世界各地で感染が拡大している新型コロナウイルス。日本ではリモートワークの推奨や不要不急の外出の自粛要請、小中高校の臨時休校などにより、私たちの生活は大きな変化を迫られています。
タレントのLiLiCoさんが、世間を騒がすイシューからプライベートの話題までホンネで語り尽くす本連載。今回は「エンタメの力」がテーマです。
30年前に来日して以来、独自の視点で日本を見つめ続けてきたLiLiCoさんは、今どんな時間を過ごしているのでしょうか。今だからこそ観るべき5本の映像作品とともにご紹介します。
外出自粛は、忙しくてできなかったことをする時間に
新型コロナウイルスの影響で、みなさんの生活はかなり変化していると思います。私も家にいる時間が増えました。
日々深刻な状況になって不安な人もいると思うけど、私たちができる最善策は、家にいること。だから、なるべくできなくなったことを考えないで、毎日毎日「忙しくてできない」って後回しにしていたことに目を向けてほしい。
いつも忙しく過ごしてきたけど、私も急に家で過ごす時間ができたから、散らかっているウォークインクローゼットを掃除しました。フリーマーケットに出すものを全部まとめて袋に詰めたり、はじっこにたまったホコリを掃除したり……。エンドレスだよ(笑)。
家事や掃除だけじゃなくて、ほかにもやりたいことがいっぱいある。皆さんも、「時間ができたらいつかやりたいな」って思ってたことがあるでしょう?
もし映画やドラマを観るなら、埋もれてしまった作品をゆっくり観る機会にしてほしいな。忙しい日々のままだったら観逃していたかもしれない小粒な名作や、自分の人生と向き合えるような作品を紹介します。
ゲイカップルとダウン症の少年の深い愛情物語
『チョコレートドーナツ』(2012/アメリカ)
舞台は1979年のカリフォルニア。ショーパブのシンガー、ルディと検事官ポールのゲイカップルが、母親に育児放棄されたダウン症の少年マルコと暮らし始める。彼らは家族のような愛情関係を築き、少年の保護官となるが、周囲は冷淡な反応。偏見や司法の壁により、少年と引き離されてしまう。日本公開前に、アメリカ中の映画祭で上映され、各地で観客賞を総ナメにした。
公開された2012年、間違いなくナンバーワンだったこの映画。世の中の誰もが彼らのような思いやりをもって人を愛せたら……と思わされる傑作です。主人公が歌うボブ・ディランの『I Shall Be Released』もすばらしいの。まさに、魂の叫び!
結末は、社会への嫌みや皮肉でもあり、メッセージでもあり……。時間のある今だからこそ、一人ひとりがゆっくり考えてみてほしいな。
この作品がヒットしたことを覚えている人もいるかもしれませんが、実はそこまでたどりつくには紆余曲折ありました。当初、上映館は全国で1館だけだったんですよ。だけど、私が号泣しながら『王様のブランチ』(TBS系)で紹介して、翌週に140館に増えたんですよ。
教えてくれたのは、映画の宣伝担当の女性。泣いてお礼を言うので「何言ってるの、こんな傑作、誰だって紹介したくなるでしょう?」って言ったら、返ってきた言葉を聞いてびっくり。
「いろいろな局、番組に売り込んだけど、どこのプロデューサーにも『ゲイカップルとダウン症の映画なんて紹介できないよ』って断られたんです」
日本で上映される前にアメリカで高い評価を受けていた傑作が、偏見によって紹介されもしなかった。頭にきましたね。エンターテインメントをめぐる意識が遅れていると、傑作が埋もれてしまうんです。
テレビは(出演者やスタッフなど)LGBTQの人たちに支えられている業界なんだから、そろそろトップも意識を変えていかなきゃいけないと思いますよ。
パロディ満載、とにかく笑える刑事ものアクション・コメディ
『ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-』(2007/イギリス)
あまりに優秀すぎるがゆえに上司や同僚からうとまれ、ロンドンから田舎町へ左遷されてしまった、イギリスの超エリート警官ニコラス。犯罪発生率ゼロの平穏な町で、いい加減な刑事ダニーとコンビを組んで仕事をすることに。やがて、この町の不穏さに気づき始める。刑事映画のパロディも満載。本国イギリスで3週連続1位の大ヒットとなったアクション・コメディ。
とにかく面白くて笑える! コメディであり、サスペンスであり、スプラッターであり、ちょっとホラーも混じっていて……なんでもアリなのにすごくスタイリッシュにまとまっている最高の娯楽映画です。
監督は『ベイビー・ドライバー』で知られるヒットメーカーのエドガー・ライト。主演はサイモン・ペグとニック・フロスト。豪華でしょう?
