韓国政府が、長崎など8つの県の23施設で構成される「明治日本の産業革命遺産」の世界文化遺産の登録取り消しを求める書簡をユネスコ(国連教育科学文化機関)に6月中に送ることを決めた。聯合ニュースなどが6月21日に報じた。
韓国側は、世界文化遺産に含まれる通称“軍艦島”と呼ばれる長崎市の端島炭鉱に関する展示内容について、「歴史的な事実を完全に歪曲した内容が含まれる」と強く反発し、登録取り消しを求めた。
その軍艦島とは、一体どのような場所なのか?
そもそも、「軍艦島」とは何か?
通称「軍艦島」は、長崎県にある端島(はしま)のことを指す。長崎港の南西約19キロにある周囲約1.2キロの島だ。
高層住宅群が立ち並ぶその外観から、軍艦島と呼ばれるようになった。
映画『進撃の巨人』のロケ地となったことでも知られる。
明治期から海底炭鉱で栄え、1916年には国内で初めて鉄筋コンクリートの集合住宅が造られた場所となった。最盛期は5千人以上が住んだが、1974年に閉山した後は無人島になった。
端島炭鉱は2015年7月、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」を構成する一つとして世界文化遺産に登録された。
文化庁は、軍艦島を含む「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船,石炭産業」について、19世紀後半から20世紀の初頭にかけて、後の日本の基幹産業となる造船・製鉄などの「重工業において急速な産業化を成し遂げたことを証言」する遺産として紹介している。
韓国側が世界遺産登録を「反対」していた理由
世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」について、韓国は、日本が登録をユネスコに推薦していた時から反対の立場を示してきた。
その主な理由には、対象とされる施設の一部が、植民地時代に強制徴用された朝鮮半島出身者が働かされた場だとする主張がある。推薦に反対する意向は日本側にも伝えていた。2015年7月に登録されたという経緯がある。
その後ユネスコは2015年5月、日本が推薦した23ヶ所について、世界遺産の登録は「適当」との勧告を出し、同7月に登録されたという経緯がある。
これについて、当時の菅義偉官房長官は、専門機関による勧告を根拠に「政治的な主張を持ち込むべきでない」などと述べていた。
取り消し求めるきっかけとなった「展示」とは
韓国の聯合ニュースは6月21日、日本は世界遺産登録の際、朝鮮半島の出身者などが、意思に反して一部の施設に強制的に連れて来られた上で厳しい環境で働かされたとして「犠牲者を記憶するため」の情報センター設置を進めると表明したと報じた。
東京都新宿区にある産業遺産情報センターでは、6月15日から同遺産を紹介する展示の一般公開が始まったが、これについて「主に日本の産業化の成果を自画自賛するもので、強制徴用犠牲者の被害自体を否定する証言や資料を展示するなど、約束を守っていない」とした。
韓国側のこのような主張がある一方、日本は、同センターの展示の中で、差別的な対応はなかったとする元島民の証言を紹介している。
世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」をめぐって、韓国側は朴良雨文化体育観光相らが6月18日、与党議員への業務報告でユネスコに登録の取り消しを要請する方針を明らかにしたと報じられている。
菅官房長官は6月22日の記者会見で、韓国側が登録の取り消しを求める方針を固めたと一部メディアが報じたことについて言及。
「報道は承知している」としたうえで、「いずれにしても我が国はこれまでに世界遺産委員会による決議、勧告などを真摯に受け止めており、我が国政府が約束した措置も含め、それらを誠実に履行してきている。引き続き適切に対応していきたい」と述べるに留まった。