新型コロナウイルスの影響で休校が長引き、子どもたちの学びの遅れが懸念される中、突如浮上した「9月入学」の議論。毎日新聞によると、文部科学省内ではすでに複数案の検討が進んでいる。
「本当に今、必要なのか?」
国の動きに対し、教育関係者ら有志が5月26日に会見を開催。「教育現場がコロナ対応に追われている中、9月入学の拙速な議論をするべきではない」と訴えた。
■優先すべきは「子どもの命つなぐこと」
困窮世帯を支援するNPO法人「キッズドア」代表の渡辺由美子さんは会見で、「新型コロナの影響で、収入がほぼ無くなったり、休校で給食が無くなり食べ物に困ったりと、困窮世帯は非常に厳しい状況にある。命の危機もあります」と現状を報告。
「9月入学にお金をかける余裕があるなら、そのお金を食べることすら難しい子どもの命をつなぐために使うべきではないか」と訴えた。
実際に9月入学を導入した場合、負担額はどれくらいになるのか?
日本教育学会が5月22日に公表した提言書によると、9月入学に伴う国の財政や個人の家計負担の総額(試算)が6兆〜7兆円に上るという。
巨額の財政負担を踏まえ、提言書では「現時点での9月入学への移行は、十分な効果が見込めないだけでなく、かえって問題を深刻化させる」と指摘。「緊急的な指導・ケア体制を急いで整備するともに、さまざまな種類の教職員を増員して学校に配置し、持続的に手厚い指導・ケア体制の学校を作ることを提案する」としている。
■小中学生の8割「反対」 調査結果も
一般社団法人「日本若者協議会」は5月上旬、9月入学の賛否に関するアンケートを実施。全国の小学生〜大学院生718人から回答があった。
・小中学生の78.6%が反対、18.6%が賛成、どちらとも言えない2.8%
・高校生は賛成41.1%、反対39.0%、どちらとも言えない19.9%
・大学生・大学院生は賛成35.0%、反対53.5%、どちらとも言えない11.5%
との結果だった。
協議会の代表理事、室橋祐貴さんは「一律での9月入学はあまりにも乱暴だ」と指摘する。
■教職員から「負担大きい」の声
教職員から不安の声も上がる。
教育ファシリテーターの武田緑さんは、小中高校の教職員を対象にしたアンケート結果(1276件)を報告した。全体の53.2%が反対、24.1%が賛成、22.7%がどちらとも言えないと答えた。それぞれの理由は、
<反対>
・すでに混乱している現場がさらに混乱する。負担が大きく対応できない。
・未就学児への影響を考えると賛成できない
<賛成>
・授業時数確保が困難。詰め込み授業になれば子どもの負担が大きい。
・学習の遅れを取り戻し、広がってしまった教育格差を是正したい。
などだった。
武田さんは「教育現場では、子どもたちが安心して学べて、安定した学校運営が求められている。9月入学の議論があることで、教職員の増員や履修内容の精選など急を要する検討がしにくくなっている。より現実的な施策に集中するべき」と話す。
■署名の賛同広がる
有志は、コロナの混乱が落ち着いてからの9月入学の議論を求める署名活動を進めており、5月26日時点で4000筆以上の賛同を得ている。近く内閣府に署名を提出する方針だ。
日本大の末冨芳教授は会見で、「私たちは9月入学そのものに反対しているわけではない。新型コロナで非常事態にある今、9月入学の議論を拙速に進めるべきではなく、優先すべきことを徹底して取り組むべきと考えている」と強調した。