でも当時、彼らはまだ日本では無名で、もともと公開の予定がなかったんですよ。映画ファンたちの署名で日本での劇場公開が決まったの。
ただ、知られざる傑作なのは事実で、いまだにTSUTAYAに行って「『ホット・ファズ』どこですか?」って聞くと、「『ゴッド・ファーザー』ですか?」って言われちゃうほど知名度が低いの。
ちょっと気分がふさいだときにピッタリ。この作品が好きなら、同じくサイモン・ペグとニック・フロストが共演する『宇宙人ポール』もオススメよ!
生涯ベスト1、人生は自分のためにある
『歓びを歌にのせて』(2004/スウェーデン)
世界を飛び回って活躍する天才指揮者ダニエル。舞台上で病に倒れた彼は、真っ白になったスケジュールを見て、故郷の町へと身を寄せる。小さな聖歌隊と出合い、少しずつ村民たちに心を開いていく主人公。一人ひとり不満や悩みを抱えた村民たちもまた、音楽によって少しずつ変化していく——。
家庭内暴力を受けている人、差別に悩む人……。さまざまな事情を抱えた人がいるけれど、みんな歌っているときが一番幸せで、もっとも自分らしくいられる――。これは「人生は自分のためにある」という映画なんですよね。
この作品に出合ったのは、30歳なかばのとき。長い下積みを経て、ようやく仕事が忙しくなった頃でした。
仕事って、どんなに好きでも、人に合わせることばっかりですよね。みんなの都合を合わせて、求められたことを果たしていく。プロとしていろんな仕事が求められるほど、自分らしさを失わずにいるのは難しい。そう感じていたときだったから、この作品のメッセージにすごく心打たれたんです。
もしかしたら、これから働く若い人には良さがわからないかもしれない。でも、異なる立場の人が直面しているさまざまな問題を取り上げた映画だから、30代以上の人なら考えさせられることがあるんじゃないかな。
年間400本以上の映画を観ている私ですが、この作品が生涯ナンバーワン! 脚本、キャスト、ストーリーともにすばらしいし、音楽も最高なの。劇中歌である『カブリエラの歌」が流れるだけで泣けます!
ブラックジョークに下ネタも。社会風刺満載の大人のアニメ
『サウスパーク』(1999~ / アメリカ)
1997年からアメリカで放送されているアニメ。コロラド州の小さな町「サウスパーク」に住む小学生の少年4人が主人公。人種やセクシュアリティなど多様性に富んだキャラクターたちが、時事問題や社会現象について、ブラックジョークや下ネタを交えつつ風刺たっぷりに笑い飛ばす。アメリカではすぐれたテレビ番組に送られる「エミー賞」を何度も受賞。2019年10月から、日本のNetflixで第15~21シーズンが放送中。
私の声優デビュー作でもある『サウスパーク』。1999年から2007年にかけてWOWOWで放送されたときに、主人公の一人であるカートマンの声を担当しました。今回のNetflix版でも同じくカートマンを演じています。
『サウスパーク』のアニメを観たことがない人、日本にはたくさんいるはず。でも、『サウスパーク』がヒットしていないのは、実は日本だけなんですよ。その理由は、やっぱり日本が時事ニュースや社会問題に対する意識が低いからだと思う。
『サウスパーク』って、その1週間に社会で起きたことを書き出して、脚本が作られているんですよ。政治や経済にまつわる問題や事件だけじゃなくて、映画スター同士の恋愛スキャンダルも含めて取り上げて、風刺している。
表向きはバカバカしい過激なアニメかもしれないけど、すごく深くて考えさせられるし、実は感動するところもある大人のアニメ。1話30分もないから、気軽な気持ちで観てみてほしいな。
ハエになって恋敵に復讐!? スカッと笑えるインド発アクション・コメディ
『マッキー』(2012 / インド)
青年ジャニは、家の向かいに住む慈善活動家ビンドゥに好意を寄せていた。ジャニの告白で二人は恋仲になったのを知り、同じくビンドゥに恋する建設会社社長のスディープが激怒し、ジャニを殺害。ジャニは小さなハエとなって転生し、ビンドゥを守るためスディープに復讐を誓うのだった。タイトルの「マッキー」はインドの言葉で「ハエ」の意味。
最後に紹介するのは、スカッと笑えるインド映画! まず、設定が最高に面白いでしょ?
