#ローソンPBに思う 「豊かな社会」とは?あるデザイナーの問いかけ

無数の商品が世の中に送り出され、結果が悪ければ散っていく。それでいいのだろうか、それは幸せなのだろうか。デザイナーの大澤悠大さんが考えた。

今年春に全面リニューアルを行ったコンビニ大手、ローソンのプライベートブランド(PB)が話題だ。Twitterやnoteではプロのデザイナーの人々からも、リニューアルについて批評したり、その意図を想像する投稿が増えている。

この現象に対して、気になる意見をTwitterに書き込んでいる人がいた。デザイナーの大澤悠大さん。最近話題の政治や社会課題を扱う映像プロジェクト「Choose Life Project」のバナーデザインも手掛けたそうだ。少し詳しくその思いを聞いてみた。

「”売れたら味のおかげ、売れなかったらデザインのせい”って。デザイナー界隈ではよく言われるんですよ」

現在は独立して個人事務所を開いている大澤さん、以前は広告のクリエイティブエージェンシーで働いていた。そこで、2〜3年間に渡って飲料のパッケージデザインを手掛けていたのだという。

扱っていたのは、ソフトドリンクやアルコール飲料のペットボトルや缶などのデザインだ。一つの商品をリニューアルするだけでも、作業は半年がかりに及ぶのだという。何度も何度も、プレゼンや会議を重ね、いくつもの案を求められ提示し、やっと完成する。もちろん並行して中身のリニューアルも行われている。

そうしてやっと完成した商品がコンビニの棚に並べられるが、棚の獲得競争は熾烈だ。うまく行けば定番化することもあるが、不人気な場合、1カ月ほどで店頭から姿を消すこともある。「棚落ち」だ。

他の商品と並べられた時にパッと目立つもの。「視認性をあげる」ため、ひと目で商品がわかるようなものを求められることも多かった。売上という結果に対するクライアントの反応を見て、自虐的に言われるのが冒頭の言葉だという。

大澤さん
大澤さん
Yuriko Izutani / HuffPost Japan

確かに今回も、「売上があがったかどうか確かめないとデザインの良さは判定できない」とする声が多かった。しかし、実際の売上にはデザインだけではなく味や天候、出店状況や、もちろん新型コロナの行方など複雑な要因が混ざり合う。何がどう作用したのかを判定するのは、難しい作業になりそうだ。そして、批判が多く集まる状況では「デザインが悪かったからだ」と言われかねない。

同じようにして、無数の商品が世の中に送り出され、結果が悪ければ散っていく。それでいいのだろうか、それは幸せなのだろうか、と大澤さんは問いかけていた。

買う時に過度に目立つとか、極端に分かりやすい、というような『店頭で売れる』ためにつくられたデザインって、即物的で、人間の幸福に本当に寄与しているのか疑問だなと常々思っていました。多くの人が指摘しているような『わかりづらさ』ですが、ぼくには最低限の『わかりやすさ』を備えたデザインだと思いました。単に『店頭で売れる』に特化したデザインが溢れる社会は豊かではないような気がして。それよりも生活に寄り添うデザイン、手元に置いておきたくなるような親しみあるデザイン、言ってみればある種の『無駄』を受け入れる社会が、豊かなのではないかなと

ローソンのPB商品
ローソンのPB商品
HuffPost Japan

また、多くの人の声がローソンに投げかけられる状況には違和感も感じているという。

大澤さんは、国会デモに参加した経験を通じて、「SOVEREIGN(主権者)」をロゴにしたレインポンチョも販売している。最近では「Choose Life Project」のバナーデザインを担当したが、以前から若者が「主権者」として政治について考え、自分たちの意思を表明するきっかけになるようにという視点で様々なデザインを手掛けてきた。  

ボディは共通ですが、ロゴカラー違いで2種類つくりました。シルバーとホワイト。ちなみにシルバーは色移りするのでご了承いただける方のみ購入ください。それと一人で発送作業するので発送遅れちゃったらごめんなさい。。

Web Shop rocaihttps://t.co/g4xh7Wh1ay pic.twitter.com/yGdvc6NMd6

— 大澤悠大(Aroe inc.) (@OsawaYudai) May 26, 2020

コンビニは現在の日本では、社会インフラのようなものとして機能しています。でもそもそも社会インフラって基本的には公共機関が整備するものではないでしょうか。私企業が国に代わって『公共の福祉』を担うということ自体、ぼくには危険に感じます。便利で快適な機能をなにもかもコンビニに押し付けると、例えばそれが急になくなったときに困るのは私たち国民です。私企業の『社会的責任』には限界があるのです。それと、目の不自由な方やご高齢の方へのケアは、パッケージデザインだけで解決できることではなく、行政と私企業で複合的に解決していくべき社会課題ではないでしょうか。文句を言いやすい『コンビニ』という存在を叩くことで、本来政治に対して向けられるべき疑問や要望が消えているような。そういういびつさを感じます

現代社会の豊かさとは、そして企業はどこまで公共を担うべき存在なのか。とても身近な存在、コンビニをめぐる議論の広がりが、私たちに新たな視点を与えてくれる。

大澤悠大(おおさわ・ゆうだい)

アートディレクター、グラフィックデザイナー。1984年生まれ。2006年 多摩美術大学卒業。2016年 千駄ヶ谷にデザインスタジオAroe inc.を設立。広告のアートディレクションを中心に活動。森美術館 『六本木クロッシング2019展:つないでみる』のポスターや広告デザイン、GREAT FARMERS to TABLE ロゴデザインなどを手掛けた。

ハフポストがお届けするライブ番組「ハフライブ」。今回はローソン社長の竹増貞信さん、Retail Futuristの最所あさみさんをゲストに招いて、コンビニの未来について議論していきます。注目のローソンPBのパッケージについても社長に直接疑問を投げかけつつ、ローソンのビジョンについて聞きます。

6月9日(火)
21時からの「ハフライブ 」、視聴はこちらから⇨
https://twitter.com/i/broadcasts/1yNGaQNdQqbGj

(時間になったらハフポスト日本版の公式Twitterアカウント上で番組がはじまります。視聴は無料です)


番組に出る最所あさみさんがローソンのPBについて分析した、3本のnoteはこちらから⇨

その1

その2

ポストコロナの「コンビニ」を考える
ポストコロナの「コンビニ」を考える
MAYA NAKATA / HUFFPOST JAPAN

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