「派遣社員だけ、会社に行く必要はありません」“派遣だけ”は違法の可能性あり?【新型コロナ】

新型コロナ関連の労働相談や生活相談に対応している経験をもとに「正社員は在宅勤務、派遣の出社は仕方がないのか?」の問いに答えていきたい。
イメージ写真
イメージ写真
© Marco Bottigelli via Getty Images

「派遣社員だけが出社」の業務命令は、法的に必ずしも正しいくない

ハフポスト日本版編集部が2020年4月16日付で「正社員は在宅勤務、派遣は出社は仕方ないのか? 派遣の私、今日も会社に行きます」という記事を掲載し、大きな反響があったという。それだけ多くの人たちが同じ悩みを持っているということだろう。

結論から言えば、会社から「派遣社員だけが出社するように」と業務命令を出すことは、法的にみて、必ずしも正しいとは言えないし、実際にそれに対抗する手段もたくさんある。

私の所属する労働組合・総合サポートユニオンNPO法人POSSEには、毎日40~50件のコロナ関連の労働相談や生活相談が寄せられており、私も毎日それに対応している。

今回は、この経験をもとに「正社員は在宅勤務、派遣の出社は仕方がないのか?」の問いに答えていきたい。

実際に寄せられた相談からわかること

実際に私たちの下に寄せられた相談には、前出の記事と同様に、新型コロナ対応について派遣社員だけが出社を求められるなど、正社員と違う働き方を指示される事案が多くあった。いくつか見ていこう。

〇50歳女性、派遣、事務、勤続6ヶ月

基本的には全員テレワークになっているが、フロアで残ってやらなくてはならない作業をやらされるのは20人の派遣社員だけ。「派遣社員用のPCがない」という説明をうけ、派遣社員は出社している。

〇30代女性、派遣、事務、勤続二年

新型コロナが流行りだしたころは「ここの仕事は持ち出せないから、出社して」といわれていたが、緊急事態宣言後、正社員だけがテレワークになり、派遣社員だけが残された。話が違う。

〇年齢不明女性、契約社員、事務、勤続5年以上

同じフロアに感染者が出た。全社消毒を行うと行っていたのに。社員の使っているスペースや机だけ消毒作業が行われ、派遣社員のいる場所、机は消毒がされなかった。

派遣社員だけが出社させられるという事例の他にも、休業手当の扱いが正社員と異なる、仕事が減って派遣社員のシフトだけが削られた(=収入が減った)、などの相談もある。また、派遣社員だけでなく、アルバイトやパート、契約社員など、非正規雇用全般で正社員との待遇の違いの相談が目立つ。

どうして、そんなことが起きてしまうのか?

派遣社員だけが出社させられる具体的な理由としては、社員をテレワークにすれば、個人情報やPCを社外に持ち出してよいのは正社員だけになっている、会社のサーバーにアクセスできるのは社員だけになっている、など業務のシステム上の理由が挙げられることが多いが、実は、これは本当の理由ではないことが多い。

よくよく考えてみればわかることだが、上記の理由はどれも、企業がやる気になれば対応可能なものばかりだろう。個人情報やPCを漏洩しないという条件付きでは非正規雇用の人たちも持ち出せるような社内規定を新しく作ったり、派遣会社と派遣先との契約を改定すればいい。社外サーバーへのアクセスなどは技術的な問題をクリアしさえすればよいのだから。

ではなぜこうしたことが起きてしまうのか。

それは、派遣先と派遣会社と派遣労働者の間に力の格差があるからだと推測される。

派遣会社にとってのクライアントは派遣先であり、自社から派遣している派遣労働者が契約を切られてしまえば、売り上げが落ちてしまう。一方、派遣社員は派遣労働者で、たとえ派遣先で理不尽なことがあっても、契約を解除されるのが怖くて、派遣先に物が言いにくい。なぜなら、派遣社員は契約が解除されてしまえば、仕事を失うことになり、生活が成り立たなくなってしまうのだから。

つまり、派遣会社よりもさらに立場が弱いというわけだ。正社員よりと同じ待遇を受けられなかったり、理不尽なことがあったとしても、いつ契約解除されるかと不安に思いながら働いている。それが派遣社員の実情だ。

