アップリンク元従業員ら5人、パワハラで代表を提訴 「社会的意義ややりがいに回収され沈黙強いられた」

代表の浅井氏は「不適切な言動があったことを深く反省し、謝罪致します」とのコメントを発表している。
記者会見で提訴に至った経緯を話す従業員ら
記者会見で提訴に至った経緯を話す従業員ら
時事通信社

映画配給会社「アップリンク」(東京都)や関連会社に勤務していた元従業員の男女5人が、6月16日、浅井隆代表からパワハラを受けたとして、浅井氏と同社に対して合計760万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。

提訴した元従業員は約10カ月〜4年間勤務。劇場の運営や宣伝プロデューサーなどとして働いていた。浅井氏からは利用者や他社従業員の前で叱責されたり、怒鳴られたりといったことが日常的にあったという。

他に元従業員らが訴えたのは、浅井氏の以下のような行動。

・休日返上の業務中に、猫カフェに一緒に入店するよう求められ、業務とは無関係に2時間も拘束した
・浅井氏が落とした物(ゴミや飲み食いした物など)を浅井氏自身が拾うことができるにもかかわらず、従業員に拾わせる

アップリンクは浅井氏が1987年に映画の配給会社としてスタートさせた。映画の企画・製作などの事業のかたわら渋谷・吉祥寺・京都でミニシアターを運営。ドキュメンタリーや社会問題に光を当てたインディペンデント映画を多数上映し、併設のギャラリーやカフェとともにカルチャーの発信地としてファンも多い。配信サービスなども手掛けており日本におけるミニシアター文化の中心的存在だ。

コメントを発表した5人の従業員は、アップリンクに尊敬や憧れ、共感を持って入社に至ったが、ポリシーとは著しく乖離する社内の状況に期待を裏切られ、社会的意義や「やりがい」に回収され沈黙を強いられたという。

「お客様が映画を楽しむスクリーンの裏側で、私たちは悔しさを感じながら、涙をこらえながら出勤していました」との声明を発表した。

さらに、カフェでアルバイト店員をしていたという鄭優希さんは「アップリンクは様々な人、特にマイノリティからのたくさんの期待を背負っている場所。どうして人々がエンパワーされる場所で声を押し殺されてしまう構造ができているのか、納得がいきません」としている。

また、劇場運営スタッフだった清水正誉さんは、新型コロナでミニシアターを守る動きがある中での提訴には躊躇があったとしつつ「ハラスメントに悩む労働者が『コロナでパワハラどころではないのかな』と思い黙ってしまうのではないか。私たちが今声を挙げるのは、そのような非常にかき消されやすい声を心に閉まってしまいそうな人たちに『その必要はない』と伝える効果もあるのではないか」とした。

提訴の発表を受け、浅井氏は同日、アップリンクのウェブサイト上に謝罪のコメントを発表した。

元従業員の方々から訴訟を提起されたことに関して、真摯に受け止めております。不適切な言動があったことを深く反省し、謝罪致します。本件の解決に向けて、誠意をもって対応をして参ります。
社としてもハラスメントの再発防止に努めていく所存です。
改めて詳細なコメントを発表します。少々お時間をいただけますようお願い申し上げます。

2020年6月16日有限会社アップリンク取締役社長 浅井隆

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