「想像できない世界」を皆で生き抜くために。プレゼンの名手・伊藤羊一さんが語る新しい習慣と挑戦

新連載「私のコロナシフト、生き方をこう変えた」。第1回はYahoo!アカデミア学長の伊藤羊一さん。新型コロナウイルスの影響で変わった生活、これからの生き方について語ります。

新型コロナウイルスの脅威は、世界各地の人々に影響を及ぼし、私たちの日常を激変させた。この連載では、ビジネスやカルチャーの様々な分野で活躍する人たちが、コロナによってどのような行動変容・意識変容に直面しているのか、リアルな日常を聞き取っていく。第1回目は、Yahoo!アカデミア学長の伊藤羊一さん。(インタビューは4月15日にオンラインで実施。写真は本人提供、または画面撮影によるもの)

取材はオンラインで実施した
取材はオンラインで実施した
HuffPost Japan
伊藤羊一

ヤフー株式会社 コーポレートエバンジェリスト Yahoo!アカデミア学長 / 株式会社ウェイウェイ 代表取締役 / グロービス経営大学院客員教授

専門はリーダーシップ開発、プレゼンテーションほか。著書「1分で話せ」「0秒で動け」「やりたいことなんてなくていい。」

2021年4月より、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 学部長就任予定(開設準備中) 

 伊藤羊一さんのコロナシフト

  • 年300件のリアルイベント⇒オンラインでの1on1に
  • 新たな習慣は、朝晩と日中2回の計4回の散歩
  • “想像できない世界”では、素直に学ぼうとする姿勢が大事に

意識的に多様な人の声を聞く機会を持ちたい

――伊藤さんといえば、「ベストセラー『1分で話せ』の著者として講演に引っ張りだこ。常に、多くの人を集め、熱狂させるプレゼンテーションの名手」という印象です。しかし、コロナの感染リスクについてはいち早く警鐘を鳴らし、積極的に外出自粛を呼びかけるメッセージをSNSで発信していました。ご自身の生活にはどんな変化がありましたか?

圧倒的に時間の空白が生まれましたね。これまで月に25件、年間にして300件のペースで続けてきたリアルイベントが、3月以降は4割は中止に。残る6割もすべてオンラインに切り替えとなったので、単純に移動にかけていた時間が浮いて、自分の手元にどっさり時間が戻ってきた感覚です。 

年間300本のリアルイベントに登壇していた生活から劇的に変わった
年間300本のリアルイベントに登壇していた生活から劇的に変わった
本人提供

――その時間を使って何を?

 はじめのほうは犬猫の動画を観て癒やされたりしていたんだけれど(笑)、「このままじゃいかんだろ」と我に返って、今の世の中に自分ができることは何かと考えてみました。僕はYahoo!アカデミアでもオンライン配信で教える経験を重ねてきたから、そのノウハウなら多少は伝えられるし、武蔵野大学の新学部創設の役割も担ったばかりで「教育」という分野に貢献したいという気持ちもあったんですよ。

ということで、急遽、立教大学経営学部教授の中原淳さんと4月1日に話をして、なんと5日後の4月6日にオンラインイベントを開催したんです。授業・講義のオンライン化に困っている教育関係者向けだと告知したら、全国から1000人も集まって。その後もコミュニティグループができて盛り上がっているのを見ながら、この猛烈な変化の中で新しいニーズはどんどん生まれてきているんだなと実感しました。

加えて、ここ数日でやってみたのが、1人20分・先着順のオンライン1on1です。時間の予定枠だけ決めて「僕と話したい人、いますか?」とFacebookで呼びかけ、手が挙がった人に僕の時間を使ってもらうんです。職種や立場問わず、いろんな人と話すと、僕にとってもインプットになりますからね。外出自粛で自宅に籠もっていると、世の中の空気を感じづらくなるから、意識的に多様な人の声を聞く機会を持ちたいと思ったんです。

今は1日ごとに世の中の空気も変わる時期だから、「皆が今求めているのはこんなテーマだ! よし、3日後にオンラインイベントやろう!」と柔軟に、即行動していきたい。いつでも機敏に反応できるように、スケジュールに余裕を持たせる意識ができましたね。

オンライン配信に向けて、仕事部屋をスタジオ仕様に強化
オンライン配信に向けて、仕事部屋をスタジオ仕様に強化
本人提供

習慣こそが「いつでも自分を変えられる手段」

 ――外出自粛生活の典型的な1日の過ごし方を教えてください。

僕はもともと「習慣」にこだわってきて、習慣こそが「いつでも自分を変えられる手段」であると周りにも伝えてきました。コロナをきっかけにライフスタイルが大きく変わり、より一層、習慣を意識するようになったと思います。

1日の過ごし方はとにかく規則正しく。起床は6時半と決めて、起きたらまず湯船に30分ほど浸かる。これは“体を温めて1日を健やかに始める”儀式ですね。それから自宅から歩いて5分の仕事部屋まで移動して、途中にコンビニによって昼食を買っておきます。今はダイエット中なので、グリルチキンやサラダが中心です。

8時半に仕事部屋に着いたら、まず掃除。ハンディクリーナーでささっと室内をキレイにして、ゴミ箱を空にしたら、パソコンに向かって返信作業を1時間ほど。SNSでひと通りの情報収集、投稿をした後、進行中のプロジェクトの企画を詰めたり、ミーティングをしたり。夕方から夜にかけては、自己研鑽の時間もたっぷりとっています。

 ――自己研鑽とは?

