【1日で6000万円達成】映画監督たちのミニシアター救済。なぜ今、クラウドファンドを始めたのか

新型コロナの影響で大きなダメージを受けるミニシアターを救うべく、深田晃司監督(『よこがお』)と濱口竜介監督(『寝ても覚めても』)の2人が発起人となってMini-Theater AIDが立ち上がった。
クラウドファンディング・プラットフォーム「MotionGallery」代表の大高健志さんも発起人の1人
クラウドファンディング・プラットフォーム「MotionGallery」代表の大高健志さんも発起人の1人

新型コロナウイルス感染拡大により、日本中の産業が大きな打撃を受けている。

特に大きなダメージを負っている産業の1つが映画産業だ。

コロナ禍が顕著になり始めた今年1月から3月の映画館の興行成績は前年比36%ダウン、先々週末の興行収入トップ10の売上は前年比90%ダウンという壊滅的な数字を記録している。

緊急事態宣言が出され、多くの劇場が休館となる4月はさらに厳しい数字が出ることになるだろう。

とりわけ厳しい状況に立たされているのが、ミニシアターと呼ばれる独立運営の小規模映画館だ。中小規模の企業や個人によって運営されることが多いミニシアターは、飲食店やライブハウスなどと同様、一度キャッシュフローがストップしてしまうと苦境に立たされやすい。

名古屋シネマスコーレや東京のアップリンクなどが口々に苦境を訴え、相当数の数が閉館の危機に瀕していると言われる。

是枝監督も新海誠監督もデビュー作はミニシアター上映

ミニシアターは、数多くの優れた外国映画を日本に紹介し、また多くの新しい才能を輩出してきた。

『万引き家族』の是枝裕和監督や、記録的大ヒットとなった『君の名は。』の新海誠監督のデビュー作もミニシアター上映だった。無名だった上田慎一郎監督の『カメラを止めるな!』が社会現象となるきっかけを作ったのもミニシアターだ。

個性的な作品を数多く上映し、新しい才能を育んできたミニシアターは、日本映画の知られざる屋台骨と言うべき存在だ。

そんなミニシアターの苦境に映画監督たちが声を挙げ始めた。深田晃司監督と濱口竜介監督の2人が発起人となってミニシアターを救う基金「Mini-Theater AID」を4月13日から始める。クラウドファンディングによってお金を集め、参加を表明したミニシアターに均等に分配するという。

なぜ、ミニシアターを守ることが大切なのか、深田監督と濱口監督、そして2人と同じく発起人となったクラウドファンディング・プラットフォーム「MotionGallery」代表の大高健志氏に話を聞いた。

お金を集めるだけでなくスピード感も重視

Mini-Theater AIDは、MotionGalleryを活用して行うクラウドファンディングだ。苦境に喘ぐ全国のミニシアターに深田監督と濱口監督がみずから声をかけ、参加を呼びかけている。ファンディングによって集めた資金を、参加を表明したミニシアターに均等に分配する(※)。

すでに140程度の映画館に声をかけ、前向きに参加を検討すると回答した映画館は約60あるという。当然ながら、その多くは相当に経営状況が悪化しているそうだ。

濱口竜介監督(以下、濱口)「このコロナ禍でも何とかやっていけると答える映画館は極めて少なく、そのように回答した劇場は5%もないと思います。ほとんどの劇場で売上が30%、20%に激減していると回答しています。スタッフ全員の解雇を決めて、実質閉館というところもすでに出てきています」

Mini-Theater AIDは、特別な参加基準を儲けていない。小規模な映画館で、現状が続けばあと数カ月で倒産・閉館の危機にある劇場全てに参加する資格がある。

深田晃司監督(以下、深田)「財務状況を審査していると時間がかかってしまい、その間に倒産する劇場が出てきてしまいます。およそ数カ月で閉館の危機にある全てのミニシアターの自己申告で参加可能です」

4月7日に7都府県で、映画館も休業要請の対象となっている緊急事態宣言が出され、今後状況はさらに逼迫すると予想される。ただお金を集めるだけでなく、資金提供のスピードも求められているが、13日に立ち上がるこの基金はいつごろ映画館に現金を支給できる見通しなのだろうか。

大高健志さん(以下、大高)「今回はMotionGalleryとしても異例の短期間でのファンドになると思います。13日から4月末まで、長くても5月中旬までで区切り、集まったお金を5月末には映画館に渡せるようなフローを作っているところです」

目標金額は1億円とのこと。MotionGalleryでもいまだ達成したことのない数字だそうだが、濱口監督は「全国の映画ファンに届けば不可能ではないと思っていますし、届けないといけないと思ってやっています」と意気込んでいる。

世界の映画人が絶賛する「ミニシアター文化」を守りたい

濱口竜介監督
濱口竜介監督

Mini-Theater AID発足のステートメントで、深田監督は「世界の映画人はミニシアター文化に対して感嘆と称賛の声を上げる」と綴っている。独立運営の小規模映画館が、政府の助成金もなく運営されていることは、世界的に見ても相当に珍しいのだそうだ。

深田「映画は非常に経済性が強く、どこの国でも例えばハリウッドの大作のような娯楽性の強い作品中心に市場が成り立っていて、必ずしも商業性の高くない個性的な作品や新人作家の作品は上映場所を確保することに苦労しています。

韓国でも市民運動を経て、ようやくそういう映画館を確保することができた歴史がありますが、日本は公的支援が極めて少ないにも関わらず、アート系映画を中心に上映する映画館がたくさんあることにみなさん驚くんです」 

