一つの写真に、世界中からコメントが溢れる。
自宅の窓から見える熊の姿をFacebookグループのView from My Windowに投稿したのは、アメリカ・ニューメキシコ州サンタフェのディーン・ドマーさん。「決してロックダウン中のミラクル(奇跡)ではないのですよ。このあたりは自然にあふれ、たくさんの種類のクマがいます。夏の90日間に70頭位は見ます」と”日常風景の一端”をハフポスト日本版に説明してくれた。
日本でも東京アラートが解除され、世界各地でもロックダウンは続々と緩和されているが、自宅隔離後も活発に続いている投稿サイトがある。それがFacebookグループのView from My Windowだ。
閉ざされた空間で過ごす生活が続く中で、個人の家が日常の扉を世界に開けた。世界各地の人々の家から見えるちょっとした景色が、静かな熱狂をなお集めている。
ニューヨークマンハッタンに住むアンドレア・ダンドレアさんは、5月13日に夕刻の様子をアップした。ニューヨークの象徴でもある貯水槽が夕陽に浮かび上がる幻想的な情景だ。ダンドレアさんは「アパートメントが密集するアッパーウエスト地区に住んでおり、ロックダウン中の自宅の窓から見えた風景を送りました」と取材に答えた。
日本から敷地内の花の写真を投稿したのは加茂登志子さん。緊急事態宣言下の5月9日に掲載した。自宅に併設する花鳥園の所有者である加茂さんは「コロナ禍でも何があっても花は咲く。それを皆様と共有したくて投稿した」と話す。
この投稿写真に、世界中から16万人がいいねなどの反応をし、2.1万人がコメント。「アメリカ・カリフォルニア州の者です。素晴らしい!」「言葉が出ません」「素敵。カナダのオンタリオ州のブロックビルの住民より」「こんなに素敵な庭はみたことがない。素晴らしすぎる!」などいずれも熱い言葉が並んだ。
このFacebookグループは3月22日に作られ、現在232万人あまりがメンバー登録している。
このView from my windowのFacebookグループを作ったのは、オランダ・アムステルダムに住むフリーのグラフィックデザイナーのバーバラ・デュロウBarbara Duriauさんだ。「ロックダウンで人々は孤立し、日々の悪いニュースに落胆する中、窓から見える景色に癒され、なんとか希望を見出そうとしていた。リビングから新鮮な世界の空気を感じたいという思いがあるのではと感じました」と開設した理由をハフポスト日本版の取材に対して答えた。
「今、このFacebookグループは一つの大きな“ファミリー”になりました。多くの人にとって、3万キロ離れた人の誰かの窓からの景色を一緒に楽しみ、メッセージ交換で会話することができた初めての機会ではないかと思います。
世界の人と視線を共有し、今日はどんな景色が届いているかなと思ってページを開く。これは人々にちょっとした希望を、薄暗い世界に一筋の明かりをもたらすものになったのではないかなと思います」と話す。
デュロウさんは、世界各地でロックダウンが緩和されていた4月29日に新規の投稿をいったん終了させたが、その後もファンの輪は広がり続けている。今も投稿された写真にコメントが寄せられ、動きは活発だ。
このFacebookページには「外に行けなくても、世界の人と繋がれた」。こんな声が溢れる。私もロックダウン中だったアメリカの友人から誘われ、3月末にFacebookグループに入っており、緊急事態宣言下に心を和ませていた。
薔薇の絵文字やキラキラの絵文字。ネガティブなコメントは見当たらない。全く知らない人たち同士のコメントをみたり、投稿者がそのコメントに返信したりいい交流が生まれている。数千以上のコメントがつくこともざらだ。
新型コロナウイルスによる自宅隔離という厳しい環境に、世界が同時に直面した前代未聞の出来事。その環境下に生まれた、人の“善き心”が表出した。
「せっかく世界のいろいろな人とつながったので、なくさないで」。そんな声にも押され、管理人のデュロウさんはクラウドファンディングで資金を集め、写真集を作る予定だ。
このFacebookグループに静かに熱狂する人が多いのは、昔あったペンフレンドのようなものだろうか。そう簡単には飛行機に乗って海外にいけない中、海外にペンフレンドを作り、手紙を通じて見知らぬ土地に思いを馳せる。
このサイトも、断片的な生活の一端を垣間見て、世界の果てにいる人々に思いを巡らす時間になっていた。いつも忙しかったはずの時間の流れ。新型コロナで緩やかになったことが、もたらしてくれたギフトなのかもしれない。(ハフポスト日本版・井上未雪)