「新型コロナの影響で仕事がなくなり、貯蓄もありません。もうどうしたらいいのか…」
この間、私が事務局長を務めるNPO法人POSSEの窓口には、このような逼迫した相談が数多く寄せられている。
「新型コロナの影響で困った人のため」に現金支給や特例貸付など、さまざまな対策がとられてきたはずなのに、その対策では救われない人たちが少なくない。
POSSEに寄せられている相談事例をもとに、新型コロナによって生活が困窮している人たちの実態や対策の問題点を考えていきたいと思う。
相談窓口に毎日のように寄せられる切実な訴え
① 台風19号で被災。生活再建へと努力していたところに新型コロナが追い討ち。
「私は政府の30万円支給の対象になるのでしょうか?」
こう問い合わせてきたのは福島県在住の50代男性。4月から警備会社での仕事が決まっていたが、新型コロナの影響で休業状態になってしまった。
彼は2019年10月に東日本を中心に多大な被害をもたらした、台風19号の被災者だった。付近の河川が氾濫し自宅が半壊。仕事も失った。ようやく自宅の修繕にも目処が立ち、今後の生活を再建するために就職活動を行い、警備会社への内定が決まったのが1ヶ月前のこと。4月から働き始める予定だったが、新型コロナの影響で仕事がないため待機を命じられている。会社から休業補償についての話は一切なく、収入はない。
台風19号の義援金などによる貯蓄も残りわずかだ。警備の仕事もいつから始まるか目処が立たない。このままでは数ヶ月で生活が行き詰まってしまうという。
政府から現金30万円が支給されれば当面はなんとかなると思ったが、男性はもともと失業状態にあり「新型コロナの影響で収入が減った」わけではないので、今回の支給の対象にはならない。
(注)この男性のように、実際には支払われるべき休業補償が支払われていないという相談は多数寄せられている。支払われない場合の対応については以下の記事も参照してもらいたい。
② 日雇い派遣の仕事が見つからない。収入が途絶え貧困状態に。
「新型コロナの影響で日雇い派遣の仕事が見つからない。貯金もないし、今月もやり過ごせそうにない…」と訴える20代の男性。
聞けば、彼は昨年1月ごろまではレジャーサービス業種のアルバイトで生計を立てていたという。しかし上司から毎日のように激しいパワハラを受け、耐えかねて退職。その後はパワハラがトラウマとなってしまい、同じ職場で働き続けることに恐怖を感じ、日雇い派遣で食いつないできたという。
しかし新型コロナの影響で2月ごろから仕事が減少。3月はほとんど仕事が入らなかった。これまで貯蓄できるほどの収入もなかったため、一気に生活が困窮した。今月の家賃や公共料金の支払いもできない状況だ。
相談のなかで彼は「もう死ぬしかないと思っていました…」と涙ながらに声を詰まらせていた。
これまでギリギリの状況で生活してきた人たちは、収入が断たれた途端に貧困に陥ってしまう。しかし現金支給や特例貸付は「いますぐ」に必要な援助はしてくれない。支給を待っているあいだに生活が破綻してしまうだろう。
③ 「貸付の相談予約は2ヶ月先」。特例貸付が利用できない
30代女性は、2月末でこれまで勤めていた会社を退職。3月から個人事業主として営業販売を行うことになった。しかし開始早々、新型コロナの影響で仕事が減少。4月はほとんど仕事が入らなくなってしまった。
個人事業主なので休業補償は出ない。個人事業主向けの貸付や給付の相談に赴いたが、前年度は会社勤務だったため、個人事業主としての収入と比較できないことを理由に断れてしまった。代わりに社会福祉協議会の特例貸付(緊急小口資金)を案内された。けれども問い合わせたところ、「混み合っているので6月まで相談予約はできません」と伝えられたという。
今月末に家賃やクレジットカードなどの支払いが迫っているというのに、どうすればいいのか。いますぐお金が必要なのに相談できるのは2ヶ月後。さらにそこから申請して、実際に借りられるのはもっと先だ。これでは「緊急小口貸付」の意味がない。
なぜ困った人たちのための現金支給や特例措置が機能していないのか?
問題点①:「新型コロナの影響で減収・失業」という条件が排除を生む
現金支給や特例貸付など、この間出されている緊急対応の多くは「新型コロナの影響で」という条件が付けられている。これによって、もともと失業状態にあって収入がほとんどないような人たちは、緊急対応の対象から外れてしまうことになる。
新型コロナの影響か否かによって選別してはいけない。困窮した理由を問わず「いま困っている」人たちを対象にするようなかたちで支援していかなければ、多くの人たちが対策の枠組みからこぼれ落ちてしまうことになるからだ。
貧困が拡大すれば生きていくために消費者金融で借金をしたり、劣悪な条件の仕事をせざるをえなくなったりして、社会不安が広がる。また、支援の対象外となった人たちは、生活のために外出せざるをえない。結果的に感染症対策は無効化されてしまうことになるだろう。
問題点②:速やかな決定・支給ができない
上記の相談事例を見ればわかるように、もともと生活に余裕がない人たちは、収入が途絶えるとすぐに困窮してしまう。1ヶ月も2ヶ月も支援をまっている余裕はないのだ。
しかし現実には、申請者が殺到し、必要な人たちが申請すらできない状況が広がりつつある。厚生労働省によれば、社協の特例貸付がスタートした3月25日から4月4日までに、およそ1万8900件の申請があったという。今後も利用者は増加していくだろう。
社会福祉協議会の相談体制も決して盤石ではない。少ない人員で、申請者一人ひとりが条件に合致するのか否かを判定していたら、とてもこの状況に耐えられないだろう。対応の遅れは、多くの人の生存を左右する。
貸付要件を緩和し、申請方法もできる限り簡素化していくなどの対応を緊急にとる必要がある。窓口で業務にあたる職員の人員拡充や安全確保も課題だ。
特例の対象にならなくても、生活保護制度を活用しよう
生活に行き詰まったとき、頼りになるのが生活保護制度だ。新たに仕事を見つけることもできない状況だから、遠慮することなく利用してもらいたい。
厚生労働省もこの状況を踏まえ、生活保護の活用を促す通知を出している。速やかな保護決定を促すとともに、一定期間経過後に収入増の可能性があれば、通勤用自動車の保有を認める(自営業の店舗や機械器具等の資産も同様)としている。
各制度の使い方はこちらの記事も参考にしてほしい。
生活を守ることが感染拡大の防止にもつながる。たとえばドイツでは、生活保護制度(ハルツⅣ)の利用にあたって「漏れのない給付決定が、身元や受給資格の確認に、優先する」と指示し、申請手続きは電話、郵送、受付ポストへの投函、もしくはメールで行われている。そして資産要件は6ヶ月停止され、貯蓄があったとしても生活保護の利用が認められている。
ウイルスは人を選ばない。漏れなく人びとの生活を守らなければならない。にもかかわらず日本政府の対応からは、生活を守るという視点がほとんど抜け落ちているように思える。
この状況を変えていくために、引き続き現場から問題を提起し、具体的な提案を行なっていきたいと思う。
(編集:榊原すずみ)