妊娠中に派遣切りにあった。日本語が理解できないまま書類にサインしたら退職届だったーー。
非正規雇用で働く人たちから、こうした相談が労働組合に相次いでいる。
全国ユニオンは5月19日、オンラインで会見。政府に対し、労働者への直接的な支援制度を整えることや、感染拡大を理由にした雇い止めなどを行わないようメッセージを出すことを求めた。
「正社員は在宅勤務、派遣社員は出勤」「休業補償でない」
全国ユニオンには非正規雇用の人たちから相談が殺到。3月ごろから、正社員は在宅勤務しているのに派遣社員は「パソコンが用意できないから」と出勤させられる、休むよう言われたが休業補償が全く出ない、といった内容の相談が寄せられたという。
5月に入ってからは雇い止めや契約中途解除の相談が増加。自動車の部品工場やホテル、観光関係で働く人が多いという。
内容理解できないまま退職届や同意書を書かされるケースも
会見には三重県の労働組合「ユニオンみえ」も参加。派遣など非正規雇用で働く人が多い外国人労働者から多くの相談が寄せられているといい、厳しい実態を明らかにした。
ユニオンみえによると、感染が拡大していった3月から、減産を見込んで派遣労働者を「選別」するような動きが出始めたという。書記長の神部紅(じんぶ・あかい)さんは「妊娠中、子育て中、有給休暇の取得を申し出たなど、企業にとって『使いづらい』労働者から切られる対象になっている」と指摘する。
さらに、外国人労働者に対していわゆる「派遣切り」を行う際、母国語ではなく日本語で説明、日本語の退職届や解雇通知への同意書にサインをさせるケースも。こうした場合、サインした本人は内容を理解していないこともあるという。仕事中、手を離せないタイミングで「早くサインを」と急かされて書いた例もあった。
広岡法浄(ほうじょう)委員長は「企業は無理やり書かせていない、自らの意思だとアピールし切り抜けようとする。責任を労働者側に押し付けている」と憤る。
企業ではなく、労働者に直接補償を
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は企業が従業員に支払った休業手当の一部を助成する「雇用調整助成金」の条件を緩和している。しかし全国ユニオンの関口達矢事務局長は「かなり使い勝手が悪く十分に機能していない」と指摘。
申請のハードルが高い上、大量の申請に処理が追いついていないこと、そもそも休業手当を払う余裕がない事業主もいることなどを上げ、「企業に対してではなく労働者に直接補償が行われるべきだ」と求めた。
NHKによると、自民党の作業チームは雇用調整助成金の上限額を引き上げることに加え、勤務先の企業から受け取れない人を対象として国が直接給付金を支払う制度の案をまとめている。
鈴木会長はこうした動きについて「前進ではある」としながらも、「手続きは簡便で簡単でなければならない。スピードが大事」と求めた。さらに、雇用保険であぶれがちなフリーランスも対象にすべきだと訴えた。
「労働者の生の声を聞くべき」
政府に対して求めることを問われると、ユニオンみえの広岡委員長は「行政には危機感がない」と指摘。
「企業への支援をしようとしているが、生活できない、仕事がない、明日の暮らしも成り立たないという労働者の生の声を聞くべきだ」と、労働者側に立った政策を求めた。
鈴木会長は「医療に関する取り組みと経済、労働者の生活を維持する政策を並行してやらないと崩壊する」とした上で、「まずやっぱり政府は明確に、労働者の首を切らせない。解雇してはダメなんだという明確なメッセージを出すべきだ」と強調した。