厚生労働省が国の事業として初めて職場のLGBTに関する実態を調査。8日にその結果や企業の取り組み事例をまとめた報告書を公開した。
調査ではLGB(同性愛や両性愛者)の約4割、トランスジェンダーの約5割が職場で困りごと抱えていることがわかった。
職場におけるカミングアウト割合
報告書によると、性的マイノリティは雇用の現場で不利益を被りやすいため、就業継続が難しくなり、心身に支障をきたすこともある一方、当事者の困難は周囲に見えにくいため、企業による取り組みはなかなか進んでいないと指摘。
職場でのカミングアウトの割合をみてみると、レズビアンの8.6%、ゲイの5.9%、バイセクシュアルの7.3%、トランスジェンダーの15.3%が誰か一人にでも伝えていると回答。いずれも1割程度にとどまった。
職場以外では、家族や友人へのカミングアウトの割合はいずれも1~3割程度で、カミングアウトしている人は「いない」という回答が6~7割に上った。
職場で公表している人のうち、カミングアウトした理由は「自分らしく働きたかったから(セクシュアリティを偽りたくなかったから)」がLGBの45.2%、Tの62.5%と最も高く、トランスジェンダーの場合は次いで「ホルモン治療や性別適合手術を受ける(受けたくなった)から」が37.5%と高かった。
反対に、カミングアウトしない理由については、LGBの32.1%、Tの32.9%が「職場の人と接しづらくなると思ったから」と答え、差別や偏見が根強いことが示唆されている。
当事者の困りごと
職場で困りごとを抱える当事者の割合をみてみると、LGBの36.4%、Tの54.5%に上った。
中でも、LGBの15.2%、トランスジェンダーの21.8%が「プライベートの話をしづらい」の他、LGBの12%が「異性愛者としてふるまわなければならないこと」、トランスジェンダーの22.8%が「自認する性別と異なる性別でふるまわなければならないこと」などで困りごとを感じていると回答。
さらに、職場で「同性愛やトランスジェンダーをネタにした冗談、からかい」などいわゆるSOGIハラを見聞きしたことがあると答えた人は、LGBの19.2%、Tの24.8%にのぼり、特にゲイの11.9%、トランスジェンダーの8.9%が実際に自分が経験したことがあると答えている。
ちなみに既に防止が法制化されている他のハラスメントでも、連合が行った2014年の「パタハラ」や、2015年の「マタハラ」など育児と仕事に関するハラスメントの法制化直前の意識調査では、それぞれハラスメントの経験割合はそれぞれ1割程度、3割未満となっており、今回の調査でもそれなりの数が出ているといえる。
働く上で困ることがあった場合の相談先についての問いでは、「相談先がない」が最も高く、レズビアンの30.9%、ゲイの40.7%、バイセクシュアルの37.6%、トランスジェンダーの44.7%に上った。
メンタルヘルスについても、過去30日間で「神経過敏」「絶望的」「自分は価値のない人間」など感じたかという問いに対し、すべての項目でLGBTの当事者は非当事者に比べてメンタル不調の割合が高い傾向もみられた。
こうした状況下で、性的マイノリティであることを理由に職場で不快な思いをしたことや働きづらくなったことがきっかけで転職した経験について問うと、LGBの5.8%、Tの20.4%が経験があると回答している。
非LGBTの認識
LGBTではない人、つまりシスジェンダー・異性愛者のうち、「同じ性別の人が好きな人」や、「自分の性別に違和感があったり性別を変えた、または変えたいと思っている人」がいることを知っているか、という問いについて、9割が知っていると答え、性的マイノリティという存在については多くの人が知っていることがわかった。
「LGBT」という言葉の認知も6割を超え、近年のLGBTをめぐる報道増加等の効果を実感する。一方で、社内にLGBTの当事者がいるかという問いに対しては、「いないと思う」が41.4%、「わからない」が29.9%と7割は職場でLGBTの存在を認識していない。
「職場の人から性的マイノリティであると伝えられたとき、どのように接すればよいか不安に思うか」という質問では、LGBTの知人が“いる”非当事者の6割が「不安はない」と答えた一方で、LGBTの知人が“いない”非当事者は3割に下がった。実際に知人や友人に当事者がいるかいないかで認識に大きな差が出ることがわかる。
企業の視点
企業はどのような意識からLGBT施策に取り組んでいるのか。
LGBT施策を進める企業のうち、取り組みをはじめたきっかけは「社会的な認知度の高まりをみて、取り組むべきと判断したため」が67.3%と最も高く、近年のLGBTに関する注目度の高まりが企業のLGBT施策推進の契機となっている。
他にも「同業種や周囲の企業の取組をみて、取り組むべきと判断したため」「性的マイノリティ当事者である社員から要望や対応を求める声があったため」が共に17.8%と、企業同士の取り組み推進や社内からの声によっても施策が推進されていることがわかった。
一方で、回答した企業のうち、実際に「同性パートナーへの福利厚生に関する施策を実施している」企業は2割、「倫理規定や行動規範等に関連した取組を実施している」企業は2~3割程度にとどまった。
企業が実際に当事者から受けた相談内容については、「トイレや更衣室の使用に関する相談」が18.5%と最も高く、次いで「勤務時の服装や通称名の使用」「福利厚生など社内制度の利用」など。さらに3.5%が「上司や同僚からの性的指向・性自認に 関わるハラスメントに関する相談」を受けたと回答している。
働くLGBTの当事者のうち、行われたら良いと思う施策については、LGBの22.6%が「福利厚生での同性パートナーの配偶者扱い(家賃補助、介護・看護休暇、慶弔休暇など)」、Tの23.8%が「トイレや更衣室など、施設利用上の配慮」と回答。LGBT全般に「性的マイノリティに関する倫理規定、行動規範等の策定(差別禁止の明文化など)」などが比較的高い傾向がみられた。
企業側が性的マイノリティに関する取り組みを進めるにあたって、国や自治体に期待することについては「ルールの明確化」が 46.7%、「取組に対する情報提供」が 41.3%と高く、LGBT差別禁止法や同性婚などの法整備が求められていることがわかった。
より実践的なフェーズへ
今年6月から施行される「パワハラ防止法」では、SOGIハラ(性的指向や性自認に関するハラスメント)やアウティング(本人の性的指向や性自認を同意なしに第三者に暴露すること)も、企業等に防止対策が義務付けられることが決まっている。
LGBTという「言葉」の認知は高まりつつあるとはいえ、依然として当事者を身近に感じている人は多くない現状。いまだ差別や偏見の残る職場で、ハラスメントの起きない環境を整備することは、望ましい施策ではなく、今後は”最低限”必要な施策になる。
報告書では、働くLGBTの当事者や企業の意識、実態に関する調査だけでなく、LGBT施策に取り組む19の企業の具体的な実例をまとめた事例集も公開している。これを活用し、より多くの企業がLGBT施策を推進することが望まれる。多様な性のあり方と職場をめぐる動きは、より実践的なフェーズに移行しつつある。
(2020年5月9日のfair掲載記事『LGBTの約半数が職場で困難。国が初めて職場のLGBT実態を調査』より転載。)