東京都からネットカフェへの休業要請により、居場所を失ったネットカフェ難民。
都は支援策として宿泊できるホテルを用意したが、実際居場所を失った人たちが福祉事務所などに相談すると「貧困ビジネス」として批判されてきた環境の悪い相部屋の宿泊所に入るよう案内される事態が起きた。
感染の恐怖により当事者から相談が相次いだ支援団体から抗議が起き、都は15日夕、可能な限り個室で対応し、個々の事情に合わせてホテルも含めた適切な施設を案内するよう各区市町村に連絡した。
相部屋の施設で、マスクなし。咳をしている人も。
「ネットカフェを出ることになり、自治体に相談したら相部屋の施設に入ることになった。周りの人はマスクをしていないし、咳をしている人もいる。耐えられない」
生活困窮者の支援をしている一般社団法人つくろい東京ファンドには、元ネットカフェ難民たちから悲痛な声が寄せられている。中には一度ホテルに案内されてから、相部屋の宿泊施設に移るよう求められた人もいるという。
「ネットカフェを出されて野宿になり、ホテルに入れたと思ったらより環境の悪い宿泊所に案内される。絶望するでしょう」。つくろい東京ファンドの代表理事・稲葉剛さんは憤る。
背後に「貧困ビジネス」
東京都の調査によると、都内のいわゆる「ネットカフェ難民」はおよそ4000人。支援団体は緊急事態宣言が出される前の4月3日、都に対して緊急要望書を提出。感染リスクを考慮した対策をとるよう求めていた。
小池百合子都知事は4月6日の会見で、ネットカフェ難民が一時的に居住できる場を用意すると表明。都保護課によると、一時的な居場所として提供するホテル代や支援事業拡大などを合わせ、12億円の予算を計上している。
しかし都保護課によると、緊急事態宣言に伴う支援についても、これまで通り無料低額宿泊所などの活用が優先。定員が埋まって新たに入れない場合はホテルを活用する、という流れになるという。各区市にもこうした通知を出しており、相談を受けた各区の福祉事務所などは通知をもとに支援を行っているとみられる。
しかし稲葉さんによると、無料低額宿泊所は「玉石混交」。個室が整備されているところもある一方で、ひと部屋に2段ベッドがいくつも置かれ、10人、20人という大部屋の施設もある。こうした劣悪な環境は「貧困ビジネス」と指摘されており、2020年4月から規制が始まった。ただ、3年間の猶予があり、いまだに狭い空間に多くの人が暮らす施設も残る状況だ。
感染予防のためにネットカフェに休業要請したにも関わらず、こうした環境の悪い宿泊所にも元ネットカフェ難民たちを案内している現状に、稲葉さんは怒りをあらわにする。
「従来の行政施策の枠組みにこだわりすぎている。今は緊急事態で、感染防止が重要。こうした宿泊所は人の入れ替わりも激しく、リスクが高い。危機感がなさすぎる」
東京都は「問題ない。『三密』かどうかは判断できない」→抗議を受け方針を変更
都保護課は4月15日午後、ハフポスト日本版の取材に対し「無料低額宿泊所などは休業要請の対象になっていないため、案内することは問題ないと考えている」と回答。
相部屋の宿泊所の場合、厚労省が避けるべきとしている「三密」に当たり、案内するのは不適切ではないかという質問に対しても「国の方からも、宿泊所を閉じなさいという話は出ていない。なので都も、そこを使うなとは言えない。施設については感染症対策をきちんととるよう通知は出している。いわゆる『三密』に当たるかどうかはこちらで判断できない」とし、対応は変えない方針だ。
稲葉さんはこうした都の対応について「今しなければならないのは、環境のよくない宿泊施設の人口密度下げるよう動くこと。新たに住まいを求める人に対してはホテルを活用し、すでに入居している人からも申し出があれば移動を認めるなど、柔軟な対応をすべきだ」と指摘。「このままでは宿泊所に入るよりも路上の方がましだと考える人が出て、路上生活者が増える可能性もある」と危機感を訴えていた。
都はこうした抗議を受け、4月15日夕に方針を変更したと、4月16日のハフポストの取材に明らかにした。「人によっては宿泊所のような集団生活が難しい人もいる。相部屋は確かに好ましくない」とし、区市町村に対して個々の事情に合わせ、ホテルを含めた適切な施設に案内するよう通知。無料低額宿泊所でも、可能な限り個室で対応するよう求めたという。
【UPDATE 2020/4/16 12:00】
都保護課が4月15日の取材後に方針を変更。無料低額宿泊所では可能な限り個室で対応し、相談者の事情に合わせてホテルを含めた適切な施設に案内するよう通知を出したことが分かったため、加筆しました。