新型コロナウイルスの影響で休校が長期化するに伴い、政府が検討している「9月入学・始業」について、教育専門家などが集まる日本教育学会は5月11日、「拙速な決定を避け、慎重な社会的論議を求める。拙速な導入はかえって問題を深刻化する」と声明を発表した。
欧米の主要国を中心に、多くの諸外国で9月入学が制度化されていることから、世界標準に合わせるため、東京都の小池百合子知事や大阪府の吉村洋文知事など、一部の知事が導入に賛成していた。
4月29日には安倍晋三首相が、「大きな変化がある中において、前広にさまざまな選択肢を検討していきたい」と表明。政府は6月上旬をめどに論点や課題の整理を進めている。
教育制度などの専門家でなる日本教育学会は、9月入学が検討されている背景に、子どもや保護者、教師が、学校生活の時間が短くなることで生じる勉強・受験・部活動等への不安や、再開後の短期間での詰め込み教育を危惧する声があることに理解を示しながら、「9月入学は不安や心配の基にある、直面する問題の解決にはどれほど有効でしょうか。それどころか、9月入学・始業の導入は、状況をさらに混乱させ、悪化させかねません。例えば学力格差の是正への有効性などには数多くの疑問があります」と指摘している。
さらに、9月入学を導入することで懸念される問題として、
・2021年4月の小学校入学を同年9月に変更した場合、世界でも異例の7歳5カ月で義務教育が始まるケースが生じる
・4月から8月までの5カ月間の学費分の空白は、誰が負担するのか
・8(7)月に卒業した高校生大学生らのその後就職について、企業の採用時期とずれが生じる
などを挙げ、それらの中には、解決に十数年かかるものもあると考えられるため、多くの関係者・専門家の意見を反映し、慎重に検討すべきと主張している。
日本教育学会は緊急に特別委員会を設置し、検討すべき課題の洗い出しを行っており、近日中に緊急提言を公表する予定だ。