「ハリー・ポッター」シリーズの原作者J.K.ローリングさんが、トランスジェンダーを嫌悪する内容の発言をしたことを受け、シリーズの映画で主役のハリー・ポッターを演じたダニエル・ラドクリフさんが6月8日、「今回の(J.K.ローリングさんの)コメントが引き起こした痛みを、深くお詫び申し上げます」などと謝罪する声明を発表した。
■「月経がある人たち」の表記を茶化す
J.K.ローリングさんは、Twitterで「月経がある人たちにとって、ポスト・コロナをより公平な世界にするために」というタイトルの意見記事を引用。「“月経がある人たち”。以前はこういう人たちを表す言葉があったはず。誰か教えてくれますか?ウンベン?ウィンパンド?ウーマッド?」と投稿した。
引用された記事では、性自認が男性で体が女性というトランスジェンダー男性など、女性以外で月経がある人にも配慮した表現をするため「Women(女性)」ではなく「月経がある人たち」と表記していた。これを茶化すようなJ.K.ローリングさんの投稿に、「トランスジェンダーに対して嫌悪的な発言」などと批判が上がっていた。
■「今この瞬間、言わなければいけない」
ラドクリフさんは、若年層の性的少数者の自殺防止活動に取り組む団体「The Trevor Project」のウェブサイトで声明を発表した。冒頭、「一部のメディアは、この声明をJ.K.ローリングと私との闘いのように描きたいと思うかもしれませんが、そうではありません。また、それは今重要なことではありません。
ジョー(J.K.ローリングさん)は間違いなく僕の人生を責任を持って導いてくれた人ですが、この10年間、The Trevor Projectと協力し、貢献してきた者として、また一人の人間として、私は今この瞬間、何かを言わなければいけないと感じています」と述べた。そして、こう続けた。
「トランスジェンダー女性は、女性です。これに反対する意見は、当事者のアイデンティティや尊厳を奪い、ジョーや私よりもはるかに専門性のある医療従事者たちの助言と相反するものです。
The Trevor Projectによると、トランスジェンダーやノンバイナリー(性自認が男女の枠組みに当てはまらない人)の人たちのうち、78%が性自認を理由に差別の対象となっているそうです。彼らのアイデンティティを無効にしたり、さらなる被害を生み出すのではなく、彼らをもっとサポートしていかなければいけないのは明らかです。私は今も、より良いアライ(支援者)になるために学び続けています」
■発言による痛みに「深くお詫び」
ラドクリフさんは、J.K.ローリングさんへの批判が、「ハリー・ポッター」のファンに与える影響についても懸念を示した。
「(ハリーポッターの)本の経験が損なわれた、あるいは薄れてしまったと感じた全ての方々に、今回の(J.K.ローリングさんの)コメントが痛みを引き起こしたことに、深くお詫び申し上げます。皆さんが物語の中で貴重だと感じたものが、完全には失われていないことを願っています。
この本が皆さんに、愛が宇宙でもっとも強い力であり、どんなことも克服できると教えてくれたのなら。強さは多様性の中にこそあり、純粋さからくる独善的な思想が脆弱な集団の抑圧につながるということを教えてくれたのなら。もしも皆さんが、ある特定のキャラクターについて、彼らがトランスジェンダーで、ノンバイナリーで、性が流動的で、あるいはゲイで、バイセクシュアルであると信じるのなら。皆さんがハリー・ポッターの物語に共感し、人生のどこかの時点で助けとなる何かを見つけられたなら。それは、あなたとあなたが読んだ本の間にあって、神聖なものです。私は、それは誰にも侵されるものではないと考えています」
■トランスジェンダーを中傷、過去にも
J.K.ローリングさんは批判を受け、Twitterで「私はトランスジェンダーの人たちのことを知っているし、愛を持っている。だけど、性別の概念を消し去ることは、たくさんの人々が自分の人生に対して有意義に議論する可能性を奪うことになる」などと釈明していた。
J.K.ローリングさんは過去にも、トランスジェンダーを嫌悪する言動で批判を浴びている。
2018年には、トランスジェンダー女性に対して「ドレスを着た男性」などと中傷したツイートに「いいね」を押したことが発覚。19年には、「人は性別を変えられない」といった発言で仕事を失った女性を擁護する内容をツイートし、批判を受けていた。