「つまらない!お父さんとお母さんだけ、お仕事しててズルイ!!」
「どうしてダメなの?!コロナになってもいいから児童館に行きたい!!!」
床にうずくまり、カーペットを叩きながら叫ぶ。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、4月1日から児童館が利用自粛となった、都内の小学4年の男児の“日常”だ。
新型コロナウイルスの感染拡大で休校や外出自粛が長引き、子どもたちからストレスや孤独感を訴える声が相次いでいる。地震など災害時と同じように「非日常」が続き、終息の見通しが立たない中、家族や周りの大人は子どもたちの心の不調とどう向き合ったらいいのか。
「友達と会えなくて寂しい」
「家族みんながイライラしている。外に出て行きたくても感染が怖くて出られない」
「大人はトイレットペーパーの買い占めまでして我慢できてないのに、なんで子どもだけ学校に行くのを我慢しなきゃいけないの」・・・
NPO法人「チャイルドライン支援センター」(東京)にも、子どもたちからの新型コロナに関連する悩み相談が相次いでいる。
18歳までの子どもたちから、フリーダイヤルで相談を受け付ける「チャイルドライン 」は全国68団体が実施し、同センターはフリーダイヤルの事業の運営・管理を担う。センターによると、2月末から1カ月間で、新型コロナに関連する悩みが少なくとも300件寄せられた。休校で友達や先生と会えない寂しさや、家族との不和を訴える声が多いという。日中、自宅で一人で過ごす高校生からの相談が中心だ。
全国のチャイルドラインへの発信件数は昨年3月に3万6000件で、前月比2200件増だった。これに対し、今年3月は3万9000件で、前月比7000件増。同センター専務理事の高橋弘恵さんは「例年、年度末は入学や始業前の時期で不安を感じやすく相談が増える傾向にあるが、昨年と比べても増え幅が大きいのは新型コロナが影響している」とみる。
休校延長か学校再開かの判断は自治体ごとに分かれている。東京都や福岡県など感染者数の拡大が続く自治体では5月まで休校が続く。生活環境の変化を長い期間にわたって強いられる子どもたちに、保護者や教育関係者はどう接したらいいのか。
高橋さんは「外に出るな、言うことを聞きなさい、と押さえつけられると、より強くストレスを感じてしまう。学校に集まらないことが、それだけで感染を広げないために大きな協力になっているんだ、社会の一員として役割を果たしているんだ、と積極的に伝えてほしいです」
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは3月、新型コロナウイルス感染拡大の子どもたちへの影響を緊急調査した(有効回答数961件)。「学校が休みになって困っていることや心配なこと、気になっていること」という問いへの回答では、「日常生活が送れていない、外出できない」(30・6%)、「人と会えない、会いたい」(20・6%)、体調や感染拡大への心配(18・1%)、「勉強ができない、学力低下など学びに関わるもの」(15・3%)の順で多かった。※自由回答
東日本大震災や熊本地震の被災地で子どもの心のケアに取り組む、兵庫県立大の冨永良喜教授(災害臨床心理学)によると、感染拡大を受け、
・「恐怖で親の側を離れられない」という退行(幼児がえり)
・「落ち着かない、眠れない」という過覚醒
・ネガティブな思考に支配され「この世の終わり」と絶望する否定的認知
といった災害時と同じ心身の反応の訴えがあるという。
冨永教授は「自分がいつ感染するか分からない。感染拡大が終息せず進行中であり、命が脅かされる恐怖と不安が持続している」と説明。「症状に振り回されないために、これらは命の危険が迫る災害時に誰にでも起こりうる自然な反応なんだと自覚できることが大切です」と話す。
「頭の中で『自粛』=『我慢すること』と結びつくと、ストレスはより高まる。ウイルスをコントロールするために人との距離を保っている、今までの行動パターンとは違う生活をすることでウイルスに対処できる。せっけん手洗いでウイルスを壊せる。そう子どもが認識できるよう働きかけることで、状況を乗り越えられるかもしれないという自己効力感を高めることができます」
教育現場に対しても、「先の見通しが立たなければ希望を持てない。オンライン授業を早急に取り入れて、学びを保証しなければいけません。先生が子どもたちの表情を見ながらやり取りをするコミュニケーションも、子どもの安全感を高めるために非常に重要です」と指摘する。
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、自然災害で影響を受けた学童期・思春期の子どもの心を支える以下のようなポイントを、ウェブサイトで公開している。
・可能な限りこれまでの日課を続け、規則正しいリズムを作る
・選択肢を示して選ばせるなど、子どもが物事や自分自身をコントロールしている感覚を取り戻すような声掛けをする
・子どもの話に耳を傾ける
自宅が「危険な場所」に
日常生活が送れないストレスの訴えだけではない。
親の在宅ワークが推奨されたり、経済活動が滞ったりすることで、自宅が子どもにとって危険な場所になっている深刻なケースもある。
「夫が在宅ワークになり、子どもも休校となったためストレスがたまり、夫が家族に暴力を振るうようになった」
「自営業の夫が仕事がなくなるずっと家にいて、家族を監視するようになった。避難が難しく絶望している」
新型コロナウイルスの感染拡大で在宅ワークや休校が長引く中、DV被害者の支援団体には配偶者の暴力や子への虐待の相談が複数寄せられている。NPO法人「全国女性シェルターネット」は3月末、国に対し、感染が広がる緊急の状況であってもDVや虐待の相談窓口を閉じないことなどを要望した。
チャイルドライン支援センターにも、「家にいる親が暴力的。居心地が悪い」との訴えも寄せられた。高橋さんは「もともと家庭環境が良くなく、学校が居場所になっている子どもが特にしんどいと感じているようです」と危機感を募らせる。「身の危険を感じる時はすぐにSOSを出して」と呼び掛ける。
下の電話番号は、お父さんやお母さん、きょうだいなど近くの人から、あなたがたたかれたりきずつけられたりした時に、相談できる窓口です。心がつらかったら、電話をかけてください。
・チャイルドライン 0120-99-7777(午後4時〜午後9時)
チャイルドライン はチャットでも相談を受け付けている。
・子どもの虐待防止センター 03-6909-0999 (月曜〜金曜日 午前10時〜午後5時、土曜日 午前10時〜午後3時)
・児童相談所虐待対応ダイヤル 189