検察官の定年を延長する検察庁法改正案をめぐり、松尾邦弘元検事総長ら検察出身者による意見書が5月15日、法務省に提出された。
検察幹部の定年延長を認める規定の撤回を求め、改正によって政権の介入が強まってしまった場合に「日本の刑事司法は適正公平という基本理念を失って崩壊することになりかねない」と危機感を示した。
意見書は、松尾邦弘元検事総長、堀田力元法務省官房長ら元検察庁幹部ら10数人の連名で出された。黒川弘務東京高検検事長の定年延長や、内閣が認めた場合に幹部の「役職定年」が延長できるという改正案の規定を批判した。
黒川検事長は閣議決定で定年延長され、安倍晋三首相は「国家公務員法の定年関係の規定は検察官には適用されない」という従来の解釈を変更したと説明している。
意見書は、「検察庁法に基づかないものであり留任には法的根拠はない」と指摘。唯一起訴権限を持つ検察官の特殊性に触れて「検察官も一般の国家公務員であるから国家公務員法が適用されるというような皮相的な解釈は成り立たない」と訴えた。
続けて「本来国会の権限である法律改正の手続きを経ずに内閣による解釈だけで法律の解釈運用を変更した」と批判した上で、「近代国家の基本理念である三権分立主義の否定にもつながりかねない」と危機感を示した。
改正案では、検事長など幹部が63歳で退職する「役職定年」を設けた上で、内閣が認めればその年齢を過ぎても役職にとどまることができるとする内容が盛り込まれた。
この点については「黒川検事長の定年延長を決定した違法な決裁を後追いで容認しようとするものである」と批判した。
意見書は検察庁人事の内情にも触れている。検察法上は検事総長や検事長といった幹部は内閣が任命すると定められている。
だが実際は、「検察を政治の影響から切りはなすための知恵」として、検察官の人事に政治は介入しないという慣例が守られてきたという。
それを踏まえて、改正案について「検察の人事に政治権力が介入することを正当化し、政権の意に沿わない検察の助きを封じ込め、検察の力をそぐことを意図していると考えられる」と疑った。
さらに、検察の不祥事にも言及。大阪地検特捜部が証拠を改ざんして逮捕された事件を「謙虚でなければならない」と反省する一方で、「検察が萎縮して人事権まで政権側に握られ、起訴・不起訴不の決定など公訴権の行使にまで掣肘を受けるようになったら、検察は国民の信託に応えられない」と強調した。
その上で「正しいことが正しく行われる国家社会でなくてはならない」と訴えた。
当時の首相が逮捕されたロッキード事件に触れながら「ロッキード世代として看過し得ない」ともつづった。
最後に「国会職員と法曹人、そして心ある国民すべてが断固反対の声を上げて阻止する行動に出ることを期待する」と結んだ。