日本の映画産業におけるミニシアターの重要な役割の1つに、新人作家の発掘機能が挙げられるだろう。

新人監督の作品は当然興行的にはハンデを背負うし、個性的なインディペンデント映画は必ずしも一般的な観客の支持を得られるわけではないが、次代を担う才能はそういう場所から現れるものだ。

例えば、『万引き家族』でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した是枝裕和監督の長編デビュー作『幻の光』もかつて渋谷に存在した「シネ・アミューズ」というミニシアターで上映された。

『君の名は。』の新海誠監督は、一人で製作した短編映画「ほしのこえ」を「下北沢トリウッド」で上映したことで注目を浴び、その後長編デビュー作を今はなき渋谷「シネマライズ」で上映している。

今やカンヌ国際映画祭に参加するほどの実力者となった深田監督と濱口監督もミニシアターによって世に出るきっかけを得たそうだ。

濱口「初めて僕の映画を特集上映してくれたのは、今はなき渋谷オーディトリウムでした。その時、僕の映画を観てくれたプロデューサーが『寝ても覚めても(2018年カンヌ国際映画祭コンペティション部門作品)』を一緒に作りましょうと声をかけてもらったんです」

深田「最初に私の作品をロードショーしてくれたのは、アップリンク・ファクトリーさんです。2001年に『椅子』という自主映画を作って色々なところに応募したんですがどこにも引っかかりませんでした。

ある日、アップリンクに映画を観に行った時、ビデオをスタッフの方にお渡ししたら、半年後に急に電話をもらいまして、上映してくれることになったんです」

あくまで緊急措置、美談で終わらせてはいけない

深田晃司監督
深田晃司監督

今回、目の前の危機に対応するため、映画監督が発起人となってMini-Theater AIDが立ち上がった。作り手と映画ファンが協力して映画館を守ろうという動きは素晴らしいものだが、深田監督は「これが美談で終わってはいけない」と警告する。

深田「今回みたいに有志が集まって声を上げることは大事ですけど、これが当たり前になってはいけないと思います。

これは緊急措置に過ぎなくて、本来はこういう危機が起きることも想定して有事により耐えられるような制度をあらかじめ作っておく必要があるんです。

そもそも、助成の少ない日本においてミニシアターの経営は、普段からして大変なはずで。映画が好きだからと、ときには人生を投げ打つ覚悟で運営している人々のおかげでなんとか映画文化は成り立っている状態なんです。

今回のように、何かあったらあっという間に危機に陥ってしまう状況自体が、そもそもの問題です。

私はよく日本の文化行政について、フランスや韓国と比較して話しますが、フランスでは映画チケット代の10%、韓国では3%がプールされ劇場に再配分される仕組みになっており、小さな映画館でも普段から比較的余裕を持った経営ができているわけです。

本当だったら、大手映画会社が率先して声を上げてほしいと思っていますが、やってくれないから仕方なく我々が声をあげているんです」

深田監督は、このような状況を作ったのは「文化に携わる我々がその大切さをきちんと言葉にしてこなかった」ことも原因の一端だと言う。 

深田「海外の映画人に文化予算が多くて羨ましいと言うと、怒られるんです。自分たちはそれを勝ち取るために戦ってきたんだ、簡単に羨ましいなんて言ってほしくないと。

今の危機は、そういうアクションを日本の文化関係者がやってこなかったことのツケとも言えるでしょう」

大高氏も声を上げることの大切さと、そういう動きを冷やかに見る意見に対して反論する。

大高「Mini-Theater AIDは、change.orgで展開している署名運動「#SaveTheCinema」とも連携していますが、こういう活動をすると映画だけが助かればいいのかと誤解されるかもしれません。 

当然、そんなことは思っていなくて、公的な再分配が機能していないぞという声を可視化すること自体にも意味があると考えています。公共(=PUBLIC)とは、お上の事ではなく、我々同じ社会に属する個々人の参加によって紡がれていくものなはず。

なので、映画に興味ない方にも自分ごととして捉えてもらえると嬉しいです。そしてそれぞれの場所で声を上げ、そして連帯していければと思います」 

クラウドファンディングはその様な声を上げ、そしてなにかを実現するための仕組みとしてもともと公共性の高い事業だと思い運営してきました。

しかし、今回のコロナ禍で社会にこれまで以上に大きな分断の歪みが生まれかねないと感じています。これを防ぐためには、国家予算のアロケーションに対しての我々1人1人の向き合い方も重要になってくるかもしれません」

濱口「おっしゃる通りで、これは映画だけの話じゃなくて、単純に困っている人を可視化する作業の一環です。なんで映画だけなんだと思われた方は、ご自身でも困っていると声を上げていいんです。

困っている人を可視化すればそれを助けようという動きも連鎖的に起きるはずです」

実際、学校の臨時休校に伴う所得補償から風俗業に従事する人は対象外とされていたが、それに対する異論が噴出した結果、対象となるよう修正された。困っている人が可視化された結果、行政が動いたのだ。

Mini-Theater AIDは、ミニシアターがコロナ禍を乗り切るための緊急策であると同時に、文化を守るために声を上げることの重要性も同時に説いている。目の前の危機を回避するだけではなく、本当に文化を大切にする国にしていくための持続的な議論ができるかどうかが、いま問われている。

Mini-Theater AIDのクラウドファンディングサイトはこちら

※クラウドファンディングで集まった金額から、クレジットカード会社への決済手数料5%、及びリターンをご用意するための運営事務局の手数料(85万円)を引いた金額を、参加するミニシアター運営団体に寄付の形で分配します。

(文:杉本穂高/編集:毛谷村真木

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