困窮家庭の子どもたちの学びをサポートする支援の現場では、団体側が提供する教室などを拠点に、複数の子どもや講師らが集まる「対面型」が一般的だ。
新型コロナ禍で大人数での学習ができなくなり、活動中止を余儀なくされるケースもある。
こうした中、福岡市のNPO法人「いるかねっと」は、全国の一斉休校が始まった3月上旬にオンライン学習を導入。「教育格差を埋めるツールになり得る」と手応えを語る代表の田口吾郎さん(42)に、コロナが変えた学習支援の今を尋ねた。
■受験生に「家庭教師型」
「いるかねっと」は、小学生〜高校生に向けて、福岡市内19か所で無料の学習教室を開いている。対象は、生活保護世帯や就学援助世帯、ひとり親家庭などの子どもたち。有償ボランティアの大学生らが講師になり、昨年度は中学生を中心に220人の子どもの学びを支えた。
新型コロナの感染拡大で、今まで当たり前だった対面での指導ができなくなった。田口さんは福祉事業所などを回り、ノートパソコンとWifiを各10台ずつ急遽購入・レンタルした。かかった経費計約30万円は、団体の運営資金から捻出。取り急ぎ、受験を控えていた中学3年生のいる家庭に届けた。
オンライン学習は、1対1の「家庭教師型」で生徒に指導した。一日7〜10時間、過去問を解く→振り返る、を「1000本ノックのように」繰り返す学習支援を、受験が終わるまで1週間ほど続けた。追い込みが奏功したのか、オンライン指導をした10人全員が合格できたという。
「生徒も講師もお互い相手しか映らないので、集中して打ち込めたんだと思います。一方で、対面ではなく画面上だけのコミュニケーションでは、受験期のような時でないと子どもたちのモチベーションが続かないとも感じました」
■三密にならない、入れ替え制
手探りで取り入れたオンライン学習。受験生の学力向上の効果は感じられた一方で、「子どもの気持ちに本当にアプローチできているのか」と、スタッフ間で疑問も生まれた。
「自分の部屋があって、勉強できるスペースが確保されて、という家庭環境にいる子どもばかりではありません。家の中で勉強するハードルが高い生徒たちにとって、オンラインの支援は適していないのではと悩みました」
そこで思いついたのが、対面型の学習教室で借りていた集合住宅の集会所を活用する方法だ。
「集会所にパソコンを設置し、子どもに集会所まで来てもらって、オンラインで講師とつながります。きょうだいで学ぶ家庭もあるので、1世帯90分ずつで交代します。1世帯が終わったら衛生管理スタッフが清掃して、次の世帯が入る。三密を避けた上で、子どもたちが家の外で学びを続けられるようになりました」
■「常駐しなくていい」 運営にもメリット
オンライン化は、団体の運営にとってもメリットがあった。
「今までは講師と子どもがトラブルになることを防げるよう、現場を監督する統括責任者を全ての学習教室に配置していました。子ども10人に対して大人5、6人が必要でした。
オンラインなら、統括責任者は教室に行かなくてもパソコン1台で複数のオンライン上の『教室』を見ることができるようになりました。その分、人件費を抑えられます。ネットなら、アクセスが不便な郊外の集会所にわざわざ出向かなくていいので、ボランティアの大学生の確保もしやすくなりました」
■子どもファーストの手段になる
政府は5月14日、緊急事態宣言を39県で解除した。福岡県も解除され、5月中旬から分散登校が始まっている。
だが、集団感染へのリスクを考慮し、「いるかねっと」は少なくとも本年度いっぱいは集団の対面型ではなく、オンラインでの学習支援を継続するという。
田口さんはオンラインをあくまで「学習支援の手段の一つ」と考えているという。
「学習支援の全てを、オンラインの個別指導にするつもりはありません。私たちは学びの機会を保障することと同じくらい、子どもたちと顔を合わせて信頼関係を作ることを大事にしてきました」
「高校に入ったら、アルバイトをしながら大学進学を目指す生徒もいます。学習教室に来る時間がなかった生徒たちも、オンラインであれば本人の空いた時間につながれる。コロナが収束しても、対面とオンラインの両方を組み合わせることで、子どもファーストの支援ができるんじゃないか、そんな可能性を感じています」
「いるかねっと」は、LINEのチャットアプリを活用し、子どもたちがいつでも講師に質問できる取り組みも始めた。「世帯にスマホがあれば簡単に始められる学習支援」(田口さん)といい、福岡県や佐賀県など九州北部の支援団体にノウハウを提供している。