「アフター・コロナの基軸は文化産業や、文化を軸とする観光産業になると思います。商業的な、これみよがしな“JAPAN”ではなく、よりローカルでオーセンティック(正統派)なものが求められる中、アーティストとその表現の場を守り通さなければ」
そう話すのは、A.T.カーニー日本法人会⻑でナイトタイムエコノミー推進協議会の梅澤高明さんだ。芸術家・アーティストたちの発表の場が閉ざされた今、「アフター・コロナ」の時代に、日本の芸術文化はどのような道を辿っていくことになるのだろうか。
社会課題解決の基盤づくりに取り組むコンサルティングファーム「ケイスリー株式会社」は、芸術文化活動に関わる個人・組織を対象に、新型コロナウイルスによる影響についての調査を4月3日〜10日の間に実施。集まった3357件の回答をもとに、4月15日にオンライン記者会見が行われた。登壇した芸術従事者は、それぞれの立場から逼迫した状況について明かした。
DJ/プロデューサーであり、プロダクション「DIRTY30」の代表も務めるNaz Chrisさんは、「今インディペンデント・アーティストは転職せざるを得ない状況です。自粛が明けたら、クラウドファンディングなどで得た基金をアーティストに還元してくれるという事業者もいますが、私たちはそこまで待てるでしょうか」と、今にでも廃業せざるを得ない状況に強い危機感を示した。
同じく、周囲からのサポートだけでは限界があると語ったのは、吉祥寺で芸術複合施設「Art Center Ongoing」を運営する小川希さんだ。「かねてから関わりのある作家から力を貸したいと連絡がある。でも彼らにも生活があり、彼らに助けてもらうことは違うと思います。国の力添えがなければ、これまで作り続けてきたインディペンデントの流れが消えてしまう」と行政や民間への支援を求めた。
また、ダンサーの梅田宏明さんは、「数カ月、年単位で準備してきたものが今無駄になっています。ダンスは形として残るものではないので、二次活用もできない。ダンス教室が閉まっているため、子供たちのレッスンができないのも大きな問題です」と、パフォーマンスアートならではの苦境を訴えた。
政府は中小企業・個人事業主を対象とした「持続化給付金」と、世帯を対象とした「生活支援臨時給付金」を発表しているが、これらについても「舞台芸術はスパンが長いので、1年後に100万円で足りるのか。持続的な支援策があるといいのですが」(梅田さん)と懸念を示している。
調査で集まった3357の回答者の半数以上は「所属組織なし(個人・フリーランス)」で、職業としては「アーティスト」が71%と最も多く、次に「制作者・制作側」が34%を占める。多くの回答者が今困っている・心配なこととして「活動ができない」「収入が低下している」「行政からの金銭的支援が足りない」ことを挙げている。
この調査結果に対して、早稲田大学文学学術院教授で日本文化政策学会理事⻑の藤井慎太郎さんは、「財政基盤が脆弱な零細事業者やフリーランス労働者が文化セクターを支えている。国による給付金は肝心の層には届いておらず、東京都の感染拡大防止協力金も事態が⻑期化すれば不充分となる可能性が高い」と指摘した。
また、梅澤さんも、特に逼迫した状況にある小劇場やミニシアター、クラブ、ミュージックバーなどの「小箱」を、「文化をゼロからイチに生み出す場所」とし、「若い世代や実験性の高い作品を発表できる場であり、作家はそこから巣立って商業的に成功していく。小箱は文化の生態系を支える不可欠な存在です」と、その必要性を訴えた。
アンケートの自由記述のコメントや、登壇者の言葉からは、「現状と先行きへの多様な不安」が読み取れる。また、次の3点が求められていることがわかる。
・芸術文化活動への早急な支援や情報提供
・生活への早急な支援
・活動継続のための多様な支援
芸術文化の分野で活躍する人々は、数カ月、数年先のスケジュールまで決めながら日々準備を進め、活動を行っている。早急な金銭的支援はもちろん、活動再開時のサポートなど持続的な対策が求められている。
こうした状況を受け、「ケイスリー株式会社」では今後、各分野を横断し、次の芸術文化に必要なことに資金を循環させ、守り育てることを目的とする「アートインパクト基金(仮)」を設立する予定だ。