多くの国で外出自粛が呼びかけられ、ドイツに住むわたしのステイホーム生活ももう2ヶ月経つ。
そんな状況に順応するため、引きこもり生活でも気が滅入らないようにベランダでの読書を日課にし、定期的にラジオ体操をして体を動かすようにした。日本のみなさんも、身の回りの環境や考え方に、なにかしら変化が起こったのではないだろうか。
そういった変化のなかでわたしがとくに注目しているのが、「オンライン恋愛」だ。
他人との接触制限で気軽に人と会えなくなった現在。どうやら、オンライン婚活やWeb会議サービスのZoomお見合いなどが流行っているらしい。
もしオンラインを中心とした恋愛がさらに広まれば、アフターコロナの世界では、「恋愛において、必ずしも直接顔を合わせる必要はない」という価値観に変わっているかもしれない。
デメリットが少ない「オンライン婚活」の需要が高まっている?
「オンライン婚活やZoomお見合いが活発化している」という流行がいったいどれだけ広がっているかはさておき、わたし個人としては「さもあらん」という印象だ。
というのも、オンライン婚活はメリットが多い……というより、デメリットがとにかく少ないからだ。
オンライン通話なら、本名や住んでいる場所を教えなくていい。どこでなにをするかという事前のデートプランの相談も不要だし、気合いを入れておしゃれする必要もない。男性なら、負担して当たり前とされるお茶代を節約できるうえ、期待されがちなエスコートの負担からも解放される。
マッチングアプリなどでメッセージをやりとりして「じゃあ会いましょう」となっても、初対面で打ち解けるのに時間がかかる人もいるだろう。そもそも、デートをとりつけるまでのハードルが高い。
しかしオンラインであれば、「まずは1時間お話してみませんか」と誘いやすいし、最初は会話のネタをメモ帳に書いてデスクトップに表示させながら話してもいい。
というわけで、時間的にも金銭的にも負担が少ないオンライン婚活はとにかく気楽で気軽。そこで気が合ってから直接会えば、いきなり「はじめまして」と顔をあわせるより、楽しいデートができるだろう。
というわけで、「オンライン婚活が受け入れられるのも当然だなぁ」というのがわたしの考えだ。わたし自身、もし婚活サービスやマッチングアプリを使う機会があったら、「まずはオンラインでお話してみましょう」というスタイルのところがいいと思う。
もっと正直にいうと、直接会ってみて好みじゃなかったら、お互い時間とお金と労力がもったいないし。
「恋愛が面倒くさい」という人にぴったりなオンライン恋愛
自分自身の好みは別として、わたしがオンライン婚活に注目する理由のひとつに、「これまで恋愛を面倒くさがっていた層にもウケるのではないか」という予感がある。
すでに一般的になった「草食系男子」という言葉が表しているように、昨今、恋愛から離れている人は多い。厚生労働省の調査によると、1982年から2010年にかけて男女ともに交際相手がいない未婚者の割合が増えおり、2010年には約半数が「異性の友人はいない」と答えている。
「交際相手を持たない20代・30代男女が恋人を欲しいと思わない理由」は、男性の52.6%、女性の60.1%が「恋愛が面倒だから」とのこと。
しかし、「では恋愛に積極的ではない人は孤独を望んでいるのか」といえば、そういうわけではない。2015年の統計で、「いずれ結婚するつもり」と答えた18~34歳の未婚者の割合は、男性85.7%、女性89.3%と依然として高い。リクルートブライダル総研による『恋愛・結婚調査2019』では、「恋人がいない人は約7割。そのうち恋人が欲しい人の割合は約半数を超える」という結果になっており、これまた高い割合だ。
きっと、「恋人がいたらいいなーとは思うけど、出会いがないし、いまのままでも結構楽しいし、いまさら恋愛でどうこうってちょっと面倒くさいなぁ」という人が多いのだろう。
一見わがままなように聞こえるが、実際そういう人は多いし、その気持ちはよくわかる。
そんな人にとって、オンラインデートは最適だ。
「いま暇?」「ご飯食べてるから30分後なら」と気軽に「デート」できるし、しかも基本無料。対面のデートとはちがい、「ちょっと今日は仕事で疲れているからまた今度で」とも言いやすい。
気が向いたときにオンラインで「待ち合わせ」して、こざっぱりした格好で、生活感のある部屋で、気楽に話せばいい。それぞれ自立した生活を維持しつつ、気が向いたときに話し相手になってくれる。
そう考えると、「人との関わりを拒絶しているわけではないけれど、わざわざ付き合うのは面倒くさい」という人にとって、オンライン恋愛はとてもニーズに合っているのではないか?と思う。
「直接会うこと」は恋愛にとってどれだけ重要なのか
いまは気軽に他人に会えないご時世だから、オンラインで婚活するしかない。だからこそのzoomお見合いなわけだが、コロナ禍が落ち着いてからはどうだろう? いままでのように、「マッチングはオンラインで、その後は基本的に対面して」というかたちに戻るんだろうか?
