社会運動や労働運動に取り組む人たちに対するネットの誹謗中傷が相次いでいるとして、作家や弁護士、ジャーナリストなどが、被害者の救済などに取り組むネットワーク「SNSOS」を結成した。
■被害者、泣き寝入りさせない
名称は、「SNSにおける労働問題・社会運動に対するヘイト攻撃に対抗するネットワーク」。弁護士やジャーナリストなどが発起人で、作家や社会運動家など約50人が賛同人に名を連ねる。
女性の運動家に対する性差別的な中傷、労働組合を「反社会的勢力」だとレッテルを貼るデマの宣伝、弁護士に対する不当な大量懲戒請求の扇動といった行為がネット上で後を絶たないことから、「被害者を泣き寝入りさせないネットの言論空間を作る」ことをネットワーク結成の目的としている。
SNSOSは6月9日、東京都内で記者会見を開いた。発起人の一人で、日本マスコミ文化情報労組会議議長の南彰さんは「人権を侵害する誹謗中傷がネットに氾濫して、社会を良くするために声を上げ、活動する人の心が折れている。傷つけられた人たちを支え、安心して活動できる環境を作っていかなければいけない。ネットの誹謗中傷としっかり闘っていきたい」と訴えた。
■物言う女は黙らせる、という「正義感」
作家で活動家の雨宮処凛さんも賛同者の一人だ。雨宮さんは会見で、同時刻に多くの人から大量にリプライを送られたり、「非国民」「日本から出ろ」といった言葉の攻撃を日常的に受けていると明かした。
雨宮さんは、「物言う女に対しては集団リンチして黙らせなければいけないと、正義感で思い込んでいる人たちが一部いる」と指摘。「無視すればいいと言う人もいるが、何度も繰り返し中傷を受けると精神的に追い詰められる。今までこうした集団リンチに対して、情けなくて恥ずかしいと思っていた。嫌なものは嫌だと言っていい」と、ネットワークに参加した理由を述べた。
活動に賛同する俳優の石川優実さんも、書面で中傷被害を訴えた。2019年に#KuToo運動を始めてからSNSで誹謗中傷を受けるようになり、「死ね」「レイプされろ」といった激しい言葉を向けられているという。
■匿名の発信者、特定に高いハードル
匿名の誹謗中傷は、書き込んだ発信者を特定し、法的責任を追及することのハードルの高さが問題になっている。
SNSOSは9日、ネット上の誹謗中傷を防ぐための要請書を政府に提出。
1発信者を特定するための要件引き下げ、開示のプロセスの簡略化
2削除などの要求に応じないプロバイダ事業者に対する罰則、説明責任の強化
3公権力や企業の不正に対する批判を制限することにならないよう、公益通報者の保護の強化
を求めた。国によるSNSの書き込みに関する法規制は「表現の自由を脅かす」との懸念もある。南さんは「公権力の不正を正し、表現して社会に発信するという表現の自由を侵害しないことにも注意しなければいけない」と述べた。
SNSOSは今後、被害者のサポート体制を構築するほか、ネットの誹謗中傷の問題を考えるシンポジウム開催も検討しているという。