政府が2020年度第2次補正予算案に計上した、10兆円の予備費。
新型コロナウイルスの再拡大に備えるものとされるが、過去に例をみない異例の金額の規模に、野党や一部の国民からは疑問視する声があがっている。
予備費については、内閣の責任で使途を決められると憲法に定められているが、政権の裁量が大きく「(安倍政権に)フリーハンドで使わせるのか」との批判もある。
そもそも、予備費は予算を編成する際に使途を明確に定めずに計上する経費。
予備費は災害など緊急的な事態に対応するための制度だが、使途に関して国会は事後承諾にとどまり、監督が事後的にしか及ばない上に、内閣の責任も政治的責任にとどまる。
そのため、参院予算委員会調査室も「その計上及び使用はあくまで慎重であるべきと考えられる」としている。
過去、2009年のリーマンショック時には1兆円を計上したほか、2011年の東日本大震災の際には補正予算で予備費を組み込んだ上でさらに8千億円を上積みし、合計で約2兆円規模としていた。
今回はリーマンショック時の10倍に当たる計上規模で、異例の金額だ。
麻生太郎副総理兼財務大臣は6月1日、予備費について「第2波、第3波の可能性が考えられ、ワクチンや治療薬が出てくるまでは長期戦を考えないといけない。予見し難い予算の不足に充てるためには、予備費は極めて有効な手段の1つだと思っている」と言及。
また、公明党の山口那津男代表は党の参院議員総会で「予備費を過大に積むようなことは控えなければならない」とした上で、「緊急事態に対応するため予備費を活用し、足らなければ次の補正予算案で補充して備えることが国民を守る視点で大事だ。国会を召集して、次なる補正予算案を準備しているいとまがない場合もある」と話していた。
しかし、高額な予備費の計上について、ネット上では「いくらなんでも高額すぎるのでは」「見切り発車感は否めない」といった声や「新型コロナウイルスの政府の対応って、“アベノマスク”の失敗の印象が根強い。だから、本当にこんなに必要なのかと思ってしまう」など安倍政権への対応への不満を含んだ意見があがった。
予備費については、野党も批判を強めている。
立憲民主党の安住淳国対委員長は6月3日、「コロナで困っている人にお金を届けることについては我々は政府に協力します」としたが、「10兆円の予備費は認められない。(安倍政権)に白紙で10兆円好きに使ってくださいということを認めたら、議会の自殺行為になると思っていますし、そういう予算の作り方は財政民主主義に反するという結論に至りました」とコメントしていた。
予備費については、憲法87条で「予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない」と明記されている。
内閣から見れば、予備費の計上は金額にかかわらず、憲法で定められた権利ではある。
ネット上では、「予備費は必要。でも“白紙委任”ではなく、監視は必要だと思う」「予備費に反対しているわけじゃない。(今の政権に)フリーハンドで使わせることに反対」などと、予備費自体や金額への批判よりも安倍政権への不満や監視の必要性を訴える声があがった。
直近の報道各社の世論調査でも、安倍内閣の支持率は軒並み30%以下と急落している。新型コロナウイルスへの対応や黒川元検事長の疑惑をめぐり、国民の信頼を失いつつある。
予備費10兆円の予算が成立すれば、国会として事前チェックはできなくなり、その使い道は政府の裁量になる。来週から始まる衆参両院の予算委員会での安倍首相の答弁が注目される。