きっと、多くの人は元のかたちに戻るだろう。しかしその一方で、「このままオンラインメインで恋愛していきたい」という人も、一定数存在するのではないだろうか。もしかしたら、その数はわたしの想像以上かもしれない。
いままで「直接会う」という要素は、恋愛においてかなり比重が大きいものだった。「遠距離恋愛はムリ」という人もいるし、マッチングアプリなどでも、ある程度やりとりしたら会ってみるのがセオリーだ。
しかし、「直接会わなくても恋愛できる」としたら? 「いちいち対面デートしなくていいほうが楽」と気づいてしまったら? そうしたらきっと、新しい恋愛のかたちが生まれるんじゃないだろうか?
そう、たとえば、こんな恋愛だ。
マッチングアプリで知り合い、1週間ほどメッセージのやりとりをしたあとzoomで初対面。
1時間ほど話してみてお互い好印象。「よければ週末も」と次の約束も取り付けた。
当日は2時間ほどの通話の予定が、話が盛り上がってお互い寝る時間まで延長。
そこから毎週土曜日の夜はビデオ通話しながら過ごすようになり、平日も時間があえば少しでもこまめに連絡しあうように。
画面越しにいっしょに夜ご飯を食べたり、通話をつけっぱなしにしながら家事をすることもしばしば。
2ヶ月ほどそれが続き、「じゃあ会いましょう」となり、新宿で待ち合わせ。もう何時間も会話しているので、リラックスしたムードでなごやかにデート。
そこで正式にお付き合い。
その後、デートはもっぱらオンライン。オンライン同棲状態なので、直接顔を合わせなくてもいっしょにいるから遠距離恋愛でも問題なし。むしろそっちのほうが気楽。ほどよい距離感が心地いい……。
そんな恋愛のかたちが、「ふつう」とまで言わずとも、「めずらしくない」ようになるかもしれない。現に、わたしはここまで具体的に、「オンライン恋愛」をイメージできるのだから。
アフターコロナの世界で、恋愛はどう変わる?
これまでも、お見合い結婚が一般的だったのが恋愛結婚に取って代わったり、インターネットの普及でマッチングアプリが身近になったりと、恋愛の価値観はたびたび転換期を迎え、大きく変わってきた。
そしてその転換期のひとつが、未曾有のパンデミックに陥っている、まさにいまこの瞬間なのかもしれない。
他人とは会えない。それでも話し相手がほしい。こんなとき、恋人がいたら……。
そう思った人たちがオンラインで出会い、オンラインで会話し、オンラインで逢瀬を楽しんでいたら。コロナ禍が収束したあともきっと、オンラインデートを続けるだろう。
「オンライン恋愛なんて不健全」と言う人もいるかもしれないが、恋愛の楽しみ方は人それぞれだし、そういうニーズが生まれるのであれば、それも時代の変化というものだ。
「会わない恋愛」がいったいどの程度広まるのか、そしてどのように広まっていくのか。
パンデミックが落ち着いた未来のことを夢想しつつ、今日もステイホームを続けるとしよう。
(編集:榊原すずみ)