悲鳴をあげる受験生たち 9月入学目指すバンコクの高校生が直面する、新型コロナの壁

バンコクのインターナショナルスクールに通う高校3年生は3つの不安と闘っています。
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smolaw11 via Getty Images

(文:米山一也/バンコクのインターナショナルスクール勤務)

タイでは新型コロナウイルス感染拡大の影響で今年の3月から学校閉鎖が続いていますが、それに一番影響を受けているのは大学進学を9月に控えた高校3年生の学生達です。私が勤務しているバンコクのインターナショナルスクールの受験生はいま、進路について不安を抱えています。

新型コロナの深刻さに不安な表情を浮かべる生徒達

私はタイのインターナショナルスクールで教師教員をしているのですが、現在、バンコクのインターナショナルスクールに通う高校3年生は3つの不安と闘っています。

1つ目は「拡大する新型コロナウイルスの感染」です。

学校のWebサイトでは2月の初旬頃から、「COVID 19 Update」という知らせが頻繁に更新され、スポーツや学校行事が次々とキャンセルされました。学校生活最後のスポーツ大会に向け、勉強で忙しい時間をやりくりし、朝は6時からトレーニングしていた高校3年生の落胆は大きく、見ていて本当に気の毒でした。

2月も中旬になり、他校で生徒が新型コロナウイルスに感染し、14日間の自主隔離を課せられた教員や学生が私達の学校でも出始めると、当初は「授業がなくなる」と言って無邪気に喜んでいた生徒達も状況の深刻さに不安な表情を浮かべるようになりました。

新型コロナウイルスという見えない敵がじわじわと彼らの日常生活に侵入してきたのを身を以って感じたのだと思います。これは世界保健機構(WHO )の統計 を見ても明らかです。タイの新型コロナウイルス感染者は1月31日は僅か14人でしたが、それが4月12日現在では感染者は2551人に急増して、38人もの方が亡くなられました。この2カ月半で182倍も感染者が増えたのです。学生達が不安を覚えるのも無理はありません。

オンライン授業まで中止になった

2つ目の不安は学校閉鎖です。「タイ教育省の通達により、学校は明日から2週間閉校します」。

そんな短いメールを高校達が校長から受け取ったのは3月17日の事でした。3年生にとっては5月から始まるIB(インターナショナル バカロレア)のテストに向けて最後の追い込みをするこの大事な時に学校が突然閉鎖されたのです。

私が勤めているインターナショナルスクールでは、高校2年生と3年生はほぼ全員IB(インターナショナル バカロリア)コースを受講します。

IBとは2年間に渡る大学入学資格試験のコースで、それで良い点を修めるとイギリスやアメリカの有名校(アイビーリーグなど)含め、世界の90ヶ国近くの国の大学に出願する事が出来ます。つまり、IBはインターナショナルスクールの高校3年生にとって大学進学に欠かせない重要なコースなのです。その試験は年に2回行われ、テストで良い点を取れば自分の志望大学に入学する事が可能になります。            

大学によってはIBの点数だけでなく、 SAT(Scholastic Aptitude Test) やTOEFLなどの成績や面接などの評価を総合的に判断して入学の合否を決めていますが、IBは世界的に認知された資格制度なので、良い点を修めれば大学入学に有利になるのです。

オンラインのクラスが2日後の3月19日から始まりましたが、それもコロナウイルス感染拡大により、IBの試験中止の発表と共にわずか3日で終了しました。

生徒達はこの2カ月余りのうちに通常授業→学校閉鎖→オンラインレッスン→IBのテストの中止、と新型コロナウイルスの感染拡大によって振り回されました。

この様に受験勉強の追い込みの時期に学習環境が目まぐるしく変わったのは大変だったと思います。私の担任する生徒の1人は「IBの試験があるのにもう毎日何が起こるのか分からない」と嘆いていました。

不明点が多く、先が見えない未来

3つ目にして最大の不安はIBの試験中止によって、進路が見えないこと事です。                          

なぜなら、希望する大学に進学する為この2年間勉強に打ち込んでいたのに、「IBで良い点数を取って志望校に入る」と言う目標が突然消えてしまったからです。IBのテストは11月にも受験出来ますが、多くの欧米の大学は9月に始まるので、そのテストを待っていたら、今年は大学に進学する事が出来なくなってしまいます。

IBは「それまで提出したエッセイや会話のレコーディングファイルなどのコースワーク、及び過去の学校の試験結果の分析や他校との比較データを考慮して点数をつける」と言っていますが、その採点方法はまだ不明点が多いです。

生徒達は直ぐに、「学校の過去の試験のデータから、どうやって今年の学生のテストの成績を正確に算出するのか?」「希望大学の入試事務所にIBの試験結果をどのように説明すれば良いのか?」といった疑問を学校のIBコーディネーター尋ねていました。

相次ぐ店舗の閉鎖や外出禁止令

最後のオンライン授業から2週間。バンコクではレストランやスポーツなどの娯楽施設は全て閉鎖され、病院やスーパーなどの日常生活に欠かせない店だけが細々と営業しています。そして、先週からは外出禁止令も発令されました。最近は新型コロナウイルス感染者の数は少しは減ってきたものの、平常化にはまだ程遠い状況です。例年ならば盛大にソンクラン(タイ正月)を祝うバンコクも今年はひっそりとしていて、町では誰もがマスクをして足早に通り過ぎていきます。

新型コロナウイルスはまだ収束の気配もなく、またIB試験などの中止もあり今年の高校3年生は将来に不安を抱いていると思います。でも苦しいのはバンコクの学生だけではありません。こういう時こそ自分の将来の為に何か出来る事を見つけて積極的に取り組んでもらいたいです。

私は今でも時々、彼らが学校の最後の日に見せた屈託のない笑顔を思い出します。

(編集:榊原すずみ)  

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