新型コロナで、葬儀もライブ配信 「離れていてもお別れしたい」

新型コロナの集団感染のリスクを避けられない葬式。参列できない人も、大切な人との別れの時間を共有できるよう、「葬儀のライブ動画」を配信するサービスも始まった。
時事通信

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない中、多くの人が集まる葬儀の場にも影響が広がっている。3月には、国内でも通夜や告別式の参列者の間で集団感染が発生。家族だけで火葬のみ行うなど規模を大幅に縮小するケースが相次ぐ一方、参列できない人も故人との最後の時間を共有できるよう、葬儀の動画をネットで生配信するサービスを始めた企業もある。 

 「通夜をライブ配信してもいいでしょうか」。北九州市の永明寺の住職、松崎智海さん(44)は4月5日、葬儀会社との打ち合わせでこんな依頼を受けた。遺族が、新型コロナの影響で参列できなくなった東京都の親戚に、葬儀をリアルタイムで見せたいのだという。新型コロナの感染拡大によって寺に直接来られない人に向けて、3月にもYouTubeで彼岸の法要をライブ配信した松崎さん。遺族の申し出に二つ返事で承諾した。遺族はスマホで通夜を撮影したという。

葬儀をリアルタイムで視聴できるページ
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 「コロナのせいで親戚の葬式を諦めた。心の整理がつかない」

「妊娠後期で産婦人科から許可が出ず、葬儀にも四十九日にも出られなかった。今回に限らず、常にライブ配信かテレビ電話をOKにしてほしい」

「同じ思いを共有して故人に手を合わせることに、手段は問わないのでは」

 松崎さんが葬儀の動画配信の件をツイッターでつぶやくと、配慮を支持する声が続々と寄せられた。松崎さんは「コロナを理由に参列を断念し、心残りになっている人もいる。葬儀の場に直接集まれるのが一番だが、今はやむを得ない状況。ネットを活用することで、参列できない人も『何もできなかったわけじゃなく、何らかの形で関われた』と思える」と前向きに受け止める。

冠婚葬祭事業を展開する「メモリード」(群馬県)は4月から、葬儀をライブ配信する無料サービスを開始した。元々、「遠方に住んでいたり高齢で長距離の移動が困難だったりする人も、故人とお別れできるようにしたい」と企画を進めていた中、新型コロナの混乱が発生した。

サービスでは、メモリードがカメラなどの機材を準備し、スタッフが葬儀の様子を撮影。喪主がLINE、TwitterなどSNSやメールで親族や友人に通知を送信する。受取人は、スマホやパソコンで通知のURLを開くとYouTube上で通夜や告別式の様子をリアルタイムで見ることができる。配信サービスと併せて、香典のオンライン決済も可能にした。

愛媛県松山市では3月下旬、通夜や葬儀に参列していた40〜80代の男女6人が集団感染した。その後、感染者の濃厚接触者にも感染が広がり、大人数が密集した場所で行われる葬儀の感染リスクの高さが露呈した。

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終活関連ポータルサイトを運営する「鎌倉新書」によると、全国の提携葬儀社128社を対象に3月に実施したネット調査で、47.7%が「新型コロナウイルスにより参列者が減少した、または今後減少していく」と回答した。集団感染の発生への懸念や、感染者数が多い首都圏に呼び寄せることへの抵抗感があるとみられる。

 東京都など4都県で葬儀サービスを提供する「東京葬儀」によると、3月に入り、通夜や告別式をせず火葬式のみを希望するケースが増加。新型コロナウイルスの流行以前に比べて3割ほど増え、現在は依頼数の半分を占めるという。チーフプランナーの古橋篤さん(35)は「ここ2、3年の葬儀自体の縮小傾向を、新型コロナがさらに加速させていることは間違いない」と言い切る。東京葬儀でも、家族の希望があれば葬儀のライブ配信を検討するという。

 葬儀関連サービスのITベンチャー「よりそう」は、近親者のみで葬儀をした後、新型コロナが収束してから再度人を集めて葬儀を行う「後葬(あとそう)」のサービスを始めた。感染リスクの高い時期を避けた上で、年内にもう一度通夜や告別式をする仕組み。広報の高田綾佳さん(31)は「今は人を呼びたくても呼べない状況なので、遺族にとって満足のいく場を実現したい」としている。申し込みは4月末まで受け付ける。 

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