地方自治体は、ニュースが日本語での対応のみ
新型コロナウイルスの感染拡大が都市部から地方へ広がる中、メディアや行政は、それぞれの地域についての最新の感染情報や注意事項を、もっと様々な言語で発信してはどうだろうか。
私の住む新潟県南魚沼市には、約60ヵ国からの留学生が通う国際大学があり、外国籍住民の比率は県内でもトップクラスだ。しかし、英語や他の言語での最新情報となると、東京や大阪などの都市部についての感染情報が大半を占め、周辺地域の情報が届きにくい。
東京都は英語、中国語、韓国語、NHK「やさしい日本語」で配信しているが、地方自治体レベルになると、日本語のみの対応が主流になる。 4月19日現在の新潟県内の感染者数は56人で、南魚沼市内はゼロだが、今後、その数が増えるかどうかは今の情報共有体制がとても重要になってくるのではないだろうか。
友人に現状を英語で説明すると、「知らなかった」
4月17日、新潟県の花角英世知事は、感染の疑いがある人に対する差別や偏見を理由に、感染の症状が出ている人たちが検査に行くことをためらえば、逆に感染を拡大させかねないという力強いメッセージを動画で配信した。
実際、地域の住民たちと話しても、「あの家は東京から帰省した人がいる」などと噂が迅速に広がっているようだ。陽性反応が出れば、自治体名、性別、年代、渡航歴などがメディアで報じられるため、人口が5万人の小さな地方都市では、人物の特定が容易にできてしまう可能性がとても高い。検査に行くだけでも、誰の目にさらされるのかわからず、ためらう人がいてもおかしくないのはないだろうか。それでは感染拡大を防ぐ意味でぎゃ効果だと思う。
こういった地方特有の現状を外国人の友人に英語で説明すると、「それは知らなかった」と驚かれる。現在のような全国に緊急事態宣言が出されている状況下では、地方特有の現状のみならず、刻一刻と変化する新型コロナウイルス感染拡大の情報や、彼らにも関係がある政策や制度の情報も重要になってくる。
ところが彼らが持つ情報は、英語で同時配信されるNHKの全国ニュースや、英語版がある全国紙くらいだ。前述した花角知事のビデオメッセージも配信は日本語だけ。英語での配信はされていない。新潟県は知事の主要メッセージを英語、中国語、韓国語、モンゴル語、ベトナム語、ロシア語に訳しているが、翻訳に時間がかかるためか、若干の時差が起きる。例えば、4月17日に出された外出自粛要請の通知は、21日時点でまだ翻訳されていない。NHKの新潟ニュースや地元紙の新潟日報の報道は日本語版だけで、英語版はない。
南魚沼市の林茂男市長も4月18日、「他地域への不要不急な往来は厳に控えてください」などと、市民向けに動画でメッセージを送ったが、他の言語に翻訳はされていない。スマートフォンなどでできるオンライン翻訳機では、正確な翻訳は難しい。
首都圏以外に住む外国人たちに、情報が届きにくい
私は南魚沼市内の在日外国人向けの情報共有スペースを作ろうと、「Uonuma Network Group」というFacebookグループを2018年に立ち上げて、現在790人のメンバーが参加している。
そこで、新型コロナウイルスについて書かれた新潟日報の記事の要約や知事や市長のメッセージを英語で発信すると、多くのメンバーから「ありがとう」「これがどれだけ私たちの助けになるか」などと感謝のメッセージが届いた。南魚沼市から60キロ離れた上越市でも作られている同様のSNSグループにもシェアされた。
地震や津波などの災害時は、全国ニュースがその被災地の情報をトップニュースで取り上げるため、英語で同時配信される。しかし、今回の様に全国規模で起きている出来事で、その影響が首都圏で多く出ている場合、主要メディアは首都圏の情報を中心に取り上げざるを得ないのだろう。よって、同じく新型コロナウイルス感染拡大の影響をうける首都圏以外に住む外国人たちに、各地域の情報が届きにくく、それが感染拡大の要因になりかねない事態になるのではないかと心配している。
東京など7都府県に緊急事態宣言が出た後も、知り合いの在日外国人たちは、「東京に行った人と接触しなければ大丈夫」や「感染したとしても若い人は重症化しにくい」などと言っている。10人以上で集まって桜並木で集合写真を撮ったり、学生寮の共同の台所で10人以上で料理をしたりしている。緊急事態宣言が全国に拡大された後も、東南アジア出身の友人は、8畳間の部屋で「映画でも見よう」と友人たちにSNSで呼びかけたりもしていた。
きっと、多くの地方都市で起きている
それでも、私は彼らに対し「軽率だ!」と言うことができない。
情報が行き届きにくい現状に加え、外国人ならではの問題もある。南魚沼市では、日本人住民のほとんどは車を持っているが、一方、車を持つ外国人は少ない。日本語ができない人も多い。だから食べ物ひとつをとってみても、車で外出してテイクアウトするとか、電話やスマートフォンを使って出前をするという選択肢がないのである。また経済的な現実もある。テイクアウトも出前も、彼らにとってはとても高価なものだ。生活保護レベルの奨学金で生活している留学生には、寮の台所で料理をするしかないのが実情なのだ。
おそらくこれは、僕の住んでいる南魚沼市に限ったことではないだろう、多くの地方都市で起きているのではないかと思う。
対応言語はそれぞれの地方の実情に合わせ、各地元紙や地方自治体は英語、中国語、韓国語、やさしい日本語での情報発信に努めてほしい。
(編集:榊原すずみ)