「ハエになったって復讐できないじゃん」と思うけど、意外とできることが多いんだよね(笑)。小さいから鍵穴からでも窓の隙間からでも家の中に入れるし、顔の周りをブンブン飛べば、休むことも話すこともできなくなっちゃう!
ライバルのスディープが車に乗っているとき、フロントガラスにかかった砂のうえに体をすべらせて、「KILL YOU(殺すぞ)」って描いたりね(笑)。
体が小さいから鍛えなきゃと思って、カセットテープをランニングマシンとして使ったり、
綿棒で筋トレしたりもするの。アイデアがめっちゃ面白いんですよ。
踊って歌ったりする映画じゃないし、上映時間も2時間ぐらいだから、苦手意識を持たずに観てみてほしいな。すすめる人、すすめる人、みんな「最高!」って言ってくれる作品だから。
家にいる時間の長い今こそ、大切な人とコミュニケーションを
今、コロナの影響でいろいろな映画が公開延期になっていますが、今はシリーズものの過去作品を観なおす機会でもあるよね。
自分が若いときに観た映画を観なおすのも、すごくすてき。例えば『フラッシュダンス』(1983/アメリカ)とか『グーニーズ』(1985/アメリカ)とか。時代を感じるかも知れないけど、「40年前にこんなことできたんだ!」なんて発見もあると思う。
何より、自分を見つめ直すいい機会になりますよね。私も先ほど挙げた『歓びを歌にのせて』を2、3年ごとに観なおすけど、年を重ねて別の人に共感できるようになったり、違った発見があったりします。
それに、映画デートが一般的なように、シャイな日本人にとって映画を一緒に観るのは会話のタネになるじゃない? 家だったら、映画観ながら話してもいいし。その作品のテーマのままに少し脱線して、お互いの考えていることを話すのも良い。”
こんなときだからこそ、家族や大切な人とおしゃべりするのってすごく大事。
「コロナ離婚」なんて言葉も出てきたけど、家で顔を突き合わせてめいっぱい会話できるなんて、今しかないと思うんですよ。夫婦のすれ違いを埋めるいい機会じゃない。相手のことをより深く知る時間にしてほしい。
うちも忙しかった夫と二人で家にいる時間が増えて、すっごい仲悪くなるか、すっごい愛が深まるか、どっちかだろうと思ったの。でも夫が一緒に家のことをしたり食事をしたりしたいとわかって、家事もしてくれて、彼をもっと好きになったんです。
いまは深刻な状況ですが、新型コロナウイルスの流行はいつか終わりがきますから。そのときに大切な人と一緒に前を向くために、今こそコミュニケーションを大切にしてほしいな。そして何が出来るのか、自分の力で考えること。賢くなる機会でもあると思います。
映画はエンドロールで終わりではなく、そのあとの会話も頭の中の回想も映画のうちだからね。
(取材・文:有馬ゆえ 写真:川しまゆうこ 編集:笹川かおり)