「ゴールデンウィークが終わるのが、本当は恐怖なんです」。
大阪府内で美容師として働く30代の女性が訴える。
夫婦2人で営む小さな美容院は、葛藤の末に5月7日から営業を再開する予定だ。
緊急事態宣言は延長されたが、再開に向けて動き始めた社会。しかし、新型コロナウイルスは、夫婦を何度も衝突させ、その関係にも影を落としていた。
「店を閉めたい」泣いて訴えた女性
4月7日の緊急事態宣言で、多くの事業者が都道府県から休業を要請されたが、美容室は対象外。そこで、その後も夫婦は店を続けてきたが、およそ一週間後に自主休業を決めた。
それは、女性が決死の覚悟で「店を閉めたい」と訴え始めたからだ。
女性が今のように恐怖を感じるようになったのは、専門家が「自分が感染していると思って行動しましょう」と記者会見で話すのを聞いてから。Twitterを見ると、同業者の「熱があるお客さんが来た」といった声が溢れていた。
「自分は感染者だ、お客さんが感染者だと想像したら、どうやって仕事をすればいいの?と。今、私はお客さんの頭を触っている。これをどうやって防ぐの?私が感染を仲介しているかもしれないという思いが、どんどん強くなりました。」
仕事を終えると、女性は、夫にすがりついて泣いた。
「お願いだから、私が借金をしてもいいから、有り金は全部出すから、お店を閉めさせてください」
結局、根負けした夫が決断し、店はゴールデンウィーク明けまで、休業をすることになった。何十件も入っていた予約のお客さんに、一軒一軒、電話をして、謝った。
「支払いが怖い」。夫の本音を聞いた
感染の恐怖からは解放されたが、夫婦は収入が途絶える恐怖にも直面する。節約のため、1日2食に。主にカップラーメンをすすって生活しているという。
女性は休業期間の延長を提案し続けたが、夫は一度も首を縦には振らなかった。
「大げさ、冷静になったほうがいい」。「お客さんに申し訳ない、これ以上お待たせするわけにはいかない」。ずっと説明してきた夫。
しかし、ある日の晩、ついに本音を打ち明けた。
「もう、支払いが怖い…」。
店を守りきれるのか。夫は夫で、別の恐怖に直面していたことを知った。
冷静だった夫が泣き崩れる様子を見て、女性は腹を括って、営業再開に合意した。
「夫も私も、命の守り方が違ったというだけ。本当は対立しているわけじゃないと思う。でも、夫の心が壊れてしまいました。もう、働こうと思います」
持続化給付金など、収入減に対応して個人事業主が利用できる制度もあるが、他の店が営業している中で休業を続けることは、将来のお客さんを失うことになる。
自分たちも、マスクやメガネなど、できる限りの感染対策をすることにした。そして、お客さんに対しても「入店前の検温」「トイレは極力使用しないこと」「2人以上での来店禁止」など厳しい基準を設定した。
こうして店は再開する。しかし、夫婦関係はギクシャクしたまま、元には戻っていない。
「私たちは見捨てられた」
休業か、それとも営業を続けるのか。
理美容業界はこの間、ずっと揺れ続けてきた。先行して休業要請リストを公表した東京都、元々は理美容院も含めていたが、国の意向を受けて対象外になった。
一方で、東京都や愛知県などでは後になって、5月の連休中、自主休業した美容室に対しては給付金や協力金を支給するという対応を決めた。しかも、東京都は支給の理由を「感染リスクが高いため」と説明している。
せめて自治体レベルでの対応を、と女性は地元の市議会議員にも訴え続けてきたが、最終的に「財政が厳しいから休業要請は出せない」と説明された。
「自分は考えすぎなんだろうか?と思うこともあります。でも『感染リスクが高い』のに、一斉に休業要請をしなかったのはどうしてなのか。補償も出せないのはなぜなのか。結局、私たちは見捨てられたんです」。