新型コロナは人の命にかかわることだが、命の重みですら、この三者の力関係を乗り越えることができないというのは、本当に恐るべきことだと私は思う。

では、この力の格差を乗り越える方法は、あるのだろうか。

実はある。

派遣社員だけ出社させられるのは法律違反の可能性が

まず、法律を見ていこう。法的に言えば、派遣社員だけを出社させることは、労働契約法第5条が「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定する「安全配慮義務違反」に問われる可能性がある。

「安全配慮義務」というのは、雇い主が労働者の健康や安全を守らなければならない義務のことだ。たとえば、地上10階の建設現場で強風の中、作業を始めれば死の危険があると考えられる場合、会社は労働者に作業を中止するように言わなければならない。危険を伴う作業の中止を指示せず、誰かが転落してケガした場合、会社は「安全配慮義務」に反したとして、賠償責任を負うことになる。

加えて言えば、大企業には今年4月1日から導入された働き方改革関連法に基づき、労働者派遣法も雇用形態による不合理な待遇の差別を禁止する方向で改正されている(中小企業での運用は2021年から)。
よって、労働者派遣法第30条の3によって派遣先の正社員と派遣労働者の間で新型コロナ対策の格差を設けることは禁止される可能性が高い。

毎日新聞の記事によると厚労省の担当者も改めて「派遣社員というだけでテレワークをさせないことは、労働者派遣法違反にあたる」(雇用環境・均等局有期・短時間労働課)と指摘している。

新型コロナ感染を防ぐには、不要不急の外出しないことが大原則であり、政府もテレワークを推奨している。当然だが、人の命に重みは雇用形態にかかわらず、みな同じである。派遣社員だけに不合理に出勤させることは、安全配慮義務違反、そして労働者派遣法第30条の3違反に当たる可能性がある。

派遣社員の安全配慮義務と労働者派遣法第30条の3は、雇用主としての派遣会社と、職場を管理する派遣先の両方にあるとされており、今回の場合であれば、当然、正社員に対して行われている対処を派遣先/元が協力して派遣社員にも講じる義務がある。

ではこの法律を実現するにはどうすればよいか、次にみてみよう。

まずは、個人加盟できる労働組合に相談を

イメージ写真
イメージ写真
Masafumi_Nakanishi via Getty Images

この法律を根拠として、“派遣社員”だけの出社を止められる可能性があるのは、労働組合だ。

労働委員会と労働局の「あっせん」や民事の「裁判」などもよく解決手段として挙げられるが、「あっせん」は数か月、裁判となると数年も時間がかかってしまうので、今回の新型コロナウイルス対策のような急を要するケースには適していない。

そこで労働組合だ。労働組合は、労働者が自主的に集まって労働条件の維持改善に取り組む団体のこと。多くの方は「労働組合は会社にあるもの」と思っているかもしれないが、そうではない。職種別に企業を超えて人が集まっている労働組合などもある。

正社員と派遣社員の待遇の違いの解決に一番適しているのは、個人加盟制の労働組合(個人加盟ユニオン)という労働組合だろう。個人加盟ユニオンは、日ごろからたくさんの労働相談に応じ、様々な解決手段を知っている。だから、会社との交渉をする際のアドバイスなどにも応じてくれる。

個人加盟ユニオンに相談すると、まず知識の豊富な組合員が相談や問題を法律的な整理をしてくれる。その後、会社に申し入れ、交渉の後に改善案を労使で取りまとめることになる。組合は皆で助け合って、それを力にしている組織だから、申し入れも、交渉も、同じ組合のメンバーが最後まで一緒に行動してくれるだろう。これが本当に心強く、励まされる。

声を上げたことによって、不利益な扱いを受けるのではないか、と不安になられる方も多いと思うもしれない。しかし組合に入ったからといって、不利益な扱いを受けることは労働組合法第7条が「使用者は、(中略)労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること」を禁止するとしている。

また、もしそういったことがあれば、組合が全力で守ってくれるから安心だ。

理不尽なことに我慢するのではなく、皆の知恵と力を集めることで、この新型コロナウイルスによる、派遣社員の苦境を乗り越えて行こう。

(編集:榊原すずみ

注目記事