ここ半年ほど力を入れているのは、英語です。習得法は2つあって、まず一つは、毎日同じ英語のスピーチを聴き続けること。僕はサイモン・シネック(リーダーシップや組織戦略系で活躍する米国人コンサルタント)がTEDでスピーチした「WHYから始めよ」という動画が好きで、毎日3回聴くんです。もう300回以上聴いていると思いますが、かなり言葉が耳に入ってくるようになりました。もう一つは、英語学習者のために編集された英字新聞「The Japan Times Alpha」でニュースや時事コラムを読むこと。

これまで続けてきた自己研鑽のための努力を止めない。ブレずに淡々と続けていくことが大事だろうと思っています。

――仕事を終えてからの過ごし方は?

夕食を食べたら、その日に起きた出来事を記録する日記を書いて、風呂に入り、散歩をして、寝ます。これも決まったルーティンで、毎日同じ繰り返し。ちなみに、散歩は朝晩のほか、日中にも2回、リフレッシュも兼ねて行くのが、外出自粛後に定まった新たな習慣です。

夜寝る前の散歩は、1日を静かに終えるためのマインドフルネスの時間に。太陽が明るいうちに活動して、暗くなれば閉じていく。より自分の体の声に正直に、プリミティブな生活を取り戻しているような感覚がありますね。

――決まった習慣を持つと、なぜいいのでしょう。 

どんなに揺さぶられても、同じ場所に毎日帰ってこられるからです。自分の足がちゃんと着地する感じというのかな。

実は3月末から1週間ほど、一度これまでの習慣を手放す生活を試してみたんですよ。散歩や日記を全部やめた時に自分がどう感じるかを実験してみた。すると、フワフワと浮遊している感じで落ち着かなくて不安を感じやすくなる。習慣の価値を再認識しました。 

――これまでは、多くの人にとって「通勤」が生活リズムを保つ“習慣”だったかもしれません。

そうだと思います。その習慣が、在宅勤務推奨や出社停止で、急になくなってしまったのだから、戸惑ったり、不安を感じたりするのは当然のこと。ライフスタイルの劇的な変化を受け入れざるを得ない今、可能な限り自分の意思で自分を心地よく保つ“新しい習慣”を選び取っていこう。そんな意識を持っていたいですね。

気合いを入れなきゃ続かないようなハードなタスクではなくて、淡々とラクにできるものがいいですよ。

今年の花見は自宅で季節の花を取り寄せて楽しんだ
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本人提供

挑戦する価値があるものに、思い切って踏み出す

――コロナが収束したあとの世界をどう予測していますか? また、その世界に向けて伊藤さんは何をしたいですか?

確実に言えるのは、僕たちの“前提”が変わっているということ。まず、オンラインだから可能になるコミュニケーションのスピード感。次に、経済優先だけではない多様な価値観。そして、リアルな空間と遜色ない電脳空間の進化。

この3つの前提によって何か起きるか。きっと“想像できない世界”がやってくるんですよ。おそらく、イーロン・マスクにしか見えていなかったような未来が前倒しでやって来ることになるし、僕らは必死についていかないといけなくなる。

すると、当然、ついていけない人もたくさん出てくるはずで、格差が生まれるリスクもある。その時に、「ついていけないのは自己責任」と切り捨てるのではなくて、社会全体で力を合わせて皆で上がっていこうぜと言いたい。

パソコンを使うのに不慣れな学校の先生たちが、一生懸命挑戦しようとしている姿に、「できなかったことができるようになるって、幸せになれる可能性をものすごく秘めているんだなぁ」と感動したんですよ。逆に僕が教わることもたくさんあるし。

デジタルが分かる世代と分からない世代で分断される社会より、電脳おばあちゃんがたくさん活躍する社会のほうが素敵じゃないですか。「勝ち抜くぞ!」じゃなくて、「皆で一緒に幸せになるぞ!」を合言葉にしていきましょうよ。

――そうなるために、個人が大切にしたい心得とは? 

斜に構えず、素直に学ぼうとする姿勢が大事だと思います。そして、挑戦する価値があると信じたものに対しては、思い切って踏み出してみる。

今は行動が制限され、耐え抜く時期だけれど、その先にはきっと素晴らしい未来が待っているはずだと信じて。僕は希望を照らす言葉を、しつこく言い続けていきたいと思います。

(取材・文:宮本恵理子 編集:若田悠希)

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