開始されます)
URL : https://twitter.com/i/broadcasts/1lPKqVvLMeNGb

日時:6月23日(火)午後9時〜

テーマ:「アメリカ企業の『政治発信』から日本が学べること。働く人が社会にコミットする時代」

ゲスト:

経営学が専門

入山章栄さん/早稲田大学ビジネススクール教授

AIソリューションを提供

平野未来さん/株式会社シナモン 代表取締役社長CEO

パーソナリティー:辻愛沙子さん(arca CEO /クリエイティブディレクター)、竹下隆一郎(ハフポスト日本版編集長)

なんとなく受け入れてきた日常の中のできごと。本当はモヤモヤ、イライラしている…ということはありませんか?「お盆にパートナーの実家に帰る?帰らない?」「満員電車に乗ってまで出社する必要って?」「東京に住み続ける意味あるのかな?」今日の小さな気づきから、新しい明日が生まれるはず。日頃思っていたことを「#Rethinkしよう」で声に出してみませんか。

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